* There ain't no Red Rose without a Thorn -5- *












 日常的にカラスの行水である赤澤は、後から入ってきておきながら観月を置き去りに先に出ていった。「これ以上浸かってたらゆで蛸になる」とか言いながら。
 まったく、情緒の欠片もない。嫌気が差しながら観月はもう暫し薔薇風呂を堪能することにした。
(赤澤…か。要注意人物だな)
 薔薇肌と聞いて遠ざかる者はこれまでいくらでもいた。今更傷付くこともない。しかし好んで近付いてくる者は少ない。近付いてきたとしても興味本位であり、実際にその肌を見せると怯えたように離れていくか笑いものにするか。どちらにせよ経験的に禄なことはなかった。
(ボクがこの体質でなかったら、仲良くなれたのだろうか)
 ふと頭に浮かび考える。明るく裏表がなく、自ら引っ張っていくタイプ。赤澤はそういう奴だ。自分は……敢えていうならば暗いし裏表だらけだ。周りのことは陰から支えたい。まるで正反対。
 正反対だから相反したか、それともうまく嵌まっただろうか。まるで凸凹のピースを埋めるかのように…。
(いずれにせよ今生では関係のないことだな。考えるだけ無駄だ)
 何故なら自分は人と必要以上に距離を縮めるつもりはない。今までもなかったしこれからもない…そう思っている。
 しかし赤澤は詰めてくるのだ。その距離を。いとも簡単に。パーソナルスペースの内側に何の躊躇いもなく潜り込んでくる。
 先ほどもそうだった。極自然に隣に佇み、同じ方向を向いて会話をする。世間話に始まり、身の上話をしたり、真剣にテニスについて議論をしたり。
 あんなの、まるで。
(まるで……チームメイトじゃないか)
 ……チームメイトなのか。
 そう気付いた瞬間、肌の表面がむず痒くチリチリとした。はっとして鼻から大きく息を取り込んでその薔薇の香りを堪能すると、フー……と肺の中身を吐き切った。
 危ない。そんなことを、嬉しいだとか居心地が良いだとは、感じてしまってはいけない。…気付いてはいけない。
(やはり赤澤には要注意、ですね)
 再確認したところ湯船から上がり、肌に張り付いた花びらを浴槽に落とした。一面に広がった赤。慣れた手順で清掃を終えると浴室を後にした。


  

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16