* LOVE PERFUME -1- *












シャワーを浴びて、体がピカピカな時も。
二人で居たら、なんとなくその流れになった時も。

景吾は必ず、行為の前の“一吹き”を、欠かさない。


独特の香りがあたりに漂うのだ。



それが前から、気になっていた。



「ねぇ、景吾がいつもつけてる香水って、どこの?」



そして事の始まりは、私の小さな疑問から。



「どこのって、どういう意味だ」

「だから、どこのブランドなのかな〜って」



その質問を聞くと、景吾は笑った。
景吾が笑い止むまで私はどうすることも出来ず、
恥ずかしさ交じりに不機嫌な表情で景吾を睨む。



「俺様がそこら辺のブランド物で満足すると思ってるのかよ」

「じゃあ何なのよ」

「俺好みに作らせた、特注の香水だ」


さすが、お坊ちゃま。
そうだよね。景吾はそういう人だったよね。

でもオーダーメイドというだけあって、
その匂いはまさに景吾にぴったりの匂いなのだ。
強そうで、でもどこか儚そうで、
表向きは涼しげなのに奥に熱さを秘めていて、
どこかしら、官能的。


「この匂いを嗅いだことがあるのは、
 作ったやつを覗けば…俺とお前の二人、それだけだ」


そう言って、景吾は私の額にキスをした。
首元辺りからか、匂いが漂ってくる。

ドキン、と心臓が震える。


おかしい。
この香りを嗅ぐと、私、おかしい。



「ねぇ景吾…」

「あぁん?」

「その香水さぁ…媚薬とか、入れてない…よ、ね?」



一瞬の間があって、「……媚薬…?」と、
景吾はあからさまに嫌そうな顔をした。


「何が言いてぇ」

「いや、もしかしたらそんなこともしてるかなー…なんて」


笑って誤魔化そうとする。

言えるもんですか。
その匂いを嗅ぐたびに、

アソコが疼くだなんて。
溺れるようなキスを想像してしまうだなんて。
早く入れてほしいと思ってるだなんて。
強く突いてほしいと思ってるだなんて。

言えるもんですか。



「俺様はそんな狡い真似はしねーんだよ」

「あー、ごめんなさーい!」


謝りながら、私は半分はそのやり取りを楽しんでて。

それでもやっぱり、疑ってしまう。
余りにもその香りは、性欲をそそる。

駆り立てていく。



思わず、問う。


「本当に入れてないの〜?」

「しつこい女だな。俺様の言うことが信じられないのか」

「そ、そういうわけじゃなくて…」


焦って弁解したけど、時既に遅し。

何か楽しいことを思いついたのか、
景吾は嬉しそうに言った。



「どうやらお仕置きが必要みたいだな」



景吾が不敵に笑ったのが、気になった。



「お、お仕置き…?」

「大したことじゃねぇよ」


そう言って、景吾は笑っていたけど。
……どうだか。



いつも通りの行為が始まる。
何度も何度も、舌も唾液も混ぜあうような深い口付けをする。
全身に赤い花びらを咲かせるように口付けをされる。
その赤さは、首元に始まり、いつの間にか、下腹部へ降りていく。


そして、チュッ…と可愛らしい音がそこで響く。


「っ…やぁ…景吾ォ……」

「ん、どうした」


ふるふると私は首を横に振る。



「きもちいい…の……」

「そうかよ」



景吾はにっと笑う。

ぺろりと舐め上げられたそこはぶるっと震え、
受け入れる準備は万全、と言わんばかりに
とろとろに蕩けているのを感じた。
景吾もそれを理解している。


「入るぞ」


耳元での、囁き。

また匂いが鼻に触れ、
ぶるりと全身を震わせ私は小さく頷く。



ぐっ、と、体重が加わる。
言葉には言い表しがたい重圧が加わって、
しかしその直後には、快感。

ああ、景吾。景吾……。



「景吾、好き…もっと、奥、入れて…っ」

「当たり前だろ」


少しずつ奥に押し進めながら。



「お前にはお仕置きしてやらなきゃならねぇからな」



そう言って、景吾がニヤッと笑うのが霞んだ視界の先に見えた。



その直後、私は言葉の意味を知ることになる。

いや、
少なくとも知ったつもりにはなっていた。




「んんっ……景、吾ぉ……ああっっ!」


いつも以上に激しく突かれる。
腰が自然と持ち上がって、動いてしまう。


激しい行為。これこそが、お仕置きの正体だと理解していた。



「い、イク……イっちゃう、んぅっ…」

「まだ早ぇよ。我慢しろ」

「ゃ…あ……」


熱を咥えこんだ秘部が、果てる先を求めて波を打つ。
だけどまだ、到達させてはくれない。

私の腰を固定したまま、自分自身も動かない。
イキそうで、イケない。


だけど全身の神経が、そこに集中してしまったよう。
動かなくても、確かにそこにある景吾の欲望が、
私の中に収められていて、内側から、押し上げてきていて……っ。



「景吾ぉ…イっちゃうってば…」

「まだだ、まだ足りてねぇよ」

「けい……っ、ひっ、ぃやぁぁぁっっっ!!!」



これは本格的に“お仕置き”をするつもりなのか。
景吾は一気に、勢いよく、私の体からソレを抜いた。

埋まっていた部分に隙間が出来て、
物足りなそうに私の秘部は短く痙攣した。
絶頂には、達することが出来ず。



「やだ……景吾」

「何がイヤなんだよ」

「早く…戻して……」

「あぁん?はっきりと言われねぇと分からねぇな」


意地悪そうに笑い、景吾は言う。
だけど限界に近い私は、その言葉に従うしかない。



「入れて……私の中に…景吾が欲しいの……!」



羞恥とか、そんなの、知らない。



景吾は嬉しそうに笑うと、
私の耳元で「了解」と囁いた。
また、独特の香りが鼻腔をくすぐる。
カッと顔が熱くなるのを感じた。


もう一度、その熱さが、私の陰部に当てられた。
そして、先ほど一気に抜かれたのと同じように、
ためらいなく一気に差し込まれる。


「やあああっ!」

「ほら、望み通り挿れてやったぞ。もっと感ジロヨ」

「け、けいご…っ!そ、そこっキモチイイッッ!あ、あっ…」


景吾の腰が前後して、私の中を出入りする。
いつの間にか、私の腰も一緒に動いている。

一線を、越えた。


「あっ、あっ、もうムリ!あっ、ァ……やぁぁっ!!」


ついに、耐え切れずに堕ちる。

その部分と同じ動きで全身がビクンビクンと跳ねる。
切ないほどの心地よさに酔いしれる、ひと時、

のはずなのに…。


「え……ぁ、アアァッ!!!!!!!!!!!
 ア!アッ!ァんっ!あっあっあっあっ、ゃ、ぁっ…ああああああああっ!!」


普段は、私がイクと一旦動きを止めるのに、
今日の景吾は、止まらない。



「もうっ!ひぃやぁッ、ダメ…ェっ…あん、あっ、あっ、やめ…ひゃあっっっん!」

「まだだ」



余韻に浸る間もなく、第一波が収まることなく、
そのまま更なる山を上り詰める。

ビクビクと身体の震えが止まらない。
発狂しそうになり、私は縋るように言う。



「ごめ、なさ…っ、もっ…や、やぁ、やめ……あ、あああ…あッッ」

「てめぇ一人で気持ちよくなってんじゃねーよ」



そういうと景吾は、少し腰の動きを早める。
私は喘ぎを、止めることが出来なくて。

遠退いていきそうな意識の中、景吾の顔を見た。
普段は見せないような切ない表情に眉を潜めて、
テニスでフルセット戦ってる時みたいに汗を掻いて。

ふと、空気が動いた気がした。
あの匂いが、通り抜けた。

それだけで、絶頂から降りてこられない。
ズルイよ、景吾は。ズルイよ。


景吾の息がちょっと荒くなったかな、と思うと、
「うっ…」と小さく唸って、
さっきみたいに一気に引き抜くと、私のお腹の上に全てを放った。


まだ息の荒い私は、でも漸く落ち着いて、
首をもたげてお腹の上を見ると、
またポスンと頭を下ろして、顔を腕で覆った。


「サイアク…」

「おいお前、中で出さねぇのにこっちがどんだけ必死か
 分かってて言ってんのかよ、アァン?」

「だからゴム付けてって言ってるでしょ!」



景吾の顔から、一瞬笑みが消えて、
でもやっぱり笑って。悪意を込めながら。



「テメェ…まだ仕置きが足りねーらしいな…」

「いやっ、もう大丈夫です!」



焦って否定すると、景吾は「バカだな」って笑った。
何よー、なんて私は言い返したけど。


あ、でも……
今のがお仕置きなんだったら、
もう一回やってもいいかも?なんて、ね?

絞め付けられるように苦しくてどうしようもないのに…
それが寧ろ快感でたまらない。
癖になっちゃいそうだよ……。



激しい、熱さ。
独特の、匂い。


もしかしたら、私は鼻腔までが性感帯なんじゃ。

そう思ってしまうほどに、その香りは、甘美。
そして私を狂わせる。



「景吾、好き」

「当たり前だ」

「何ソレ」



顔を見合わせて、笑った。






その時は、まだ気付いていなかったのだ。



媚薬と勘違いするほどの強烈な匂いが

いつも以上に激しいその行為が


本当のお仕置きに繋がっていたことなんて。




まだ、お仕置きの半分どころか、

序章ですらなかったなんて。




気付いていなかったのだ。






ぎゅっと抱き合って、
景吾から香ってくるあの匂いが心地よくて、
もう一度熱を思い出したくなって、瞳を閉じた。

























2007/03/26