* LOVE PERFUME -2- *












「跡部くん、なんか香水つけてる?」


翌日の昼休み、教室でのこと。
景吾の横を通ったクラスメイトが
ふと口にした言葉に反応して振り返った。


「俺様が考案したパフュームだ」

「へ〜」

「すごいねー」


景吾は得意気にそう言った。
どうやら、いつものあの香水をつけているようだ。

なんだか、それがショックだった。


作った人を除けば、私たち意外嗅いだことがないー、
とか言ってたのに。
なんで、そんなこと、するの。


いや、そんなことより…危険だよ!

景吾は否定してたけど、
あの香水には、媚薬…もしくはそれに近しいものが絶対に含まれている。

そうでなかったら、私があんなになるはずがない。
匂いを嗅ぐだけで、あんなにも気分が高まる。


やめてよ、景吾、
他の人にその匂いを嗅がせないで…っ!



「へー、独特の匂い」

「珍しい感じだね」



反応は、上々とは行かず…寧ろ中の下。

どういう、こと?


あ、そっか。
ああ見せてはいるけれど、
いつもとは違う香水なんだよ…きっとそうだよ。


景吾が私の視線に気付いて、歩み寄ってくる。



「どうした、

「んーん、なんでもな……っ!」



ドクン。


心臓と、アソコが、波を打つ。




この匂いは。
この匂い、は。


間違いない。
いつものあの香水だ。


「あ……」


顔が紅潮するのを感じた。
景吾はニヤリと不敵に笑った。



「毎回お前に嗅がせておいた甲斐があったぜ」



どういう、こと……?

そうか。つまり、私はいつの間にか、
景吾の香水の匂いと、セックスを結び付けられていたのだ。
更に、その匂いから鮮明に蘇る記憶は、
昨晩の、あの、激しい行為。


抑えられるはずが、ない。


ドキン。

アソコが、唸る。



「お願い、景吾…」

「ん、何がだ」


他のみんなには聞こえないように小声で懇願する私。
わざと、わからない風を装って大きな声で返事をする景吾。

もう、絶対わかってるくせに。



「エッチ、したい」



小声で、耳に寄せた。

景吾は軽く溜息をつき、
時計を見ると私の手を引いた。


歩き始めると手は離されたけど、
行き先はわかっていた。生徒会室。

生徒会長である景吾はこの部屋にしょっちゅう出入りしているが、
普段は学生がこの部屋にくることは、まずない。
内密な会議をすることもあるこの部屋のドアには、
都合の良いことにカーテンまでついている。



部屋に入るなりドアの鍵かけるとカーテンを閉め、
景吾は私をデスクに強引に押し倒した。


「ったく…お前は本当に淫乱だな」

「だってぇ、景吾が…」

「ウルセェ」


私を一言でたしなめると、
景吾は何も喋れないように口を口で塞いだ。
そのまま舌が絡まりあう。
それだけで、下がジュッと濡れるのを感じた。


「ハァ…っ」

「もう感じてんのか?」


服の上から、私の胸を鷲掴みにしてくる。
ピクンと体が反応した。


「敏感だな、アァン?」

「景吾のせいだよぉ…っ!」


こんな体にしたのは、
こんな状態にさせたのは、
全部景吾なんだから。


「人のせいにすんのか」

「だって……ぁん!」


滑らかな動きでシャツのボタンを外した景吾は、
ブラの中に手を滑り込ませ先端に触れた。
強弱をつけながらそこをこねる。


「あっ…やぁっ……景吾ォ」

「どうした?」


またあの香水の香りがした。
もうダメだと思った。


「下も、触って……!」


ニヤっと笑った景吾は、
首元にキスをしながらスカートの中に手を伸ばした。


「あぁっ!」

「お前…びしょびしょじゃねーか」


敏感な部分を何度か擦った景吾は、
その指を私の顔の前に持ってきた。


「下着越しでもこんなになってるぜ?」


親指と人差し指の間でキラキラと糸が引く様を見せ付けられた。

恥ずかしくって目を逸らす。
でも、それほどに感じているのは事実。


早く…入れたい。
景吾に、入れて欲しい。


それを口にするか否か、迷っていたとき、



『キーンコーンカーンコーン』


…………。


空気の崩れる、チャイムの音。

だけどまさかこんなところで止められない。
景吾は気にしないで続ける、と、思ったのに。


「けいご…?」

「ほら早く、服を直せ」

「え…?」


景吾はさっさと立ち上がると背を向けた。

何それ。
こんな中途半端な状態で、抑えられるわけないじゃん!


「いいよ、授業なんかサボっちゃおうよぉ…」


でも景吾は、振り返らなくて。


「生徒会長が授業サボってるようじゃあマズイだろ。
 先に行ってるぞ」


そう言って、その場を後にした。


残された私は、呆然。

だけどどうしようもなく、
シャツのボタンを閉じてネクタイを調えて、
教室に戻るほかなかったのだ。






教室に着き、何事もなかったかのように自分の席に座る。
まだ本鈴は鳴っていないけれど、景吾との会話はない。

しかし、斜め後ろの席からあの匂いが漂ってくる。

その匂いは他のみんなにも届いているはずなのに、
こんなにも過敏に反応してしまうのは、自分だけなのだ。


先生が教室に入ってきた。
礼をして、授業が始まる。


まだ鼻は、匂いになれてくれそうにない。

更に、今は行為を途中でやめてきたばかり。
すぐに気分は盛り上がる。
何度も、無意識に手が下腹部に伸びてしまい、
スカートの裾を直すフリをして誤魔化した。

本当は手を当てて、まさぐって、強く刺激して、
その匂いの下で深く感じてイッてしまいたい。

こんな淫らな私。

私は景吾のことが見られないのに、
私は景吾に常に監視されている気分。
ちょっとでも変な動きをしたら気付かれてしまうに違いない。

だけど抑えられない。


右足を上にして組んでいたのを、左を上にしてみる。
だけどイマイチ上手く刺激を与えることが出来なくて、
両足揃えるようにしてピッと爪先まで伸ばした。
小さく貧乏揺すりをする。
ああ、足りない。こんなものじゃあ、足りない…!


机の角を思い切り押し当てたい
布団の端を力一杯挟み込みたい
自転車のサドルで揺れ動きたい
シャワーを強さ最大で打ち当てたい
指を数本同時に押し込みたい
野菜でも玩具でも咥え込みたい


景吾が、欲しい……っ!



もしかして、景吾はわかっていた?

休み時間があと数分しかなかったことも。
行為を途中でやめたら、私がこうなることも。
体が疼いて、景吾を欲しくて欲しくてたまらなくなることも。


こんな私に、景吾はきっと気付いてる。
こんな私を見て、楽しんでいるに違いない。
そう考えてしまうと、ああ、余計に興奮してしまう。
淫らだって分かりながら、体が正直すぎてやめられない。

腰が小刻みに動いてしまう。
止められない。

変に思われる前に、なんとかしなくてはいけない。
そう思い立って、私はわざと消しゴムを地面に落とした。
拾うためにしゃがむフリをして、本当は、
最も敏感な部分に踵を押し当てるため。


―――……どうしよう。



気持ちいい。

でもイケない。

でもキモチイ。


立ち上がれない……。



消しゴムを掴んだ手のひらが、
微かに汗ばむのを感じた。
何秒間、そうしていたのだろう。


「…?」


隣の席の男子が心配して声を掛けてきた。
はっとして、「大丈夫」と言いながら立ち上がる。

チラッと景吾を見た。
不敵な、笑み。




…やっと、気付いた。


“お仕置き”とは、このことだったのだ。





痛いほど思い知った。
あの香水は、実際に、媚薬など含んでいない。
ただ、繰り返される行為の中で、
私の脳裏に染み込んでしまい、私に対してだけ、
媚薬として働くようになってしまったのだ。

なんて、ズルイ。
なんて、頭の良い。



許して…


懇願するような目で訴えたつもり。
そんな私を嘲笑うかのように、
景吾は更にシュッと香水を一吹きした。

濃密になった香りが、漂ってくる。


顔が熱くなる。
心拍数が上がる。


ズクンズクン。

痛いほどに、求めている。


景吾、ケイゴ……。



、どうした」

「あ、なんでもないです…」


ついに教師にも気付かれ、私は座るしかない。
興奮と疼きを体に秘めたまま。
視線を背中に浴び。


…もう、ダメ。
さすがに限界。

トイレ、行こう。


そう思って手を挙げようとしたら…



「先生、さん調子が悪いみたいなので
 自分が保健室に連れて行きます」

「本当か。大丈夫なのか、

「えっ、あ…その…」

「宜しく頼んだぞ、跡部」


何故だか。

私は景吾に支えられながら教室を出る。
クラス全員の視線を浴びつつ。


…やられた。

本当は、私は一人でトイレへ行くはずだった。
そして自分を慰めて処理してやろうと思っていたのだ。

だけどこれじゃあ、私は景吾の手を振り払うことは出来ず。
(生徒会長で先生からの信頼も厚い跡部君の責任感が問われている)
かといって景吾が一緒に居たら、まだこのお仕置きは、続きそう。


教室を出て、きっと、階段へ曲がるくらいまで、
廊下を歩く私たちは、演技を続けることになる。

景吾は私の腰に片腕を回して、
もう片手は肩にかけるようにしている。


香りの元が、こんなに近くに。

いや、香りとかそれ以前に。

景吾と。こんなに体が密着して。


耐え切れるわけがない。




廊下を曲がるや否や、私は景吾に掴みかかる。



「どういうこと!?」



シーッ、と景吾は口元に人差し指を当てた。
そうだ。まだ授業中だった。




「気に入ったかよ、お仕置きは」

「っんなわけないで……んっ!」



そこで、ディープキス。

あまりに突然で、目を閉じるのすら忘れていた私も、
舌が絡まり合い、唾液が脳内で響くのを聞くにつれ、
いつの間にか、次第に、とろんと瞑られていた。




ああ。

下半身が。

どんどん濡れていくのが分かる。



ううん、

その前から、もう、


ドロドロ。



限界。



「…がい…おねがい……けいごぉ…!」

「………」



涙が溢れた。

情けない。
情けなすぎる。

だけどまさかこんなに自分が淫らで、
景吾に邪険に扱われるのが悲しくて、
だけどそれもまた快感で、なんて、
やっぱり自分の淫らさには驚かされる。

でもそれもこれも、景吾だから。
景吾だから、だよ。


どうしようもない。

私は、この人に従うしか。



「俺様を疑ったこと、反省してるか」


こくこく、と首を上下させる。
喋ると涙が溢れそうだったので、声は出せない。



「ったく媚薬なんて、んなもん使うわけないだろ…」


ため息混じりに、景吾が言う。


まっすぐ見据えて。




「お前は俺様の魅力だけに酔っていればいいんだよ」




そういって、首元に唇が降りてきた。


「あっ……!」


あまりに焦らされたせいか、待ちわびていた私は
いつもの何倍も感じてしまい、声が漏れる。



「おい…声抑えろ」

「む、無理ぃ…」



授業中、階段の踊り場は、静か。
通る人は誰も居ない。

ただし、コンクリートで固められた壁に、
声は執拗に反響する。



「じゃあ、やめにするか?」

「いや…!」



がしっと景吾の体を掴む。

瞳が揺れるのが分かる。


景吾は不敵に…だけどどこか優しく、笑った。

ポケットからハンカチを取り出すと、
丁度良い大きさに折りたたんで私の口元へ運んだ。



「咥えておけ」

「ん……」




ぱくんと、咥え込む。


このハンカチだって、ン万円するようなものなんだろな。
だけど、そんなことを気にしてる余裕は、私にはない。
涎が付こうが、歯形が付こうが、
のし上がってくる快感を外に漏らさないことに、必死。


スカートが捲くられ、下着がずらされる。
中は、ビッチョビチョだ。


「ヤらしい女だな…」

「っ……!」


何も言えない。

喋れないから。
事実だから。


私は完全に、君の虜。



「慣らさなくていいな。挿れるぞ」



立った体制のまま、私は壁にもたれかかって、
景吾は私の腰を両手で抱えるようにする。
思い切り足を開かせられ、そして、力が加えられる。



「う……うぅー!!」

「我慢しろ」

「んっ……!」


小さな声で、耳元で言われ、
忘れていた匂いがふと、記憶に蘇った。
ドキンと心臓が高鳴るのを感じた。


「いくぞ」


そうして無理な体勢のまま、挿入。
いつもとは違う部分が当たって、
また別の快感で感じてしまう。


「んっ!んっ!ふ……んんっ…!」

…お前締まり良すぎる…最高だな」

「ンンーー!!」



もう、イキそう。
景吾が入ってきてから5秒と経ってないのに。


体制に無理があるから、上手く動けない。
景吾に揺さぶられるままに、私の身体は
景吾のモノの回りを上下する。
静かな階段に、ジュポッジュポッと卑猥な音が響く。



「あんまり、長くは、出来ない。早くイケよ……先に」



授業中、
誰が通るかも分からない階段、
スタンディング。

普段とは違うシチュエーションに景吾も興奮しているのか、
頬が微かに紅潮していて、
私もそうだけれど、景吾も既に限界が近いみたいだった。
吐息交じりの切れ切れの言葉が、その証拠。


でもやっぱり、私が先みたい。



「ンー……んん、あっ!!」



咄嗟に口を開いてしまい、
ハンカチを落として声を上げながら、私はイッた。

普段のように、景吾はその体制のままじっとしていた。
自分がイキそうなのを必死に抑えているのかもしれない、
と初めて気付いた。


そんなのもおかまいないしに、

ビクン。

ビクン。

体が波を打つ。



「抜くぞ」

「ん…」



ずっ、と体がずらされる。
少しずつ、景吾が出て行くのが分かる。


この後景吾は、
ピストンしてから腹出しすることもあれば、
咥えさせてフェラさせられることもある。
どちらにしろ、中で出されたことはない。

今日は腹出しとかできないし、
フェラかな…と思ったとき。



香りが、鼻の奥を突いた。


隠された、でも最高に卑猥な、性感帯。




ビクンと私は、もう一度痙攣するように。
だけど普段より少し強く、締め付けるように。




「くっ……!」



予想外な刺激に限界に達したのか、
ジュポンと私の中から自身を引き抜くと、
景吾は焦った様子で私にソレを咥えさせた。

ドクンと波打つのが感じられて、苦くて生臭いものが注がれた。



「飲め」

「ん……ンっ!」



あんまり好きではなかったけれど、
私はそれをなんとか飲み込んだ。

景吾は自分の服を調え始める。
支えを失い、私はその場に崩れ落ちる。



「おい、お前大丈夫か」

「もうダメぇ〜…」



腰が立たない私は学校の床に座り込んでしまう。
ため息をついた景吾は、とりあえず私の服を正し、
「保健室行くぞ」といって私を抱きかかえた。

なんだかおかしくって、笑ってしまった。


生理痛が…なんて適当なこと言ってベッドで寝かせてもらう私。
景吾は先生にぺこりと頭を下げると保健室を後にした。


ふむぅ…別に体調が悪いわけではないんだけどな。
腰がまともに立たなかったのは本当だけど…。
これって授業サボったことになるよなぁ。

んー……。



あれぇ?

すごく満足のいくエッチしたら、

眠くなってきちゃった。


オヤスミ……。





  **





…おい起きろ」

「ん、あと5分…」

「てめぇ、また犯されてぇのか」

「!」


声に反応して飛び起きると、そこは放課後の保健室。


「あれっ、いつの間に!?」

「もうこっちは部活まで終わってんだぞ」


景吾は溜息をついた。
確かに、外はもう薄暗くなり始めている。
保健の先生も既にそこにはいなかった。


「帰るぞ」

「うん」


景吾に手を引かれて、保健室を後にした。



「どんだけ寝てんだよ」

「いやぁ、なんかふわふわして幸せだったー」

「コノヤロウ」


歩きながら笑い合う私たち。
数時間前までは、あんなだったのにね!
ナーンテ。


「あ、さっきの話の続き!」

「アァン?」


私はニコっと笑って耳打ちする。


「また犯して欲しいです」


景吾は、そんな私以上に不敵に笑った。


「お前、このままうち来いよ」

「えー今日は家帰らないとマズイよぉ」

「でも犯されたいんだろ?」

「うー…」


そして結局数時間後、
景吾のベッドの上にいる私。

悪い子だなぁ、なんて自分で思いながら、
それは、とても幸せな時間。



思い出し笑いをしながら景吾が言う。


「授業中のお前、最高だったぜ」

「もう、こっちは必死だったんだから!」


不敵に笑みを浮かべている景吾は、反省してる様子なんてまるでない。
それどころか、また新しい作戦でも企んでるんじゃないだろうか。


もぅ。

でも…そんな景吾が私は好きなんだ。


「あんなお仕置きはイヤだけどさぁ…」


ごろっと横に転がって、甘えた視線をくれてやる。


「昨日の夜の景吾は、良かったな」

「お前もな」


フッと笑うと、どちらからともなくキスをした。
それが、合図のようだった。


景吾は自らシャツを脱ぐと、得意気に香水を一吹きした。

ああ、また、アナタはそうして私の性感帯をくすぐる。


その香りを嗅ぎながら、私たちは、
またいつもの行為に溺れるのだった。

お仕置きは、一生終わりそうにない。

























うひょー3年以上前に原案が出来ててようやく完成。
景吾たんエロイお!!!

お盛んだわねぇ。若いわねぇ。(笑)


2010/07/01