* 僕たち私たちの誕生日! *












今日は私の誕生日。
だけど私は、人の誕生日プレゼントを持って登校している。

「おはよ〜!それもらったやつ?あげるやつ?」

登校するなり、私の机に乗っている小包みに気付いてが声を上げた。
私は簡潔に答える。

「あげるやつ」
「そっか。いいなー好きな人と同じ誕生日なんて!」
「別に好きってわけじゃないよ!」

今日は私の誕生日であり、クラスメイトの菊丸英二の誕生日。

菊丸のことは、確かにちょっと気になってるのは本当だけど!
でも、恋とかそんな大それたものではなくて、
一緒に居ると楽しいなーってな程度で。


この前、偶然にも同じ誕生日だということが発覚して、
「一緒の誕生日だったら一緒にお祝いできるね!」って、大盛り上がりした。

『えーじゃあ私なんかプレゼント用意しちゃおっかなー』
『マジ?すっげーうれしー!そしたらオレも準備しよーっと』
『ホントに?菊丸そういうの忘れそう』
『あっ、ヒッデー!忘れないもーん!』

楽しくそんな会話をしたのは、二週間ほど前のこと。
本当に忘れてない…と信じたいけれど。
まあ、最悪プレゼントとかもらえなくても、
私が準備したものを渡せて、ちょっと雑談でもできればそれでいいか。

そんなわけで今、私の机の上には手作りクッキーが乗っている、と。

手作りとかガチっぽいじゃんって?
でも、べ、別に好きとかじゃなくて!
好きなのに隠してるとかそういうんじゃなくて!本当に!
ただ、せっかく同じ誕生日だったら盛大に祝えた方がいいなってだけで!
あと暇だったし!そう!暇だったの私は!!

「とりあえずこれ、私から」
「ありがとー!」

は可愛いメモ帳をくれた。
これでまた授業中にお手紙が書けちゃうね、なんてね!

と雑談をしながら菊丸が登校してくるのを待ってたけど…
今日はテニス部が朝練の日かもしれない。
朝練があると、テニス部メンバーはチャイムギリギリに教室に入ってくる。

「(菊丸より先に先生が来ちゃいそう)」

チャイムが鳴るまであと1分を切った時計を見て、一旦プレゼントは鞄にしまった。
菊丸と不二はチャイムが鳴るとほぼ同時に教室に入ってきて、
そこから1分もせずに先生が教室にやってきた。

ま、時間はたっぷりある。
同じクラスなわけだし、どっかの休み時間のタイミングで渡せるっしょ。



と、思っていたのに。



「(全然一人にならないな!?)」

とんだ人気者だなこの人は!

休み時間になる度に人だかり!
廊下に待機列ができてる!
他学年まで来てるんじゃないのこれ!?

お祝いされるたびに「ありがとサンバ〜」とか言いながら一人ひとりとおしゃべりしてるけど、
全員にそんな神対応していたら放課後になっても時間が足りないんじゃ…?

それでも、我先にとはならずに待機している子たち、偉い…。
私もいつ渡そう…。
っていうか、菊丸は私との約束憶えてるのかな……。

そんなことを考えていたら。

「すごい人だかりだな、英二」
「あっ、大石ぃ!」

大石と呼ばれたその人物は、
随分特徴的な髪型をした男子だった。
その姿を見かけると菊丸は嬉しそうに駆け寄った。
どうやら二人は仲良しなようだ。

「今日の放課後に練習するフォーメーションを今のうちに確認しておかないか」
「するする!」

そうして二人は、嬉しそうに一緒に教室を出ていった。
待機列を残したまま…。

唖然とする女子の群れ。
列には連なっていないものの、私も同じ心境だ。


なんたって、その人物。


「(また居る!)」


「(また!?)」


「(ずっと居る!!!)」


休み時間ごとにうちの教室に現れて、
颯爽と菊丸のことをさらっていった。
もしかして、作戦?
あまりに大勢に言い寄られるから人避け?
…いや、人と仲良くすることを何より楽しむタイプの菊丸が
そんなことをするとは思えない…。
それとも大石という人が意図的にやってるの?
それは…ないと、信じたい…。
天然で菊丸のセコムなわけ…?

「(何者…髪型変だし…)」

会話の内容的に、テニス部仲間であることはほぼ間違いない。
ダブルスのフォーメーションとか言ってたし、ペアの相手なのかな?

「今日はオレの誕生日だから、お弁当にぷりぷりエビフライが入ってるんだぁ!
 分けてやるから一緒に食べようぜっ!」
「こりゃ大変」

そんな会話が聞こえ、昼休みもどうやら菊丸が一人になることはなさそうだと察した。

「英二はなかなかフリーにならないね」、
なんて不二が笑っていたけどその通りだと思った。



結局、菊丸にプレゼントを渡すことなく…というか、
会話するチャンスすらなく昼休みが終わりゆく。
なんなの…あの大石という男のセキュリティ強すぎ…。

もう、適当に机の上にプレゼント置いておけばよかったかな…。
いやいや、私は楽しくおしゃべりがしたかったのであって、
別にこのプレゼントを渡すことを目的としているわけではない…。

だけど休み時間の終わりを告げる予鈴が鳴ってしまった。
との雑談を切り上げて、やれやれと席に戻る私。
そのとき。

「あ、ちゃーん!!」

菊丸に呼ばれて、軽く心臓ドキン。
急に来るからビックリした!声までデカイし!

と思っていたら、今度はコソッと耳打ちしてきて。

「オレ、今日プレゼント準備したから。放課後渡すね!」

あ、良かった憶えてくれてた!
一安心して、私も言う。

「私も!プレゼントある!」

そう伝えると、菊丸はピースを返してきた。
秘密を共有できたような気持ちで、なんだか楽しい。

まだ午後の授業が開始してすらいないのに、
いつもに増して放課後が待ち遠しくなってきた。



そしていざ、放課後がやってきたのだけれど…。



理科室の掃除が終わって急いで教室に戻ると、
菊丸はテニスバッグを掴むところだった。

丁度一人だ!よし!!

そう意気込んで声を掛けようとしたら…。

「英二、随分張り切ってるね」
「だって今日は新しいダブルスのフォーメーション試すんだもん!」

おーっとここで不二!

いやでも大丈夫…不二は空気の読める男…!
ここで私がプレゼントの包みを持って近づけばきっと察してくれ…

「英二、準備できたか」
「あっ、大石ぃ〜!」

で、出〜〜〜!!!

また出ました、大石!
菊丸が連呼するから名前は憶えた!

ちょっと待てちょっと待てー!!!
と思えど、声は掛けられず、
「フォーメーション試すの楽しみだね!」とか話しながら
そのまま二人は腕を組んでテニスコートへ向かっていった…。


終わった…。
またもやあの大石という男にやられた…。
少し離れて後ろをついていった不二がもはや不憫に見える。
大石……アイツ何者…そしてその髪型は何……。


でもさっき菊丸は、プレゼントは放課後渡すねって言ってくれたし。
さすがに待つか。

さあ、どうしよう…。







→クラスメイトらしく教室で待とうか。



→せっかくだし、テニス部の様子を見学しながら待ってみようか。