夕焼け小焼けで日が暮れてー…。


遠くで聞こえる鐘の音に合わせて口ずさんでいた頃の私はまだ幸せだった。
冬の日暮れは早い。
鐘が鳴り響いたのは1時間前。窓の外は夜といっていいほどすっかり真っ暗。

宿題をやったり友達に手紙を書いたりしながら時間を潰したけど
放課後の教室に一人で居てもできることって限られてる。
さすがに飽きてきた…。

もういい加減帰ろう。と、何度思ったことか。
でもそうしていない未練がましい私。
諦め悪いなー…と、自分で苦笑。

っていうか、菊丸も忘れちゃったりしてないよね?
テニス部終わるの遅いなーとか思いながら待ってる私だけど
実はもうとっくにテニス部は解散して菊丸は帰っちゃってる説ない!?

そう思って立ち上がって窓の外を確認しようとしたとき。

『ガラッ』
「!!」

半壊だった扉が全開になる音に振り向くとそこにいたのはー…
…………警備員のおじさん。

「もう下校時刻過ぎてますよ、用がないなら帰りなさい」
「はーい…」

用がない、わけではない…けれど。
でも、もうないのかもしれないな。
向こうもまさか私がまだ残ってるとは思ってないかもしれない。

…うん。帰ろう。

鞄をつかんで、立ち上がった。
この鞄の中身はどうしよう、自分。
後日あげるのも微妙だし、自分で食べちゃおうかー…。

そう考えたら、涙が出そうになってきた。
そんな、別に。
暇だから作っただけで。
少しでも盛り上がればと思っただけで。
ガチとか、そういうつもりじゃなくって。

……とか考えながら、渡せない事実を思い描くと
こんなにも胸が苦しくなってくるのは、
本当はうまく渡せなかったときのための自己防衛だったんじゃ、
ということに気付いてしまったようで。

自分でも自分に隠してるだけで。
きっと私は。
本当は。
菊丸のこと。

「こら、廊下は走らない」
「ごめんなさぁーい!!」

私の思考を遮ったのは、謝りながらも止まる気配のないドタバタとした足音。
このやかましいのは…?

『ガラガラッ!』と勢いよく教室の扉が開いた。

「良かった!居たー!!」

やってきたのは、菊丸だった。

「菊丸、まだいたんだ!」
「いるよーちゃんの方こそめちゃくちゃ待ったっしょ!?
 あーもう大石のバカ!!」

そういって菊丸は、
今日は大石とダブルスのコンビネーションの練習をしたこと、
良かった点も悪かった点もたくさんあって、
反省会をしたいから残ってくれと言われて、
部誌を書き終えるのを待って、
そこから更に反省会をしたから遅くなってしまった、と。

「場所移動して続きやろうとか言うからさ、勘弁して〜って感じ!
 忘れ物したフリして抜け出してきちゃった」
「え、大丈夫なの?」
「だいじょぶだいじょぶ!先帰ってって言っといたし」

そっか…。
菊丸と大石ってニコイチみたいな感じでべったりなんだ、
と感じてたんだけど…菊丸的には意図しない部分もあったんだ。

「昼間も含めて、全然一人になるタイミング作れなくて遅くなっちゃった。ごめんっ!」

そう言って頭を下げて両手を合わせた。

「本当のこと言ってさらっと抜け出してきちゃえばよかったのに」
「だ、だって…」

そう伝えると菊丸は、指先を合わせた。

「なんか恥ずかしーじゃん」

上目遣いに唇を尖らせながらそんなことを言う。
なんだそれ、可愛いな!?
まず菊丸に、恥じらいだとかいう感情があることに驚いてしまった!

「(ん、しかし、恥ずかしいと思うってことは…?)」
「はいこれ、オレからのプレゼントね!」

そういって菊丸がラケットバッグから出してきたのは…
両手でないと抱きかかえられないほどの大きなくまのぬいぐるみ。

「お誕生日おめでと!」

渡してくる菊丸の顔は、満面の笑みで。
わずかに、頬は赤く染まってて。

「えっこれくれるの!?これって結構高いものなんじゃないの!?」
「え!?もしかして引いてる!?」
「引いてないよ」

私も自分の鞄を開けて待ちくたびれたように待機しているその包みを取り出す。

「値段は安いけど……私もガチですので」

きょとんとする菊丸に、両手で差し出した。

「お誕生日おめでとう」

プレゼントを持つ手を真正面に伸ばして、赤くなった顔が隠れるように。

その時気付いた。
プレゼントって、物じゃない。
大きいとか小さいとか値段が高いとか安いとか。

問題は、そこに込められてる気持ち。
朝の段階では、もっとさらっと渡せると思ってたのに。

「もらっていいの?サンキュー!」
「一応…手作りだから」
「えっ手作り!マジ!?超うれしー!!!」
「ちょっと、大げさだよ」
「大げさじゃないよ本当にうれしいもん!わあークッキーだー!」

菊丸は、プレゼントを顔の前まで持ち上げて
目をキラキラさせて見つめた。

「食べるの勿体ないにゃ〜」

あまりに嬉しそうに見つめるから、
こっちが恥ずかしくなっちゃった。

「別にそれくらい、また作ってくるし」
「ホント!?」

そう言いながら、
私の両手は掴まれていて。
凝視していると、焦った菊丸はぱっとそれを離した。

「あ、ごめん!」
「いや、いいけど…」

いいんだ、けど。
手が離されてから、急に沈黙。
その間に胸がドキドキする。

「あ…あのさ」

様子を伺いながら
菊丸の表情が真剣になって
口が半分開いたその時。

「ほら君たち、いい加減に帰りなさい!」
「「ごめんなさーい!!」」

鞄を掴んで、一目散に教室を飛び出す私たち。
階段を駆け下りて玄関まで来て、
後ろを振り返って警備員さんがいないことを確認して、
二人で顔を見合わせて ぷっ と吹き出した。

「怒られちったね」
「ね」

怒られてるはずなのに、楽しい。
二人一緒だと。

思わず走ったからか、胸はドキドキしていて。
それともこれは、さっきのドキドキの続きなのか。

「えっと…とりあえず、一緒に帰ろっか」
「う、うん」

そうして、二人で通学路を歩き始めた。
辺りはすっかり暗くて、道には街頭が光ってる。

「菊丸、さっきなんか言い掛けなかった」
「んー…また今度言う」
「そっか」

なんだかすごく重要な話が始まりそうな気はしていたけれど、
いいや。また今度で。
なんか、菊丸とはもっと明るい昼間の太陽の下で話したいような気がした。

「あ、そだ!いっこだけ」
「え?」

一歩前に出て足を止めて、
くるりと振り返った菊丸は笑った。

「お誕生日おめでと、ちゃん!」
「菊丸こそ、お誕生日おめでと!」

釣られるように私も自然と笑顔になった。
「そんでさ、」と加えて、菊丸ははにかんだ笑顔を見せた。


「来年もまた一緒にお祝いしたいね」


それってどういう意味?
って聞き返したくなったけど、
続きは晴れの昼間まで取っておこう。

「そうだね」とだけ伝えて笑って返して、一歩踏み出して、
私たちは再び肩を並べて帰り道を歩き始めた。
























英二BD生まれの大石夢女、せとかちゃんに捧げる作w
久々に分岐作書いたー楽しかったww

主人公は3年6組を匂わす描写があるけれど(不二が同じクラスなので)、
そうなると3年の11月なので色々不具合があるけど細かいことは気にしてはいけない(←)

英二編は可愛い英二を意識した!
英二可愛いよね!最高!

お誕生日おめでとう!!!


2020/11/09-27