* 月の終わり *

-the night with no moon- part.1











……ん?
体が、軽い…。
どうしてだ?
体、浮かんでる…?

…ちょっと落ち着こう。
確か、俺は学校帰りで…そうそう。
英二も一緒だったっけかな。
それで、歩いてたら……ああ。

思い出した…。

車が突然こっちに向かってきて、それで、
英二を助けたいが余り無我夢中で、
英二を押しのけて自分が前に出て…そこまでだ。
身体中に大きな衝撃が走って…真っ暗。
それで今に至るわけだ…。

「つまり…俺は死んだわけだな」

自分でそう言うと、悲しさを通り越して虚しくなってきた。
短…かったな。
もう、戻れないのかな。

やっぱり、淋しいものだな……。

「そういえば、英二は…」

一応俺はあのとき自分が前に出ると同時に
咄嗟に英二を横に押しのけたけど。
二人同時にはねられたとも考えられなくはない。

「……」

辺りを見回した。でも英二は居なかった。
代わりに、大きくて綺麗な羽を生やした女の人がいた。
…これって、俗の言う…天使ってやつか?

「こんにちは」
「あ、こんにちは…」
「今日ここに来たの?」
「え?あ、はい。多分…」

突然訊かれたので、俺は戸惑った。
本当に良く分からないので、返事が曖昧になった。

「まあ、昨日も今日も、こっちの世界じゃあったもんじゃないんだけどね」

そう言うと、天使は笑いながら宙にふわりと浮いた。
俺は意味も分からず瞬きするだけだった。

「もう気付いてると思うけど、ここは天国よ」

やっぱり…。
言われた瞬間、俺はなんともいえない気持ちになった。
やっぱり死んでいたのか、という気持ちと、
地獄行きは免れたか、という気持ちと。
妙に冷静な自分に、このときばかりは嫌気が差した。

「じゃあ、簡単にこっちのことを説明するわね」
「はあ…」
「えっとね、人間の人生の中には3つの世界があるの」

地面に降り立つと、身振り手振りに話を始めた。
その手が輝いているように見えるのは、
実際にそうなんだか俺の目が可笑しいんだか…。

「生まれる前の前世、生きているうちの現世、
 そして、死んだ後の世界、来世」
「……」
「ここは、来世に当たるって訳」

天使さんは、こっちの表情を伺いながら話してきた。
俺はやはり…瞬きしているしかなかった。

だって、突然現世だの来世だの言われても実感湧かないし。
まあ、簡単に言えば俺は死んだということなのだろう。

未練は、ある。正直な話。
自分で言うのもなんだけど俺はまだ若かったし、
やりたいことも沢山あった。
やり途中のことも沢山あった。
テニス部で全国、行き損ねたな…。
英二とも約束してたのに。

そういえば、英二はどうするのだろう。
ダブルスのパートナーである俺が居なくなって、
誰と組むのだろう。
シングルス?
それとも、もしかして辞めでもしてしまったら…。

「気になる?」
「――」

声を掛けられ、俺はガバッと顔を上げた。
こっちの考えていることは、向こうに筒抜けなのだろうか。

「そんなに焦った顔しなくてもいいのよ。
 現世に未練がある人はね、誰でもそんな顔をするの」
「………」
「特に、大切な人を残してきた人、はね」

そう言うと、パチリとウィンクしてきた。
俺の頭の中には、英二しか居なかった。
ぐっと拳を強く握ると、俺は言った。

「仰るとおり…俺には大切な人が居まし…居ます。
 一人残してしまって…凄く、気になります…」

思っていることを全て吐き出した。
他のことはどうでもいい。
それでもどうしても、英二のことが気になった。

「気になる気持ちも分かるけどぉ」
「……」
「さすがに、会わせてあげることは出来ないわね」
「そう、ですか…」

俺は、目の前に闇が広がる感覚がした。
どうしようもない。
俺は死んでしまったのだから。
でも、英二……。

「ただしね」
「?」
「あなたもその人のことを想ってて、
 その人もあなたのことをずっと想い続けていた場合」
「どうなるんですか…?」
「…まあ、こっちの世界では必ずまた一緒になれるわよ」

こっちの世界では…。
その言葉も一瞬重く伸し掛かったが、
それ以上に、また一緒になれるという事実が嬉しかった。

「だから、その人がこっちに来るときは迎えに行ってあげるのよ」
「一体、それは…いつなんですか!?」

俺は勢いで食って掛かってしまった。
向こうは一瞬戸惑いつつも、
すぐに冷静な表情に戻り、なにやら考えているようだった。

「あなたと同い年ぐらいの人だったら、
 何十年後でも可笑しくないわよ」
「あ……」

そうか、俺は今15歳だけど…。
もしかして、巡り合えるのは80歳ぐらいになってからってこともあるのか!?

「…心配しなくとも、自分の希望する年齢の状態に
 変えるくらい至極簡単なことよ」
「あ、そうですか…」
「でも、どっちにしろ会えるのは、もっと後かもしれないわね」
「…分かりました」

…とりあえず、また会えるならそれでいい。

そう思いつつ、俺はその場を後にした。
どこへ向かうでもなく、ただフワフワと。

「…ただね」
「――?」
「余程想いあってる場合、結構すぐ会える場合も
 少なくは無いのよね…」

去り際に言われた一言が気になって振り返ったが、
そこまで深く気に留めず、俺は白い世界の中を歩いた。

























かなり遅れて大石編。
なんか色々と矛盾とかある気もしますが。
とにかく大石は英二さんが好きなのだと
ご理解いただけたのではないかと。(微笑)


2003/04/14