現在過去進行形






例えば修学旅行とか、好きな人居るのって話になるでしょ?


私はね、いっつも、返事に困るの。

別に隠したいからってわけじゃなくて。
だからといって、言いふらしたいなんてことはないけど。


好きな人が、居ます。
好きな人は、居ません。

両方本当。


私には、好きな人が居るんです。
だけど、好きな人は居ないんです。


私には、居ても。

この世界には。

もう。

あの人は。


「八代ちゃん居るんでしょー、好きな人」

「えー、居ないよぉ」


嘘。

「隠してるだけのくせにー」

「う…まあ、居るといえば居るけど…」


嘘。


両方本当だけど、両方嘘でもある。


「やっぱり居るんじゃんっ」

「いや、あのでも…」

「そこまで言ったらバラすしかないぞー!」

「えぇー!?」


同じ部屋のみんなの視線が、私に向かう。
普段から大勢に注目される私なものだから、
まさかこんな話題で……ムリむりっ!


「ダメ、言えない」

「えーなんでー未有ちゃーん」

「乗りかかった船だ、スパっと言っちゃいな」

「そうそう。言っちゃえば楽になれるよ〜」


そう言いながら、私をくすぐったり
頭にぐりぐりとする人たちが。

「やめてー!」とかジタバタしながら、
私は頭の中で考える。

そうなのかな。

言っちゃえば、楽になれるのかな?


今まで、人に話すなんて考えたことがなくて
ずっと自分で抱えてきたけど。

吐き出しちゃえば、楽になれる…かな。

「わっ、分かった!話すから」

「よーし、言ったね」

「今のセリフ、忘れんなよ」

そうして、私は解放される。

胸に手を当てて、一回深呼吸。


「話せるかな…」


ぽつりと零すように呟いた。

その言葉の意味を、きっとまだ誰も分かっていない。

「私がここに、転校してくる前の話ね」

私は、


中学生にしては、重すぎる恋をしてしまった。


「好きな人が…居たんだ」


「…居る、って言った方が正しいのかな…でも」


「好きな人は…居ないんだ。だけど居たんだよ」

ポタ。


ぽた。


……涙、が。


「もう、居ないんだ…」

周りの、動揺する様子が、滲む。
涙が溢れてきちゃって。

やっぱり。

元の場所に戻ったら。

一緒に過ごした場所に戻ったら。


まだ、会える気がしてる。

まだ?

いつまでも?

「八代、お前…」

「未有ちゃん、ムリに話さなくても…」

「ううん。ダイジョウブ」

目の端に溜まった滴を指でぬぐった。


大丈夫、ダイジョウブ。


ここで負けちゃいけない。

少しツラいけど、
一回吐き出しちゃえば、きっと楽になれるから。

「もう3年も経つんだ」


まだ3年、って言い方も正しいと思う。

両方間違ってる気もする。

「でも、まだ東京に戻ったら、会えるような気がしてる」

沈黙。


「もう会えないって分かってるのに…」


「バカだよね…」

一度澄んだはずの視界がまた歪む。

先ほどの跡を辿って滴が伝う。


「あれっ、おっかしいな…」

「八代…」


「もう好きじゃない、はずなのに…っ」

「八代ちゃぁん…っ」


「好きじゃない、だって。あっはは。哀しー…」

「もうやめて、未有ちゃん!!」

――――――………。


朝だ。

私はいつも通りに一日を始めたつもり。

だけど、周りの視線がイタイ。


やけによそよそしかったり、
仲良かったはずの人が「おはよう」って言っても
返事をしてくれなかったり。


おかしいな、って思った。

もしかしてイジメ…?なんて、嫌な想像まで浮かんで。

朝食後、先生に呼び出された。

昨夜のことを、聞かされた。


昨日の夜、私たちの部屋には先生がやってきた。
理由は、私の精神状態から。
過呼吸になりかけで、結構危なかったらしい。
憶えていない。
その後、突然幼稚化した私は過去の自分になりきって過ごしていた、と。
憶えがない。
人伝で聞いた情報では、イマイチ意味が分からなかった。


だけど、原因は思い出した。
そういえば、あんな話をした。

まだ、残っているんだ。傷が。
吐き出してしまえば楽になれるだなんて、そんな嘘。


私には、好きな人が居るんです。

だけど、好きな人は居ないんです。

私には、居ても。

この世界には。

もう。

あの人は。


居ないんだ。

もう会えないって分かってる?

もう好きじゃない?

全部嘘。


本当は、ずっとスキ。


今でも、一緒に過ごしたあの場所に戻ったらって。まだそう思ってる。











 ->3年前の今日について。タンザニアでの5日目の夜の出来事。
  みんなゴメン。アリガトウ。ご迷惑をお掛けしました…。(2005/09/04)