家を出た瞬間。

穏やか、だけど強かに、風が吹き。

辺りは、淡紅色に染まった。






  桜雨






――春が。

夏へと、変化をきたす日も、そう遠くはなくなった。


もうすぐ、終わる。

何もかも、枯れ、散り行ってしまう。


綺麗だけど、切ない。




物思いにふけながら、歩く。

首を上に向けていたら、少し肩が凝った。

学生鞄を反対の肩に移したところで、学校に着いた。



教室は、3階。

そこまでは徒歩で上っていく。

まさかエレベーターを作れとは言わない。

だけど少し憂鬱に、階段を上った。



窓際の自席に腰を下ろす。

ふぅ、と溜息を吐いた。

数秒の休憩をした後、再び立ち上がってロッカーへ向かう。

何ともない日常だ。


置き勉した教科書と黒板に書かれた時間割を参照する。

一時間目が嫌いな世界史であることにまた溜息を吐いた。



席に戻る。

窓の外を、何気なく見る。


相変わらず桜の花びらが舞い散っていた。



ゆっくりと、顔を教室内に戻す…と。




「――――」




……くすっ。


小さく、笑ってしまった。




私の前の前の席、私の好きな人。

その人の頭には…桜の花びらが。



窓を開けていたからだ、なんて冷静に考える自分。

もう一方では、可愛いな、なんてことも考えていたりして。


可愛いなんて言ったら、怒るかな?


そんな悪戯なことを考えながら、ずっと背中だけを見ていた。





風は、季節を運んでくる。



私も淡紅色に染まりたくなって、自分の横の窓を開けた。










 ->少し季節外れですけど、桜のお話。
  前に書き始めたまま終わらせそびれていたので。(2004/06/11)