* ガットの切れ目は縁の切れ目 *












君に貸していたラケットが

返ってくる。



『良かったら、これ使うかい。俺にはもう軽すぎちゃって』


テニスに興味を持ち始めた君にこれを貸したのは、2年ほど前だったか。


親から譲り受けた大切なラケット。
もう使わないけれど、捨てる気にもなれなくて。
まだ全然使えるけれど、自分は使わなくなってしまったから
君に使ってもらえたらきっとラケットも喜ぶだろうというくらいの気持ちで貸した。


『ありがとう。大切に使うね!』


その言葉通り、君は大切に使ってくれた。
だから、使い込まれた形跡はあるものの
とても綺麗な状態でそれは返ってきた。


自分の手元からは離れてしまっても、
君の元にあれば、
ある意味自分の内にあるように思えていて……。


だけど、君との関係は、途絶えてしまった。
始めは些細なすれ違いからだったかもしれない。
でも次第に溝は深くなっていって、
関係を続けることが難しくなってしまった。

話し合いの末に、俺たちは別れることになって、
でも受け渡しをするきっかけもないまま
このラケットだけがずっと君の手元にあった。

それが今日、返される。


「長いことありがとうね」

「こちらこそ…使ってくれてありがとう」


これを受け取った、ら、
君との関係が途切れてしまうような、そんな気がして――…。



「あ」



腕を伸ばして受け取ろうとしたその瞬間、
君は手を止めて、いたずらに笑った。



「良かったらまた一緒にテニスやったりしようね」



上目遣いのその目線から、こちらの様子を伺っていることはわかった。

応えないわけにはいかない。

ずるいな、君も。



「ああ、やろう。社交辞令じゃなくて本当にな」



俺がそういうと、君は笑った。
それは、昔から何ら変わらない笑顔だった。


このラケットで繋がれた縁は、まだまだ続きそうだ。






















貸してたギターが返ってきたことで思いついたネタなんだけど、
これを思いついた段階ではまさか中身ボロボロだとはww
くそーwガットの切れ目が縁の切れ目っていうだろーw(※言わない)
思わず↑のフレーズ気に入ってタイトルにしちゃったよ!(www)
この主人公ちゃんはちゃんと大切に使ってた体で。
ガットは切れていなきゃ縁も切れてない、ということで。

親から譲り受けたラケット、
あの頃の王子様で大石秀一郎(1)が持ってるやつのつもりで書いたけど、
どうやら原作大石が今使ってるラケットそれなんだよね、
そこはどう深読みしようか色々な解釈ができるところ。
(本文とまったく関係ないあとがきになってしまった)


2019/03/03