「君のことが、すっ、好きなんだ…!
 俺と付き合ってくれないか」



あまりに予想外過ぎて、「えっ」しか言えなかった。


あれから一週間。










  * ONE WAY 笑顔交差 *












「えー!告白されたぁ?!」

「しー!!声が大きいよ!」



教室の隅、せっかく小声で話してたのに声を張り上げるを必死で制止する。
人差し指を口元に当てたまま、きょろきょろと当たりを見渡す。
良かった。教室中は騒がしくて、私たちの会話に気付いた人はいない。


「えっ、どこの誰に!?とか聞いていいの?」

「うん。いいけど…それがね」


そっと耳打ちする。
耳元に口を寄せて、聞こえるギリギリくらいの音量で。


あのね、隣のクラスのね……。


「えっ!おおい・ムグッ」

「だから声が大きいってば〜!!」


今度は咄嗟に両手での口を覆ってしまった。
もしも誰かに聞こえてたらどうしよう、って、
肩をすくめてそーっとあたりを見渡したけど、
先ほどから変わらない相変わらずにぎやかな教室内。

誰もこっちを見ていないことを確認して、から手を離す。

ごめん、つい…と謝ると
私こそごめんごめん、とはばつが悪そうに笑った。


私に告白してきたのは、隣のクラスの大石くん。
テニス部レギュラーだし保健委員長もやってるから、学年では結構有名な人。
私も直接関わったことはないけど、すごく真面目な人という印象はある。


「あ、へぇ〜。大石って告白とかするんだぁ。意外〜」

「意外〜、じゃないよ!私は真剣に相談してるんだから!」


そうだよね、ごめんごめん。
とか言ってるけど、もう、さっきから真剣に考えてくれてるのかなぁ…。


「ていうか、アンタって大石とそんなに接点あったっけ?」

「それが、全然ないんだよね…。なんで私なんかを好きになってくれたんだろ」


本当に疑問。
呼び出されたときも、まったく心当たりがないもんだから
人違いなんじゃないかと疑っちゃった。
もしくは大石くんは伝言係で、本当は誰か別の人(なんなら先生)に
呼び出されてるのではないかとまで考えた。

だけど呼び出してきたのは大石くん本人だったわけで。
告白されてしまったわけで。


「にしても、一週間前なんでしょ?
 早く返事してあげないと、今頃やきもきしてるんじゃない?」

「う、そうだよね…」


適当に返事して良いことではない。
だけど、待たせすぎると申し訳ないのもわかってる。

でもさっきも言った通り、いうほど接点がないの。
どうして私を好きになってくれたのかわからないし、
私も大石くんのことは嫌いでもないけど、好きといえるほどの理由もなくて、
どうやって決断を出せば良いのかわからない。

だから相談してるのに、の役立たずー…。
(って、私から勝手に相談してるのにこれはヒドイか)


「もうさ、試しに付き合ってみちゃえば?いいなー彼氏!私もほしい」

「もう、無責任なんだからー…」

「とりあえず逃げてないで直接話しなよ。一週間放置はかわいそうだよ」

「むー…」


そんなところでチャイムが鳴って、結局結論らしい結論は出なかった。

だけど、ちょっと考えが晴れてきたかも。


わからないんだったら一人でうじうじ悩んでるより、
付き合ってみるのもありかもしれない。
それにまず、本人ともう一回話して
どうして私のことを好きになったか聞きたい。
それで納得がいったら付き合えばいいし、
ちょっとなぁって思ったらやめればいい。

とりあえず、話してみよう、うん。そうしよう!



次にその姿が見えたら、声を掛けてみよう。
そう思って一日過ごしていたら。


さん」

「!」


なんと、大石くんの方から声を掛けてきた。
心臓が跳ね上がる。

大石くんはそわそわしていて、目が合わない。


「あの、この前のこと、ちょっと話したいから…
 放課後この前と同じ場所に来てくれるかな」

「う、うん。わかった」

「それじゃあ、また後でな」


それだけ告げて大石くんはそそくさといなくなった。

返事が遅いから、催促かな…。
丁度こっちから呼び出そうと思ってたけど、丁度良いや。


聞いてみよう、色々。
そして、その返事によっては…。


「……フゥ」


考えると胸がドキドキしてきた。

そもそも、付き合うってどういうことだろ。
どうして私を好きになってくれたんだろ。
人を真剣に好きになるって、どんなかな…。


期待と、少しの不安も入り混ぜながら放課後を待った。



そして校舎裏、季節外れの桜の木の下。




「ごめん、この前のことは忘れていいよ!」

「……えっ」



思わず、一週間前と同じ反応しかできなかった。

何。
何何どういうこと。


「ホント、ごめんな。悩ませるようなことしちゃって…。
 もう、過去のことだと思って、全部なかったことにしてくれていいから」


……はい?


「それじゃあ…ホント、ごめんな!」


そう言って、大石くんは走っていなくなってしまった。

………。


何それー!!!

ありえない。
どんだけこっちがこの一週間悩んで。
考え抜いた末、前向きのお返事を出してみようかなとも思って…
その結果がこれなの!?

ヒドすぎでしょ…大石くん。


……アレ?


「何…これ」


思わず言葉が零れた。
それは、その言葉よりもっと先に零れていたものがあったから。

涙。



一人で勝手に悩んでたと思ったら、
悔しくって、情けなくって、
でもそれ以上に…。

悲しい。


もしかしてこれ、失恋しちゃったわけ?私。



思い返してみれば、この一週間、
私は大石くんのことばかり考えていた。

大石くんはどんな人で、
どうして私を好きになってくれたんだろう、って。

廊下でその姿を見かけると、様子を伺いたい一方で、
目が合うのが気恥ずかしくって、
顔を伏せたまま早足で横を通り過ぎてしまったりして。
だから、遠巻きにしかその姿を見られなくて、
笑った顔を見て、優しそうだなって思ったり、
眉をしかめた表情を見て、どうしたのかなって心配になったり。

行動的には完全に、大石くんに恋をしてるみたいになってたかもなぁ…。


でも、やっぱり決定打はなかったの。
どんな人なのかはわからなかったし、
私を好きだって言ってくれた理由もわからなかった。

だから、直接話してみようって思って。


なのに。


忘れていい?
全部なかったことにしてくれ?


好きだって言ってくれた理由も。
忘れてくれって言われた理由も。
私はまだ、何も知らないまま。

…そんなの、納得できるかっ!


袖で涙を拭った。

大石くんも走って通り抜けたであろうその道を、私も走って、
教室まで一気に階段を駆け上がった。

掃除が終わったあとの人気の少ない廊下。
3組、自分のクラスには人が居るのが見えた。
2組…から丁度テニスバッグを掴んで出て行こうとする大石くんが見えた。


「待って!」

「!」


びくっと震える肩が見えた。
そろり、と大石くんはこっちに顔を向けた。


「え、どうし…」

「とりあえず、入って」


2組の教室の中には誰もいなさそうな様子を確認して、
大石くんを押し込んで後ろ手に扉を閉めた。
大石くんは押されるがままに後ずさりする。

その明らかに戸惑っている風の大石くんに言葉をぶつける。


「なんで、もう忘れてくれとか言うの?」


声が震えた。
大石くんは驚いた顔をしていた。


「一週間前は、好き、って…言ってくれたのに。
 そんなすぐに変わっちゃうものなの?なんで?」


ダメだ、
我慢していた涙が出そう。

でも瞬きでかき消して、睨むみたいに見上げる。


「いいでしょ?もう過去のことだったら教えてくれても」


強気な態度。
本当は、泣きそうなの堪えるのに必死なのに。

頑張れ。頑張れ私!


「もうさ、私のことはどうでもよくなったのはわかったんだけど、
 だったらなんで先週あんなこと言ったのかだけ教え…」

「…っ今でも好きだよ!!!」


え。



それは、隣の教室まで聞こえるんじゃないかってくらい大きな声だった。

どういう、こと。



「そんな、一週間くらいで、
 どうでもよくなるわけないじゃないか…。
 さんのこと、一年以上ずっと見てきたんだ」


そんな……うそ、でしょ。

え、ホントに??


「う、そ。なんで…」

「嘘なんかじゃないさ」


真剣に言ってくれているっていうのは、大石くんの目を見ればすぐにわかった。


「始めに気になったのは、一年くらい前、
 日直が重たそうに抱えてた荷物を運ぶの手伝うのが見えて、
 優しい子なんだな、って…それで気になりだして」


そんなこと、あったっけ。あったかも。
もはや自分では忘れてたよ。

そんな前から?


「その後、廊下なんかでいつ見かけても笑顔が素敵で、
 背筋をまっすぐに伸ばして歩いてて、いい子だなっ、って」


そんな、私でさえ知らない私に気付いて、見てくれて、
気に掛けてくれている人がいただなんて…。

「それなのに」と大石くんは話を続ける。



「今週は元気がなさそうに見えて、
 いつもうつむき加減で歩いているし」


……。
それは、ちょっと自覚があるかも…。


「急に俺が変なこと言っちゃったからだって、反省して…。
 俺のせいでさんの笑顔が消えてしまったの、本当に苦しくって…」


そうか。
大石くんの目には、そう映ってたんだ。

確かに大石くんに告白されたから、そういう態度になってた。

だけど違うよ。
悩みはしたけど、嫌だったわけじゃないんだ。


「一方的に俺の気持ちを押しつけてしまったこと、反省したんだ。
 そっちからしたら俺はよく知らない人なのに、俺ってば考えなしで…。
 君の気持ちも考えないで。…ごめん!」


がばっと頭を下げられた。

十秒くらい経ったかな、
そっと顔を上げた大石くんは、私の顔を見て仰天した。


「え、えぇっ?!な、泣かないでくれよ…」


堪えてた涙、全部溢れてた。

なんだ、私、どうでもよくなられたわけじゃなかったんだ。
良かった。
良かった。

嬉しい。


「ご、ごめ…」

「違うよ」


突然泣き出してしまった私を見て狼狽する大石くんに、否定の言葉。


「嬉しい。そんな風に思ってくれてたなんて、知らなかった」


…そっか。
大石くんから私に何も伝わってきてなかったみたいに、
私も大石くんに何も伝えられてないんだ。

伝えよう、ちゃんと。


「あとね、悲しかった。さっき。
 私のこと、どうでもよくなっちゃったんだと思って」

「だから、それは君を苦しませたくなかったから…」

「うん、だからね」


涙を拭った。
うるんだ景色の向こうで、君が不安そうな顔をしている。


「訂正してくれる?」

「……え?」

「過去のことにして、全部忘れてくれって言ったこと」


意味を理解したのか、大石くんは一旦口をつぐんだ。

そして突き刺さるようなまっすぐな目線をぶつけられる。



「訂正する。前からずっと…今も。
 君のことが大好きだよ、さん」



この前と、全然違う。

同じ言葉で、こんなに幸せになれるなんて。


「私も…大石くんのこと、好きになっちゃいました」

「……ホントに?」


こくんと頷いた。
途端に大石くんは、緊張が解けたような情けないふにゃふにゃの顔になった。

でも即座に、きりっとした顔に戻して、
手を取られた。

大きくてあったかい手。ドキドキする。



「改めて、俺と付き合ってくれますか」


「…はい」



こくんと頷いて斜め上を見た。
その瞬間、初めて大石くんの笑顔を正面から見たことに気付いた。


…ああそれは、私の方も同じだったね。



「これからよろしくね」



これからたくさん、笑顔を合わせていこうね。

二人でずっと。






















ビバ!恐らく我が家初の、
主人公視点で大石片想いから始まる大石夢ー!(どんぱふー)
大石夢何作あると思ってるんだよ…なんで今までなかったんだ。
どんだけ私の中で大石から生える片矢印がありえない世界線なんだよ…(笑)

書いてみた結果、めちゃくちゃ良いじゃねーか(笑)
くっそー、大石に片想いされたい人生だった!!!


2018/11/18