* タートルネックは似合わないけど *












「大石ってどんな子がタイプなの?」


常に大石くんの方向に意識を利かせている私の耳に、そんな会話が飛び込んできた。

ちらりとそちらの方向を見ると、クラスのいわゆる“目立つ”グループの子たち。
確かさっきの休み時間は、別の男子に同じような質問をしてた。

勘弁してほしい。
あなたたちは、別に大石くんじゃなくていいんでしょ。
誰にでも媚売ってるようなあんたらと違って、私には大石くんしかいないんだから。
大石くんさえいればいいんだから。

大石くんのことが、好きで好きで、大石くんの情報を集めまくってる私からすれば、
さっきの質問への答えなんて簡単。
私が答えてあげようか?
「大石くんの好きなタイプは“メガネが似合う女の子”ですよ」って。


結構な間があったけど、大石くんから言葉は出てこない。
これは、相当困ってる。かわいそう。

そう思ってちらりと大石くんを盗み見ると、
困り顔なのに、優しい表情。
きっとすごく迷惑してるだろうのに、
しょーもない質問で囲ってくる女子たちも邪険にしてはいけないとか思ってる。
そういうところが、スキ。


「そんなこと聞いてどうするんだい」

「いいからいいから!」

「別に悪用したりしないし」


ゲラゲラと笑う3人の女子たち。
どうせ大した理由なんてないんだ。
それなのに大石くんを困らせないでほしい。

でもさすがの優しい大石くん。
観念したのか、ぽりぽりと頭を掻きながら口を開いた。


「タートルネックが似合う子…かな」


………。

………は?


いやいやいや。



「何それ具体的すぎない?誰かのこと指してんのそれ?」

「えー誰大石の好きな人〜」

「やめてくれよ…別にそういうわけじゃ」


ガン!!


すごい勢いで立ち上がったら、椅子が真後ろに倒れた。
クラス中の注目を集めてしまった。
やってしまった。


すみません、と声を出すでもなく、
なんとなく会釈しながら椅子を立て直す。
立ち上がったのにまた座り直すのも変な気がして、
そのまま無意味に教室を出た。

一人廊下をズンズン進む。


ありえなくない?
大石くんはメガネが似合う女の子がタイプ
っていうのは、かなりの有力筋からの情報だった。
そんなにころころ変わるもの?
それとも、やっぱり、好きな人が変わったとかそういうこと?


メガネが似合う子がタイプ。
それを始めに聞いたときは、実は嬉しかった。
クラスにはメガネからコンタクトに変わっていく子が多くて、
そんな中、私はメガネを貫き続けていたときに聞こえてきたそんな噂。
まさか、大石くんが私のことを好きでいてくれてるだなんて夢にも思わないけど、
せめて、そのタイプの枠の中くらいには入ってるのかなーって思うだけで嬉しかった。

それなのに。
タートルネック。
は?

私、普段タートルネックなんて着ないし。
そもそも大石くんには制服以外で会ったことないし。
ていうか、何?タートルネックとか。
さっきの子たちも言ってたけど具体的すぎでしょ。
好きな人変わったの?
好きな人に合わせてタイプも変わっちゃう人?
だったら始めから「好きになった人がタイプです」とか言っとけばよくない?
なんなの?


………。


あほらしい。
急に冷めた。

もう、やめようかな大石くんのこと好きでいるの。


爽やかでいいなとか
優しくていいなとか
かっこいいなとか
姿を一方的に見るだけで元気が沸いてくるような感じがしていたけど。

今まで大石くんが私のことを見てくれてるって感じたことはあまりないし
これからもそういうことはないんじゃ、って、
さっきの話を聞いてたら思ってしまった。


もう、終わりか。


ため息をついたタイミングでチャイムが鳴った。
無意味に歩いた廊下の端、また教室に向けて踵を返す。

そんなことで、私の恋はあっけなく幕を閉じようとしていた。


教室に戻ると、さっきの女たちは自席に戻っていた。
大石くんも着席してて、
凜と伸びた背筋で、
窓の外に目をやると、
昼の日差しが眩しそうで
目を細めて、ふっと笑った。

……。

ダメだ。

やっぱり、好きだ。


タートルネックの謎は解けないままだけど。
(本当に好きなタイプが変わったのか、
 前の情報が間違ってたのか、
 それとも好きな人が変わったのか、
 もしくはさっきの女子たちを追い払うために適当に答えただけかもしれないし。)

私はタートルネックは似合わないけど。
(普段着ないし。
 着て見せたことないし。
 そもそも似合わないし。
 これからも特に着ようとか思ってないけど。)


それでもやっぱり、これからもアナタのことを好きな子で居続けたい。

あの子たちみたいに声は掛けられないし、
向こうからもなかなか話しかけてはもらえないけど。

ほんの少しでも魅力的に映れば良いなって、
レンズ越しに密やかな視線を送りながら、
背筋を伸ばして机の前を通り過ぎた。






















ついったヒョロワさんのお誕生日祝いに書きました。
大石のタイプがタートルネックになってぶちギレたり
ミュで干されてぶちギレたり、
それでも結局大石のナオンなんだよこっちは!という思いで書きました。
お祝い感なくてすみません(笑)

しかし、なんで大石の好きなタイプがタートルネックになったんだ…?
メガネはどこいった…?
というのは私も実に気になっている。
メガネが似合う女の子だけでもどよめきだったんい更に変えるなよ(笑)


2018/05/24