* 早く逢いたいよ。 *












「それじゃあ、行ってくるね」



旅立つ前日、そう告げる私に秀くんは不安そうな顔を見せた。
そして、きゅっと抱き締められる。

あったかい。ほっとする。


「どうしたの、淋しい?」

「淋しい…し、不安だよ。だって、よりによって一緒に行くのが…」


そう。
3週間海外へ交換留学に行くことになった私。

そしてもう一人、一緒に行くのが、よりによって私の元カレ。


「だーいじょうぶだって!絶対何もないし」

「別に、何かあるとか疑ってるわけじゃなくて信じてるよ。でも…」


そこから先、言葉が出てこない。
でも、まあ、状況を考えれば不安な気持ちになるのは当然想像つく。

強く抱き返す。


「大丈夫だから、信じて待ってて」

「……ああ」


そりゃあ、よりによって元カレと行くことになるのが決まったときには、げっと思った。

でも、秀くんのことがとても好きだし、
もう、その彼に未練はない、と思ってる。

そう。例えばその彼が、私が好きで好きで諦めきれなくて、
でも別れざるを得なかった相手だとしても。




―――手を振って離れて、それから2週間。



そんなに関わることもないだろう、と思ってたけど、
想像よりははるかに関わる機会があった。
し、二人で喋ることも度々あった。
お互い、素知らぬふりして普通の友達みたいに接する。けど、
さすがにちょっとは、意識するな…。


どうして、別れなきゃいけなかったんだろう。
付き合えたことは嬉しくて、お互い両想いだって感じられてたのに。
いつから、私は、あんな片想いみたいにな気持ちになって、
でも私から彼をフってしまったんだろう。

当時を思い返す。


最後の方は、彼のことを傷つけてばかりだったように感じた。

好きで好きで
好きすぎて
上手に伝えられなくて、なすりつけるように私の想いを押しつけて。

自分でもわかるくらい“重い女”になってたんだと思う。
そうしているうちに、彼の気持ちが離れていくのも、笑顔が減っていくのも、感じてた。
それでもやめられなかった。


だってつまり、それくらい好きだったんだ。
毎日必ずあなたのことを考えてたし、
一緒に居られたら嬉しかったし、
遠巻きに笑顔が見られるだけでも幸せだった。

だけど私の前では笑わなくなった。
限界だと思った。


それが今。

一緒に話してて彼、笑うんだ。


ああ、彼氏と彼女みたいな関係じゃなくて、
こうやって、付き合う前みたいに、
薄っぺらい関わり方をしてれば、君はこんなに笑うんだ。って。
どこか悲しいけど、それ以上に、その笑顔が、嬉しくて。


いけない…心臓が、揺れる。

だって私は、一度も、アナタを好きじゃなくなったわけじゃなかったんだ。


どうしてこうなっちゃったんだろう。
なんて、考えてしまう私は悪い女?



…ああ秀くん
早くアナタに逢いたいよ。


とびきり優しくて

いつも笑顔で励ましてくれて

私のことを好きでいてくれる

そんなアナタに。



早く逢って、甘やかして欲しい
ぎゅっと抱き締めて
隙間なんかなくなるくらいに。


ないがしろにされて
振り向いてもらえなくて
それでも忘れられないあの人のことなんて
もう思い出せなくなるくらいに。























出張中にうっかり閃いてしまったので。
実録?そこはご想像にお任せしますw
(↑クソ女カミングアウトのようなもの)

だってね動く心臓は止められないんだよ。
行動は何も起こさないから咎めないで欲しい…。(←認めた)


2018/04/04