今日、は。

今日なら。


許してもらえるかな。

この想いも、ぜんぶ。










  * 四月一日桜吹雪 *












今日から新年度。
春休みだけれど、青学テニス部は毎度の如く何も変わらず練習日。

嘘ついてからの「エイプリルフール!」って、
人を引っかけて遊んでるの、ちょこちょこ見かけた。
英二くんが不二くんに嘘ついて返り討ちに遭ってるのが一番面白かったな。

そんな一日も、もうすぐ終わり。


「大石くん」


手塚くんと大石くんが部室を出てきて、
手塚くんが日誌を持って職員室に向かうのを見送って、
鍵を掛ける大石くんの背中に、声を掛けた。


「どうした?」

「これからさ、買い出しに行きたいんだけど…ちょっと付き合ってくれない?」


笑顔の私に対して、
大石くんは、笑わない。


「俺が行かないといけないのか?」

「年度切り替わりだから、予算のこととか
 よくわかってないからフォローしてほしくて」


困ったなぁ、という表情をする。
そしてきょろきょろとあたりを見渡す、けど、
他の人はほとんど帰ってることも、
予算に詳しいってことも、
頼まれたら嫌と言えない性格だということも、
私はもちろん把握している。


「お願いします、大石副部長」

「…そこまで言われちゃ、仕方ないな」


文字通り“仕方ない”なんだろうな、
なんて思いながら「やった!よろしくお願いします!」とか
平気で笑っていう私。

大石くんが、私を避けたい気持ちも、まあわかる。


だって私、この前、大石くんに告白してフラれたばかり。



「付き合ってください」って言ったら
「ごめん、無理だ」って。

結局、他に付き合ってる人とか好きな人が居るのか、単に私を好きじゃないのか、
部活が忙しいのか勉強が忙しいのかそもそもそういうことに興味がないのか、
理由も実はよくわかっていない。


でもなんだろう。
私の中で、何かがくすぶっていて。

どうせ付き合えないなら、理由なんてわかったって意味ない。
なのに、くすぶっている、この感情、は。


見返りを求めているんじゃない。

私は、私、が――…。



「何を買いたいんだ?」



掛けられた声に、はっとする。
その声ですら、私の心臓を揺さぶってくる。


「行けばわかるよ」ってはぐらかして、
やや早足に小道に入る。



「こっち近道なんだ、行こう」



斜め後ろを見ると大石くんは少し不思議そうに、
でもちゃんと着いてきてくれていた。


日が延びたな、6時って、まだこんなに明るい。


今年の桜は、例年より少し早かったのかな。
風が吹くと、たくさんの花びらが舞う。


綺麗だ。
まるで雪みたい。
ああそうか、だから桜吹雪っていうのか。


もう気付いたかな、様子がおかしいことに。

その証拠、大石くんが少し離れてる。
早足になった私と、同じペースで着いてこない。


商店街から離れて、
川を渡って、
広場。


ぴたりと足を止めて、くるりと踵を返す。


「ごめんね、買い出し付き合ってほしいって、嘘なんだ」


バクバクした心臓で見上げた大石くんは、眉をしかめて、まるで、
これから私が何をするかわかってるかのように。



ごめん。

ごめんね。


今日くらい、許して。
これから私が嘘をつくことに。



「これから私が言うことも全部嘘だから」



オレンジになりかけの

ピンク

が散る。



「大石くん…」



半歩後ずさりするのが見えた。


わかってるよ、結果なんて。

だけどこれ以上、留めておくのも無理なんだ。


ごめんね、真実として伝えることが出来なくて。
私の中の、くすぶっていた感情が、弾けるように口から飛び出す。



「好き」



「大好き」



一つ告げるごとに、より一層、その気持ちが大きく膨らんでいくから、困った。



「優しい目が好き」


「手が好き」


「心配し過ぎなくらい周りを気遣うとこが好き」



いくらでもある、君の好きなところ。



「笑った顔が好き」



なのにどうして、これが嘘でないといけないのだろう。




「好き…」





顔を下ろした。
いけない、これ以上続けたら、泣きそうだ。

と思ったとき。



「っ、やめろ!!」



聞いたことないくらい、強い声で制止の言葉を叫ぶ大石くん。

片側だけ引きつったようなその表情に、
今、彼がどれだけ苦しい心情になっているかが手に取るようにわかった。

怖くて、申し訳なくて、
でもどこか満足している自分も居て、
ごめん。



「…ごめんね。もうしない」



私は笑う。
大石くんは笑わない。



「こんなウソ、ついてごめんね」



そう、あくまでこれは“ウソ”だから。

だって今日は、ウソをついても許される日なんでしょ?



「エイプリルフール。また、明日ね」



彼の横を通り過ぎて、元来た道を戻る。



これからの関係を、もしかしたら犠牲にして、
それでも伝えずに居られなかったこの想い。
嘘でもいいんだ、君の耳に、届けられて良かった。


そんな、今年の、四月バカ。






















ついったーで色々妄想してる中で一番作品にしたかった微悲恋。
初期アップはぷらいべったーでした。

大石に桜宛がうの好きすぎる。
エイプリルフールの日は毎年割と桜シーズンなんだなーと気付いた。
…書いたのは桜のない地球の裏側だけどもw

相手に伝えたいんじゃなくて、
自分から吐き出したいだけってときもあるよね。という話。


2018/04/03