* 君は夜より朝日が似合う。 *












『シャアアアアアア…』

「ん…」




何か水の音で、ぼんやり意識を手に入れる。

ここは、私の家。ではなくて、
秀の家。
秀の布団の中。

鼻から大きく吸い込むと、慣れたものとは違う匂いで鼻の奥が刺激される。
はあ、と口から全て吐ききった。

ゆっくりと体を起こす。…全裸。
あたりを見回すと、床に散らかっていたはずの服が律儀に畳んで寄せられてる。
こういうところがさすがだよなぁー…と
今シャワーを浴びているのであろうその人物のことを考える。

時計……5:53。

いつもなら余裕で熟睡中だよ、と思いながら
ぽすんと頭を枕に戻す。
どうしよう、まだ気だるいし二度寝しちゃうか、
その人が起こしに来てくれるまで…。

と、丁度意識がまどろんできたタイミングで水の音が止まる。
そして、スライド式のドアが開く音がする。


しばらくすると、パタパタ、とスリッパの足音が近づいてくる。


、朝だぞ」

「ん、ンー…」

「ほら起きろ、遅れるぞ」


ぽんぽん、と何度も布団越しに肩を叩かれる。
もうちょっと寝たい、し、
もうちょっと甘えていたいな、とも思う。


「おは、よ〜…」

「おはよ。シャワー浴びるだろ?」

「ぅん……」


眠りかけてて意識はボヤボヤ。
なのに目の前の人はさっぱりシャキッとした顔をしていて、
パリッとしたシャツの襟にネクタイを通すと
きゅきゅっと締めてみせる。
…かっこいいな、と思う。


「今日も寝ぼすけさんか?」

「起き、るー……!」


布団の中で思い切り伸び。
そして脱力。

ほら、と秀はまた肩を叩く。


シャンプーと、
あなたのいつも着けてる香水のいい香り。
そうか、朝一番はこんなに香るのか。

なんだかドキドキする。


「ほら、体起こせ」

「うんー…」


背中を支えて起き上がるのを手伝ってくれた。
相変わらず優しい。

起き上がると布団がはらりとはだけた。のを、
秀はさっと視線を逸らして見えないようにした。

その反応に…なんだか奥底の方がムラッとして。
私は悪いことを思いつく。


「秀ちゃん…シたくなってきちゃった」

「何言ってるんだ」


またそんな冗談を、という感じで流そうとしていた秀も
私が背中越しに抱きつくとさすがにぎょっとしたのがわかった。

思い切り吸い込むと、全部あなたの匂い。

たまらない。


、やめなさい」

「お願いー」

「遅れるって」


秀は絡みつかせた私の腕を一本ずつ剥がす。
負けじと私はぽんぽんと背中を叩く。


「ねぇ〜いいじゃん、大丈夫だよ!
 どうせ秀ってばいつも始業の1時間以上前には着いちゃってるんでしょ!」

「ダメだ」

「なんで!ほらぁ〜」


スーツの上から、ススと下半身を撫でる、と…

『パシッ!』

その手ははたき落とされた。


「頭冷やせ。ほら、シャワー浴びてこい」


はい。と、
床に積まれていた服を渡される。

…はいそうですか。


盛り上がってるのが自分だけなのがバカらしくなって、
私はそのままお風呂場に向かった。

なんかな。
たまにしか泊まりに来られないから、
そのときは思いっきりべたべたしたいと思ってるんだけど。
そう思ってるのは私だけ、か。

夜はあんなに優しかったのになー…。

夜と朝だと、秀は別人みたいだ。
こういうとき、なんか、片思いみたいで淋しい。

な。




  **




そんなことがあった日から、3週間ほど経ったある日。


『今日早く帰れそう。予定どう?』


受信したメールに飛びついて、私は秒で返事をする。

おおよそ月に一回、唐突にやってくるデートの日。

平日も土日も、昼も夜もかまわず忙しいお医者さんの卵の秀。
なかなか休みの予定は合わないし、
やっと取り付けた約束のドタキャンに泣いた日もある。

だから私は毎日油断ならなくて、
今回みたいに、突然!なことがあっても良いように、365日臨戦態勢。

毎日綺麗な私でいられるのは秀のお陰、なんてね。
大変だけど、それよりも、唯一貴重なそのときを逃したくない。


「すみません、今日定時で上がります!」

「デートの日?頑張ってね」

「ありがとうございます!!」


職場の皆さんは事情を理解してくれてありがたい。
(飲み会の度に「またドタキャンされた!」「一日ゆっくり出来ることがない!」
 「片思いなんじゃなかろうか!」とかぎゃーぎゃー私が騒ぐから)

会社のロッカーにしまったワンピースに着替えて、
丁寧めにメイク直しをして、
デート用の香水を振りかけて、会社を後にする。

いつの間にか履き慣れたヒールの高い靴、
カンカン鳴らしながら最寄り駅へ小走りする。


そうか、この時間に退社すると、外はまだ明るい。

このタイミングを逃さないために、
私は残りの29日をみっちり頑張ってるんだから!
そう思って堂々と、帰宅ラッシュが始まり始める夜の街に飛び出していく。




  **




駅で待ち合わせて、夕ご飯を食べて、他愛もない話をして、
一緒に秀の家に移動して、
やっぱり、秀はとびきり優しくて、
とろけるくらい甘えさせてくれて、
だけど、朝になるといつもの“朝の秀”になることはわかってる。


わかってる、けど。



「おやすみ、

「……おやすみ」



優しい笑顔と温もりに包まれて、
そのまままどろむがままに眠りに落ちた。




  **




んっ……。


なんだ…

なんか、きもち、イイ……。


夢……?


なんか、ふわふわして、
全身が、雲に流れてるみたいで…

しあわせー……


あれ、

なんかさっきから

きもちいい


これ……



キス……


あれ、キス、してる、私。

誰と?

そんなの、秀しかいないよね。


秀……。





『チュッ』


と、音がして。




その、口が離される音と感触で目が覚めた。

今まで私、寝てた。
で、夢との境目のような意識の中で、
確かに今までキスしてて、でもたった今離された。

目を開かないまま、音で、秀がパタパタと歩き去っていくのがわかった。
シャワーに行ったのかー……。


……きもちよかった、な。


夢見心地の中で、キスされていたことを思い出す。
その、感触も。



…ヤバイ。

めっちゃ、シたい。



あんなに気持ちの良いキスをされて、
沸き上がるものを抑えられるわけがない。


でもダメだ、この前だって断られたし。
(ていうか危うくケンカになりそうだったし…。)


今のうち、に。


そっと手を下半身に伸ばす。

小さな突起に触れると、それだけで甘く痺れてしまう。


「っ……」


すぐにそこは濡れてきて、
奥に、指を飲み込んでいく。

目を閉じると、まるであなたに包まれているみたい。

あなたの部屋。
あなたの布団。
あなたの匂い。

この指だって、昨晩そうしていたように。
優しく。
時に激しく。


「あ…秀、ちゃん。秀……!」


ただ一人でしてたって声なんか出ないのに。

そこにあなたがいると思って。
あなたが触ってきていると思って。
この指も、全部全部、あなただと思って。


「(…ッア、だめ…ヤバ……)」


自然と指が速くなる。

腰が勝手に動く。

背中が仰け反ってくる。

足が、ピクンと痙攣したみたいに意識に反して動き出す。


息が荒い。



「ハァ…ハァ……!」



出来るだけ奥までぐいぐい押し込んで、
と思ったら今度は素速く出し入れして。



「イ、ク……イキ……そ」



きもちい。

きもちい。

あと、少し…もうすぐ…!



「ぁ……ハァッ、あ!アアア…!」



あと、ちょっ…!


『ガララ』

「!」


スライド式扉の開く音。

ビクッとして手をそこからはがす。


その部分がヒクヒクッとしているのを感じる。
急に止んだ刺激に、物足りなさそうに。


あとちょっとだったのに!!


でもどうしよう、今更治まる気はしないし、
秀がこっち来る前にさっさと…
ああでも声出さないでイケるかな…
どうにかして早く治めないと……!

我慢できるか弄るか迷って、
触れちゃった、ら、にちゃ…ってして。

ヤバ。


でも。

パタパタ。
スリッパの音。

あ、ダメだ…。


「あ、。起きてた?」

「おは、よ…」


きもちくて指が離せない…
だけどこんなじゃイケない…

どうしよう。
どうしよう。

なるべく平常心を装うけど、息が少し乱れてる気がする。


何も知らずに、秀は怪訝な顔で覗き込んできて。


「ん、どうした熱っぽい?」


私のおでこに触れ、自分のおでこに触れ。そして眉をしかめる。

しかも、わかる。
お医者さんの卵の秀がいつもこの後どうするか。

でも今は…!


「脈取るから手首貸して」

「ダメェッ…!」



え?、という顔の秀。
でも腕は布団から引っ張り出されて。

私の手は。

糸引くくらいびちゃびちゃ。


「……え」


ばっと布団がまくられる。
足を閉じて隠すけど、
私のその部分はきっと今頃だらしなく汁を滴らせている。


「何してたんだ…」

「あ、そのあの、その……」


顔が更に赤くなるのを感じる。
目が合わせられない。


…」


怒られる…!
と、思ったら。

え?


「んっ…!」


口を塞がれていて。
舌も絡み合って。

下が キュンキュンッ! ってしてしまう。


ゆっくりと口が離される。


「こんなになるまで、一人でしてたのか?」

「ご、めん…我慢できなくなっちゃって…」

「俺がいるのに?」


う……。

そうだけど、でも、この前みたいなことになったらイヤだし…。
それに、どちらかというと秀がいるからこんなになっちゃったというか…。
でもそんな言い訳しても怒られそうだしどうすれば…。

と葛藤してたら。


「って、違うよな。俺がこの前断ったからだよな」


かし、と頭を掻いた秀は、
ちらっと私の下半身を一瞥する。


「これは、もうイったの?」

「……ううん」

「じゃあ、俺がイカせてあげるよ」


そう言って不敵に笑う。


「秀、仕事は…?」

「大丈夫。いつもは早めに行ってるから、ホントは1時間以上余裕あるよ」


そういって、思い切り足を開かせて、
私の中心部に指を当てる。

あっ、ダメ!
あと少し擦ったらイっちゃいそう!!

思わず手を払いのける。



「お願い、チョウダイ…秀の入れてイキたい」



秀はニヤッと笑うと
ぷっくりと腫れ上がっているであろう突起を
ツンツンと人差し指の先端で突く。



「俺はもうシャワー浴びちゃったんだけどなー…」

「ご、めん!ごめンン!」

「いいよ」


この前我慢させちゃったから、お詫び。

そう言って、カチャカチャとベルトを外すと、
ズボンと下着だけをずらして。

じーっと私の下半身を見つめる。


「もうトロトロにほぐれてるな、慣らさなくて平気?」

「いいから、早くぅ…ん!」

「はいはい」


準備を終えると、
その硬くて熱い棒の先端を私の秘部の入口に当てた。

ゾクッ とした。


更に、宛がったままゆらゆらと腰を回してくる。
あ、ダメ……それすごい感じちゃう…!


「さすがにちょっとは、慣らす?」

「ほんとイクから!焦らさないで!入れてェ!」


だってもう、我慢してないとイっちゃいそうなのに…!
早く、早くしてよぉ!


「おねがいぃ、しゅう…!!」


あ、あ、ヒクヒクしてる!
イっちゃう、イっちゃうイっちゃう…!



「…わがままだな。、は!」

「ああああああああっ!!!」


ズン!と一気に差し込まれた瞬間。

絶頂。



イっちゃった…

秀の入れて、イっちゃった…

ふあ、ぁーー………。



「本当に入れただけでイっちゃったのか?」

「ふぁ、ごめ…ァッ…はぁ…ふっ……!」


きもち、良すぎて。
頭がぼーっとして。
何が何だかわからない。

焦らされたせいか、
全然イキ終わらない。
ゆっくりだけど、まだビクン…ビクン…っていうのが続いてる。

天国……。


「…俺のことこんなにガチガチにさせといて、それは許せないな」

「ふぇ……?ぁ、ヤンッ!!」


唐突に腰がガンガンと動き出す。
体ごと揺さぶられるみたいに。


「ア!ヤン!ア!ぁ、ア!ア!!まだ、アンッ!ヤ、だめ、やァッッ!!」

だけ一人で気持ち良くなるなんてずるいぞ」


ビクビクいってるけど
さっきのが終わってないのか
また更にイってるのかわかんない。

わかんないけど。
ずっとキモチイ。


…アレ?
また新しいのが上りつめてきて…!


「あああああ!イクイク!またイク!あ、ああ!ああああ!」

「すごい…っ、ずっと、脈打ってる……ッ」


何コレ、
意味ワカンナイ、
どうしようもないくらい、全部キモチイイ…!


…」

「しゅ、う!しゅう……ッ!」


名前を呼び合って。

お互いの口を塞ぎ合って。

その間も腰の動きは止まらなくて。


「アッ、アッ、またキちゃう、また、あっあっあっ!!」

「またイクの?いいよ、我慢しなくて」

「あっ、アーーーー!!!」


背中が仰け反る。

呼吸が苦しい。

なのにキモチイイのが治らない。


、キモチイイの?」

「うん、キモチィ…!」

「どこが?どんな風に?」


耳元で甘く囁いてくる。
いつも、昨日の夜も、いつだって秀はそうやって聞く。

答えるのに抵抗がないわけじゃない、けど、
私はそれをいうと秀が喜ぶの知ってるし、
秀にも私がそれを口にすると尚更感じちゃうのも知られてる。



「私の…ッ!恥ずかしいとこ、ずっと、ぐちゃぐちゃで、ビクンビクンして、
 アァン!あっ、すご、い……スゴイのぉ…!」



なんだか、秀のがもっと硬くて熱くて大きくなった気がして、
私の中はもう秀でいっぱい。
さっきからずっとずっと、秀しかない。


「くっ…、俺も、もうすぐ…」

「出して、イッパイ出して…っ!」



腰の動きを速めながら、
秘部の突起をぐちぐちと弄る。

そこはっ…!


「ヒヤアァァァ?!」

「すごい、締ま……っ!、イクよ…ッッ!」

「あ、あああああん!!」



自分の中で別の何かが脈を打ってるのを感じながら、
何度目だったかわからない絶頂を迎えた。

荒くなった息が収まってきた頃、秀は私の中から体を抜いた。



、大丈夫?」

「だい…じょう…ぶ…」

「なんかすごいことになってたけど」


笑いながら、汗で張り付いた私の前髪をおでこから剥がす。
…私はもう指一本動かしたくない。


「あんな、イキっぱなしになったの、初めて…」


ふぅ。
やっと息が整ってきて、大きく深呼吸。

秀は横で他人事のように喋る。


「朝からお盛んなことで」

「誰のせいだと思ってんの…!」

「え、俺?」

「秀だよ!寝てる間にチューしてきたでしょ!」


あ、気付いた?なんて言って笑ってる。
もー。勘弁してよー…。


「俺も汗掻いちゃった。軽く汗だけ流してくるから、あと5分だけ寝てな」


ぽんぽん、と頭を叩いて秀はベッドから立ち上がろうとするから。


夜だったら、そのまま一緒に寝られるのになぁ。
やっぱり朝は淋しいなぁ。

って、つい腕をぎゅっと掴んじゃったの。


そしたら、チュッとキスが降りてきて


「続きは、また今度な」


だって。


私に布団を被せて、
秀は再びシャワールームに足を向ける。
私はそれを目と耳だけで送り出す。


やっぱり朝は淋しい、けど、
朝が来るから明日があるし、
朝のあなたはとびきり素敵。



ブラインドから盛れる朝日が眩しい。


起き上がるまでのあと5分だけ、

あなたの香りに包まれておく。























敢えての朝プレイww
夜もやることやってる描写は入れときながら敢えてのスルーw
大石は朝が似合うよねって話。

2015年6月に思い立って9割方書き上げてたんだけど
仕上げ放置してて2年以上経って完成…笑

2年越しに読み返しての感想:これはいいS一郎(笑)
そして主人公ちゃんもよく調教されてますわ(笑)


2017/11/25