* 花笑む手前の桃色歩道 *












―――まだ桜はつぼみすら見えない、梅が綻び始めたような季節のこと。





「めっずらし〜。大石先輩が走らされてる」



コートの外、一人で外周を走る大石先輩見つけて、思わず声がこぼれた。

自主的に走ってるだけか?とも考えたけど
腕を組んでその姿を目で追う手塚部長を見るに、
どうやら走らされているみたいだ。


「にゃににゃに?」

「ほら。珍しくないっスか」

「えー?」


オレのひとりごとを聞きつけて寄ってきたエージ先輩は
オレが指差した先、大石先輩を目に捉えると
なんとも言えない表情をした。


「あー…オレ、理由わかるかも」


どこか嬉しそうなような、
でも飽きれたとも取れるような、微妙な笑い。

さすが、ゴールデンペア健在、ってか?
どうやらエージ先輩には理由がわかるらしい。


「何っスか?」

「ま、本人に聞いてみれば〜」


手をひらひらと振りながらエージ先輩は離れていった。

…なんだぁ?



そんなに周回数は多くなかったみたいで、
オレがストレッチをしている間に走り終えた。
走り終えて汗を拭いている大石先輩に近寄って
スクイズボトルを渡すと、ありがとう!と受け取ってそれを飲み始めた。


本人に聞いてみれば、ってことは、
聞けばわかる…のか?
エージ先輩は微妙な反応だったけど。

ま、聞いてみっか。


「珍しいっスね」


とりあえず声を掛けてみると、
予想とはちょっと違う反応。


「いやー、集中力を欠いていると手塚に指摘されてしまったよ!
 参ったな…そんなつもりはないんだけどな。
 でも走らされるぐらいだし、手塚の目にはそう映ったんだろうなぁ。
 走らされる…それも、部活はまだ始まってない時間帯に
 走らされるなんてなぁ、参ったよ!ハハハ!」


爽やかな笑顔でそう言った。
いつもより饒舌な気がするし、ちょっとテンション高ぇな?高ぇよ。


ま、この様子なら聞いても問題はないか。



「調子は良さそうっスね。なんかあったんスか?」


途端。


ぱっと花が咲いたような笑顔になって。


「彼女がドイツから帰ってくるんだ!」


と言った。



そっか。
大石先輩の、彼女…。


センパイ、でしたっけ」

「ん?ああ、知ってるのか!」


知ってるも何も…実は、ちょっと気になってた…なんて、
大石先輩の前では言えない。


しょっちゅうテニスコート付近で見かけて、
正体もわからず気になって、
そしたら大石先輩のことを見に来てたなんてな!
やりきれねーな、やりきれねーよ。

…ま、別に本気で好きとかそういうんじゃなくて
なんとなーく気になってたくらい、だしな。うん。


「確かかなり頻繁に見学に来てたじゃないっスか。
 一緒に帰ったりもしてましたよね」

「そう!そうだったんだよ!
 だけど親の都合でドイツに引っ越してしまって…。
 でも!明日、半年以上ぶりに一時帰国で戻ってくるんだ!」


聞いてもいない情報まで喋ってくる…。
これは、相当嬉しくて仕方がないって感じだな。

本当に好きなんだなぁ、先輩のこと。


「先輩、本当に先輩のこと好きなんスね」

「え?いや、まあ、付き合うくらいだからな!ハハ!
 おっちょこちょいなところもあるんだけどいつも一生懸命でな、
 笑った顔が可愛くて……ってこらっ、桃!何を喋らすんだ!!」


いや、俺、そこまで聞いてな……

と否定するヒマもなく、ばしばし背中を叩かれた。
……まあいいか。

大石先輩も大石先輩で、怒ってる感じはしなくて、寧ろ嬉しそう。



そういえば、暫く大石先輩元気ない時期あったよなー、半年くらい前。
あれは引っ越したときだったってことか…。


久しぶりに会えるからテンション高いのか、
それとも、彼女と会えない間がテンション低い大石先輩で、
元々こんなだったんだっけか?忘れちまったなー。

元気ない時期は心配したもんな。
コートの外を見てため息を吐く先輩、しょっちゅう見かけた。
まさか原因が彼女サンの引っ越しだとは当時は知らなかったけど。

これくらいの方がいいのかもしんねぇな、しんねぇよ。



「いっスね、大石先輩が元気だとテニス部全体も活気が出ますよ」



そう伝えると、大石先輩は

「ありがとう」

と笑って。


その笑みが、とても柔らかくて、幸せそうで。


これは、
オレの掛けた言葉に対して、なのか、
抑えきれない嬉しい感情がにじみ出ているのか。
…なんて、まあ、どっちでもいいか。


大石先輩をこんなに嬉しそうな顔にさせられる先輩は、
なんかズルイな、とさえ思って、
どっちが羨ましいとか…そういうんじゃなくて、
あえて言うなら二人の関係性に…かな。


とにかく、大石先輩が元気そうで良かったし、
走らされるくらい幸せになる理由が、よくわかった。
んで、距離を置きたくなるエージ先輩の気持ちも、ちょっとわかった。
なんつってな。






















桃ちゃんの誕生日だから何かやりたいけど
脳みそが大石から離れなかった結果こうなった笑

『桜並木のアーチの向こう』の続編ってか前に繋がる話ですね。
あの作品、フラグ立てるだけ立てて回収できてなかったので。
まさかの14年越しだけど、お気に入り作なので繋ぎ書けて良かった。

この時期ってもう3年って引退してるんじゃね説だけど
高校行ってもテニス続ける選択してる人は
部活に来てるとかそういう設定にしよう。
(どちらにせよもう部長じゃない手塚に走らされてるよねこの大石…)(笑)
(桃ちゃんのモノローグも手塚“先輩”にしようと思ったけど
 違和感MAX過ぎたのでやめたっていう裏話)

全然桃ちゃん祝えてない!
寧ろ桃稲か桃大かわからんけど微妙に桃ちゃん失恋チックになってる笑!
ごめん桃ち好きだよ!お誕生日おめでとう!!(雑www)


2017/07/23