* 恋風 *

 〜such an easy forty-love〜













春。

今日から新学期。



始業式だけの今日は学校は午前中で終わって、
午後からは部活動に精を出している。

といっても、春休み中もほぼ毎日学校に来て練習していたから
いつも通りの日常、といった感じだ。



体を少しでも動かすと、汗ばむような気温になってきた。
集合時はジャージを着ていたけれど
今では脱いでベンチに置いている人も多い。

コートの外を見渡すと、桜が散っているのが見えて、
もう満開も過ぎたな…なんて思った。



「んじゃ大石副部長、もう一本お願いします!」

「よし、行くぞ」



俺の球出しで、桃城とのラリーが始まった。
最近すっかり力を付けてきて、まったく気を抜けない。


と思った矢先、少し強めの風が吹いた。
一瞬だが目を固くつむり、球の軌道が若干浮いてしまった。

しまった。



「おりゃ、ダンクスマーッシュ!!」



とびっきり飛び跳ねた桃城は、
叩きつけるようにボールを打ち下ろした。

俺は全く手が出ず、大きく弾むボールを見送るしかできなかった。



まいったな、また力を付けたんじゃないか?と褒めようと思った矢先。


「…あ」

「やっべ!」


弾んだボールは、フェンスを飛び越して道の方へ行ってしまった。
まずい、と思い咄嗟にラケットをコート端に下ろして俺は駆け出した。



「すんません、俺が取ってきます!」

「ああ、いい。取ってくるから続けてろ!」



コートの裏は車の通りは少ない道ではあるけれど、
早めに回収した方が良い。
コートの出口に近かった俺がそのまま取りに行くことにした。

ボールが落ちた方向を目指すと
桜の木の下を通ることになった。

首を少し持ち上げながら走った。


さっきから結構風が強い。
吹くたびに花びらが舞う。


綺麗だ。
春だな。

今年も一年頑張ろう。そう考えた。



さて、ボールはどこに行っただろう…とあたりを見渡すと、
同い年くらいの女子生徒が目に入った。


手元を見ると、どうやら拾ってくれてるみたいだ。




「すみません!」




駆け寄りながら声を掛けると、

顔をこちらに向けて。


いつの間にこんな夕方になっていたのか、

その顔はオレンジ色の光に照らされて。


風が吹いて。


夕日に照らされているのに

そこだけは一面の桃色で。



目が合うと

潤みきった瞳で

息が止まりそうな視線を向けてきて。




………アレ。



知り合い、じゃない よな


既視感みたいな



なんて声を掛ければ


あれ?



胸が。



なんだこれ。



「………」

「………」



見つめあったまま数秒経っていたことには、
彼女の方から声を掛けてきてフリーズから解けて気付いた。



「あ……二人の世界に入っちゃいましたね、なんてね…」




そう言うと恥ずかしそうに顔を伏せて、
今一歩距離を縮めてきて。


はい、と

ボールを手渡してきたとき

指先が触れた。



あっ……。





トンッ




トン


トン…





「あ、ごめんなさい」

「いや、こちらこそ!せっかく拾ってくれたのに」



焦って、弾みながら逃げていくボールを捕まえる。

今…

金縛りにあったみたいだった。

指が触れた瞬間

世界が止まってしまったみたいで…。



なんだろう。

息苦しい。
けど、ここに居たい。


けど…。



「いけない、練習の途中だった」

「あ…頑張ってください」



それじゃあ、と、背を向けて、
ちゃんとお礼を伝えられたかも忘れて
俺はまた小走りで桜の木の下を通り抜けていく。


なんだろう、この得も言われぬ感情は…。
嬉しいとか悲しいとか、そんな言葉では言い表せない、
奇妙な胸の高鳴りと心地好い昂揚感。



これがもしかして……



恋。


なのだろうか。




手につかんだテニスボールをもう一度握りしめなおしてから、
平常を装ってコートに戻った。






















『恋風』 近藤孝行(大石秀一郎)





 

吹き抜ける温かい風と舞い散る桜の花びらに当てられて
あららまるで簡単にフォーティラブな大石ですよ。
ボールの弾む音が恋に落ちる音だねw

『恋風〜rather easily fall in love〜』の大石サイド。より2番を意識。
↑と同じ時期に書き始めてたけど完成に半年かかってもた。
恋風2017Version発売決定おめってことでw

大石が3年生の春だとしたら初日は遠征行ってたやろ、
という突っ込みが来てしまいそうですが
始業式と被る時期に遠征やる学校もどうなんという突っ込み返しもあるし
ドリームだしってことであやふやにする(笑)


2017/04/23