* 今日はアナタさえ居ればイイの *












「今年も待ち人来たらず…か」


もう今年も終わりだなぁ、と暦を頭に浮かべる。
今日はクリスマス。
来週の今頃は、もう来年だ。

今年の元旦に引いたおみくじは
「待人 来る 焦らず待て」なんて書いてあったけど、
焦らずひたすら待ってた結果、
もう今年も残り一週間ですよ。


…クリスマスもだけど、
何もない3連休っていうのは…地味に淋しかったな。

もう期末テストも終わって、部活もなくて、
後は週明けに始業式のためだけに登校するだけで、
ただただ遊べる週末だったのに…。

はーぁ。
なんかなー…。


まさか、もうサンタなんて信じるような年じゃないけど、
プレゼントがないと、アナタは悪い子ですよ、って
言われているみたいな気持ちになる。


クリスマスプレゼントに、大きすぎるお願いをしたからかな。

好きな人と付き合いたいです、なんて。


七夕の短冊じゃあるまいし
そんなお願い事してる時点でおかしいのはわかってるけれど。

それでも、何故か信じたくなってしまって。
クリスマスの魔法みたいなものを。



他には 何も いらない。

もしも この願いが 叶うなら…。





せっかくの3連休、天気も良いのに家で何もしないのも勿体なくって、
なんとなく散歩に出かけた。
そんなこと、普段なかなかしないのに。

後から思えば、
もしかしてこれがクリスマスの魔法だったんじゃないか、なんて。
何かに突き動かされるみたいに。


まだ朝は早くて、息が白くて、
マフラーの中に顔を埋めて、
少し俯き気味に歩いた。


なんでこんな寒い時間帯に出かけちゃったんだろう、
でも昼間になったらどうせカップルだらけだし…。

あれ、そもそも私はどこに向かってるんだろう?と。




「あれ、さん?」




……え。


顔を上げる。
そこに居たのは…。


「サンタ…」

「…え、俺?」

「え、わっ、何言ってんだ私!ごめん!!」


さっきまであんなに寒かったのに、一気に全身が熱い。


大石くんがそこにいた。

私の、好きな人が。


「いやごめん、あの、サンタクロースって、居るんだなって…」

「えっ、どういうこと?」

「ごめんこっちの話!」


なんか、焦っちゃって謝ってばっかだ私!
でもだってまさか本当に会えるだなんて…。


「てか、急いでる?どっか行くとこだよね」

「いや、特別急いでるってことはないけど」


そういうと、大石くんは重そうな鞄を掲げて苦笑を見せてきた。


「図書館行って勉強しようと思って」


そんな、テスト期間も終わったし、
私たち青学の生徒はエスカレーター式だから受験もないのに…。


「わー、真面目だね」

「ほら、俺、外部受験するからさ」



…え。



「うそ!」

「あ、知らなかったか。そうだよなクラスも違うと」



大石くんとは去年クラスが一緒で、仲が良くて、好きになって、
今でも廊下ですれ違うとたまに声を掛け合うくらいの関係だけれど…。

そうなんだ。
大石くんとは、同じ高校に通えないんだー…。



「そっ…かぁ」



そう思ったら

好き な気持ちと

離れたくない 気持ちが

いっぱいになってきて


他には何もいらないのに。

アナタさえ居ればそれでいいのに。

アナタだけは居なくなってほしくないのに。



「…そんなわけで、ちょっと勉強してくる。それじゃあまた学校で…」

急に黙り込んだ私に戸惑った様子で、
気を遣いつつ大石くんは去ろうとする。


「待って、大石くん!」

だけど私は呼び止める。




アナタさえ居ればいいの。


お願い、クリスマスの魔法。




「勉強、頑張ってほしい。受験も成功させてほしい」



あちらに振り返りかけてた大石くんが、
またこちらを向き返す。



「だけど離れちゃうのは悲しい」




いつの間にか、私の目には涙。





「私、大石くんが、好きなんだ!」





これ以上は、何も言えないよ。





「……ありがとう」




涙が止まらなくて、私は俯いて顔を覆っていた。
大石くんは、そんな私の頭にポンと手を置いて、
そのまま話し始めた。



さんの気持ち、すごく嬉しい。
 でも今は勉強に集中したくて…ごめん」

「…わかってる」



なんだか、大石くんの気持ちの想像がついてしまった。
勉強に集中したいっていうのは便利な言い訳で、
きっと受験が終わっても、通う学校が一緒でも別でも、
大石くんが私と付き合ってくれることはずっとない気がする。
考えすぎかもしれないけど、
この頭の上の手も、私の顔を見たくない故の無意識の行動と思える。


手が下ろされた。

私は顔を上げる。

でも目線は合わせられない。

たぶん今、すごく目も鼻も赤い。


向こうは喋りづらいだろうなって、
私は言い訳じみたその場しのぎの説明をする。



「サンタさんにお願いしたんだ、好きな人に会いたいですって。
 本当に願いが叶ってびっくりした」



本当は、付き合いたいです、って願ったんだ。
欲張りすぎだったかな。
やっぱり私は悪い子かもね。


本当の願いは叶わなかった。
だけどサンタさん、ありがとう。
今日会えなかったら私は知ることもできなかった。
離れる前に知ることができて良かった。



「ごめんね、大事な時期にこんなこと言って。受験頑張って」



そう言いながらも心のどこかで、
落ちてくれないかななんて願ってるから私はやっぱり悪い子だし、
サンタさんが見限るのもわかる。
こんな私だから、大石くんがもし受験失敗して、
同じ学校通うことになったって、うまくいかないと思う。


そんな私の心内に気付かずに


「ありがとう」


って微笑みを見せて去っていくから、

大石くんは本当に素敵な人で
私の好きな人で
どんなに願っても手に入らない人なのだと思う。




「あ!」




え?と思ったら、数歩進み始めた大石くんは戻ってきて
「寒いだろ、これあげるよ」なんて。

カイロ。



「ありがとう。大石くん風邪ひかないでよ。じゃあね」



涙がこぼれる前に、今度は私から背を向けてその場を立ち去った。




こんなもの、願ってなくて。

本当に欲しいものは手に入らないなって心の中で苦笑して。


欲張りはいけないなって。

来年こそは、もっといい子になろう、って。


そう思ったクリスマス。

アナタさえ居ればいいのよ、って、次は心から思えますように。






















マライアキャリーの『All I Want for Christmas is You』インスパイア。
ていうか、今年の私のクリスマスはまさにこれだったなと。
しかもちょっと、ネガティブな解釈の方ね。苦笑

大石さえ居てくれればそれでいいや。笑
せめて夢小説の中で幸せになってくれ。合掌。

↑と思ってたのに書き終えてみたら見事に悲恋じゃねーか爆笑!
てわけ言い訳タイム!
ちょっとこの主人公はネガティブに考えがち主人公なの!
受験が終わったら大石はマジでちゃんと向き合ってくれるから!
無事受験成功しました報告と一緒に、別の学校に通うことになるけど、
それでもいいんだったら…つって!まさかの!
そんで普通の高校生並に1年弱くらい付き合うって感じじゃないですかね!(最後雑ww)


2016/12/25