* この街に君が居ない *
「ごめんね」
謝る君。
その君が、背を返す。
「バイバイ…」
置き手紙のようにその言葉を残して一歩、また一歩と足を進める。
待て。
待ってくれ。
追いかけたいのに、足が動かない。
声も出そうな気がしない。
でも、呼び止めないと。
「待ってくれ…」
力の限り、声を振り絞った。
「っ!!」
ガバッ。
自分の声に飛び上がるように跳ね起きた。
……夢。
ふぅ、と大きく溜め息。
久しぶりだな、こんなの。
暫くなかったのに。
パタパタと胸元を煽いで、嫌な汗で湿ったパジャマを乾かす。
…会ってしまったから。
会えない日々に慣れてきたのに、会ってしまったから。
まだ、君が居なくなってから1日だというのに。
いつも通り支度をして家を出る。
ちょっとした物音に振り返ってしまうのは、
何かに期待しているとでもいうのか。
例えば、「シュウ!」なんて言って、
君が顔を覗かせてくるなど。
そんなこと起こらないのに、絶対。
だって君はこの街に居ない。
滞在中だって会わない日はいくらでもあった。
同じ学校に通っていた頃だって週末2日会わないことなんてザラにあった。
なのに。
たった1日会わないだけで、俺はこんなになってしまうだなんて。
そう、たとえ会わなくても、君がこの街に居るだけで希望だったのか。
会わないことと、会えないことは違うのだと知る。
会えないと思うから、尚更会いたくなるのかもしれない。
でも、理由なんてどうでもいい。
俺は今、君に会いたい。
だけどそんなことは叶わないから、
ここで一人、会いたいとだけ思いながら会えない日々を過ごすしかない。
。
君が今ここに居てくれたら、どれだけ良いだろう。
「たとえ会わなくても、この街に居てほしい」だなんて、
あまりに勝手すぎて言えないけれど。
高2の夏に一時帰国からのドイツに戻って2日目のお話。
> たとえ会わなくても、君がこの街に居るだけで希望だったのか。
のワンフレーズが舞い降りたことより書いた作品。
某駅のホームに電車が着くと、
君が居ないかな、なんて探してしまう自分が居て
今はこの街に居ないと知っていると、
それだけでその駅を通過するとき淋しい気持ちになるので
会えなくたって会える可能性があるだけで希望だったのだ、て話。
2016/06/29