* 連休前の忘れ物 *












「ゴールデンウィークかぁ〜…」


黒板に書かれた 4月28日 の文字が
5月2日 に書き換えられるのを見守りながら思わず呟いた。


「5月2日いらないよね」

「ねー!ほんと」

「うちのお父さんは7連休って言ってた」

「うちのパパ10連休だって〜!」


大人ってずるいね〜、なんて話をしながら帰り支度。
でも私は、どうでもいい。
そんなこと。

それより問題は、すっ飛ばされる月替わり。
4月の最終日。
とある人の、誕生日。


まあ冷静に考えれば1週間のうち2日は休みなんだから
誕生日が学校のない日になることくらい普通なんだけど。
ゴールデンウィークという特別なタイミングだったからこそ、
お節介で大切なものが邪魔された、というか。
余計なお世話だよー!みたいな気持ちになってる。

4月30日は大石くんの誕生日。
私が片想いしている相手…。

その姿をバレないように目の端で追っていると、
ロッカーにあるテニスバッグ背負うところだった。

あ……帰っちゃう………。
いや、確か今日は、理科室掃除の当番だったはず…。


ちゃん、帰ろ」

「あ………うん」

「どうしたの?」


ちら、ともう一度その姿を見て、
「なんでもない」と自分も鞄を背負う。


頑張って情報を入手した好きな人の誕生日。
休みの日とわかったときは、がっかりしたな。


今日中に伝えたかったような。
でもどうせ当日会えないなら、
休み明けでも同じな気もするし。


だけど階段を一段一段降りる足取りが重くって。

本当にこのまま帰っちゃっていいの?
そんなじゃ休み明けだって言えないんじゃない?

自問自答して。

…よし、決めた!



「ごめん、私忘れ物!」

「え〜〜」

「あ、いいよ先帰って!ごめんね!また来週」

「わかったーじゃあね〜!」



そして私は、教室に戻らず理科室へ向かう。
足がふわふわした感じ。
ドキドキする…。

理科室…着いた。
大石くんは…っと。


「あれ、なんでがここにいんの?」


理科室に足を踏み入れると、入り口付近で掃除さぼって
ぷらぷらしてる男子に声を掛けられる。
私は、てへっ!みたいな明るい声で。


「忘れ物〜!」

「いや今日理科なかっただろ」

「あー、昨日から」

「バカじゃね?」

「うっさい!」


とりあえず探してるフリ。
自分の席の位置…後ろの方に、向かう。

丁度そこに。
真面目に掃除に取り組んでいる大石が。

あ、あ……。
どうしよう、なんて声掛けよう。


何もあるはずないのに、建前上自分の机の下あたりを覗き込む。

わわ、大石くんこっち来た…。


「あったか?」

「あ、いや、ないみたい……」


そりゃそうだ。
初めから何も忘れちゃなんかいないんだから。

しかし大石くんは、ほうきを机に立てかけると
「何をなくしたんだ?」って言いながら
膝から屈んで机の下を一緒に覗き込んでくれる。


「いやいやごめん!大丈夫だよ!」

「でも、ゴールデンウィークだし、なかったら困るだろ」


優しすぎる…

優しくって、申し訳ない。


ああ。

好きだ。


「ホント、たいしたものじゃないんだ!ないならいいの」

「本当か?」

「うん」


話せた。

優しい。

それだけで、満足。



結局何もないまま、理科室を後にする。


いいや。

話せて、優しさに触れられただけで。


また来週、改めて声を掛けられれば。



そう思って、とぼとぼと理科室を後にして、
普段より3倍くらいゆっくり歩いて
ぼーっと靴を履き替えていたら。


さん!」


え?


振り返ると、そこには大石くん。
今、職員室の方から来た?


「今、理科の先生たちにも聞いてみたけど、
 理科室に忘れ物はなかったみたいだ」


え。
まさか、聞きに行ってくれたの?



「他の場所で忘れたんじゃないかな?良かったら手伝うけど」



なんて、優しい。


…ああ。

やっぱり、好き。


伝えたい。



「大石くん。明後日、誕生日だよね?」



声を振り絞った。

大石くんは、驚いた表情を、
すぐに柔らかい笑みに変えた。


「ありがとう。でも、なんで知ってるんだい?」


なんで、なんて。

大石くんのことが好きだから調べたんだよ。

なんて。

まさか言えないんだけど。


だけど、上手な言い訳が思いつかなくて。



「好きだから」


言葉が口から、零れた。



すると目の前に、えっ…て眉をしかめた大石くんがいて。

わ、マズイ。


「人の…誕生日をね!憶えるのが趣味なんだ!」

「あ、そういうことか」


我ながらわざとらしすぎて、いたたまれない。
しかも、今、ちょっとイヤそうな顔された気が…。

良かった、ホントのこと言わなくて。

今わかっちゃったもん。
大石くんは、私のこと、好きじゃないって…。


次にもう一度姿を見たら、大石くんは、
顔を真っ赤にしていて。

……アレ?


「ごめん、俺のこと好きって言われたのかと思って、焦った…」


頭をかしかしと掻いて。
焦った風にきょろきょろして、目が合わない。


「自分の耳を疑ってしまったよ…
 もちろんそんなわけないのにな、ハハ…」


さっきのしかめっ面には、そんな意味が。


そのとき、気付いた。

忘れてるもの、あるじゃん、って。

言い忘れてることが。


また、伝えてない。
「おめでとう」って。


でも、言うタイミングを、失ってしまった…。

どう、しようか。

ていうかこれ、もう、勢いで告白しちゃった方がいいのかな?


でもなんというこんな微妙な場所で微妙なタイミング…。


すると。


さん」

「はい」


声を掛けられてそっちを見ると、
全然目が合わない大石くん。
普段は、こっちが引いちゃうくらい真っ直ぐ見てくるのに。

え?

え?


「あ、いや、その!嫌ならいいんだけど!」


何も言ってないのに否定から入るし。

な、んだ。
何の話だ?



「4月30日、一日予定空いてるんだけど…
 さん暇だったりしないかな、とかー…
 いやもちろん暇でも嫌ならいいんだけも!ハハ!」



……まさかの。



「その日は一日、空いてるよ」





良かった、と安心した表情で笑う大石くん。
まさかこんなことになるなんて。

なんか、導かれたみたいな。
まだ言えてない「おめでとう」が
当日に伝えられるときを待っているみたいな。



そのときは、言い忘れないようにしないとね。

「おめでとう」と、それから、

「あなたのことが、好きだよ」って。






















snegってくらいうまい展開だな。(←表現)
最近書くのリアリティ追求しがちだからたまにはいいっしょ。
リアル中学生の頃の自分を見習うわ(笑)

別に主人公のこと元々好きだったわけじゃないけど、
もしかして俺のこと…?!と思ったら急激に意識し出して
一瞬になって好きになっちゃった中学生大石だよ!(笑)

黄金週間だけど三次元が充実し過ぎてるので
せめて今のうちに書き溜めておこうと思って
仕事中に考えて書いた作品だよ(←)


2016/04/28