* メガネの奥底を見抜く *












最高学年に上がって、約一ヶ月。

私の恋が、終わりを告げてしまった気がする。


「見てこれ大石の好きなタイプ、『メガネが似合う子』!」

「何それ具体的っぽーい!」

「誰だろ誰だろ〜」


クラスの仲を深めるため、と作られたプロフィール集を手に
きゃいきゃいと盛り上がる友人たち。
その中で、私は苦笑い。

私、両目2.0。

終わった、私の片想い…。



そう、実は私の好きな人は、大石。
まだ友達の誰にも言ってないけれど。

大石のことが気になりだしたのは、去年学級委員で一緒になってから。
背筋が伸びて凛としていて。
目が、とても綺麗で。

今年も、大石が立候補するのを見て自分も立候補してしまったりして。
去年やったときは、こんな面倒くさいこと二度とやりたくない!!って思ったのに。
そんなに面倒くさくても、大石とだったら…って思えるくらい。

私は。大石のことが。好きだったのに。


「西秀人は『気が強い子』だって」

「意外〜」


そんなこんなで盛り上がっているうちに、休み時間は終わった。
私のテンションは、がた落ち。


そういえば、今日の放課後は先週の学級委員会で配られたプリントを埋めないといけなくて
大石と二人で放課後居残りするんだった…。

すごく楽しみだったのに。
なんだか気持ちが…憂鬱。


「それじゃあ、やろうか」


私の気持ちは裏腹に、今日も大石は、爽やか。

くぅー…。

好きだなあ、悔しいほどに。
もう、失恋したも同然だけど。


「ん、、目赤い?なんか潤んでる」

「え?あ、花粉とかかなー」

「花粉か、辛いよな。この時期だったらヒノキとか?」


マジレスしてくる。
そういえば大石とんでもない花粉症の持ち主だったよね。
私、本当は花粉症じゃないけど。


「そんなとこ。それよりさ、早くやっちゃお」

「そうだな」


大石は自分の席に座り、
私はその前の席の人の椅子を借りて、後ろ向きに座る。
大石の席は窓際だから、心地好い。

こんなに幸せな空間、なのに。


「えっと、筆記用具…」

「あ、それはメガネケース」


メガネ。
今の私にとってのタブーワード。


「あー、大石最近授業中メガネかけてるよね」

「ああ…日常生活ではそんなに困ってないんだけど、
 文字が小さい先生だと板書が見づらいときあって…」


席も一番後ろの端になっちゃったしな、と。
みんなが羨む席だけれど、真面目に聞いてて頻繁に発言したりするような大石にとっては
寧ろあんまりありがたいことではないのかもね。

………。


「…そいえばさ、大石の好きなタイプってメガネかけてる子なんだっけ」


聞いた。

聞いたった。


大石は「見たのか」なんて言って苦笑してる。


「深い意味があるわけじゃないんだけど、メガネを掛けた姿が似合っていると
 知的に見えてぐっと来るんだよな」

「へー…知的な人がタイプなんだ」


それも、私とは違うタイプな気がする…。
みんなの前に立って引っ張ったりは得意だけど、
お勉強は並だし作戦を考えるとかそういうのはどっちかというと苦手だし。


私は、メガネが似合う人にはなれないんだ。

大石とお似合いになれるような人には…。


「もしかしたら具体的に誰かのこと指してるのかなとか思ったんだけど?」

「え、いや!そういうわけじゃないよ!」


大石は焦った風に否定。
それは、図星だから焦っているのか。
必死に本気で否定しているだけなのか。


ふぅ。

ため息つきながら、勝手に大石のメガネをケースから取り出す。

そして、掛けてみる…。


「うわ、強」

「目悪くなるぞ」


無理してメガネを掛けると、世界がぼやけた。
目の奥がきゅうっとして、なんとか焦点が合わせられそうな…
……ダメだ。目が疲れる。やめよ。

メガネを外して前を見ると、
大石もこっちを見ていた。


、メガネ…似合うな」

「え……え?」

「あ、いや、深い意味はないんだけど」

「……そですか」


深い意味があってくれてもいいんだけどな、ナンテネ。
でも大石の表情を見てると、残念ながら本当に深い意味はなさそう。


じっ…と見る。

プリントに目線を落としてた大石は、私の目線に気付いて顔を上げる。


「どうした」

「大石ってさ」

「うん」


じっと見つめ合う。

パチパチ。

パチパチ。


「目、キレイだよね」

「…ありがと」


大石は、見たかな、私のプロフィール。

好きなタイプは、目がキレイな人。って書いた。


見てても、私を特別着目してなきゃ憶えてないよね、
後から見て、言葉の意図に気付いたりするかな、
具体的に誰かのことを書いたってこと、
それがあなただってこと。


「てかこんな雑談してる場合じゃなかったね!」

「そうだな、早く終わらせよう」


そう言ってプリントに取りかかる私たち。
何回もチラチラと大石を盗み見る私。
大石はそれに気付いたからか、
顔は下を向いたまま目線だけこっちに向けてきたりしてきたけど、
だけどそれ以上は何も起きなくて。


はたはたとカーテンがなびく。

春の陽気だ。


私の片想いは、もう少しだけ続けられそう。























ここで一目惚れしないのがこの話の大石。

久々に大石がメガネっ子に萌える話を書きたくなりw
なんか大石のメガネ好きってよく強調される気が…(苦笑)
でも何度もでも言う、大石が好きなのはメガネをかけてる子じゃなくて
メガネが似合う子だから!これテストに出るよ!


2016/04/25