* 答えたい、応えたい。 *












さんに告白されて、付き合うことになって、一ヶ月と少し。

びっくりした。
正直、自分が誰かに特別な存在として好かれるなんてこと考えたことなかったし。
そして…実際に行動に示して、そのことを伝えてくれる人が現れるなんて、
まったく考えの範疇になかった。


だけど、いつの間にか

さんは、俺の中で欠かせない存在になりつつある。



初めは、勢いもあったんだ。

告白してくれたのに、断るのは申し訳ない。
だけど本心から応えられないのもそれはそれで申し訳ない。
だから考えたんだ。

さんは…

どんな人で…

どういう気持ちで俺に想いを伝えてくれたのか……。


一緒にクラスメイトとして過ごしていくうちに、
少しずつさんの人間性が見えてきた。

どんな人なのか。
そして俺のことを好きでいてくれているということ…。


考えた末、さんの告白から3ヶ月。俺は、

「気持ちが変わってなかったら…俺と付き合ってください」

と答えた。



返事をして、そっとそっちを見たら、
満面の笑みが見られると思ったのにな、
さんは空中を見上げて口をぽっかり空けていた。


「ホントに?」


「嘘じゃなくて?」


「そんなことあるの?」


そんな一言の度に俺は苦笑しながら「うん」と答える一方で、
最後に、赤い顔での「ヨロシクオネガイシマス。」で、
俺たちは付き合い始めることになった。




付き合うことになって、数回、二人で食事をした。
まだお互い余所余所しくて、本心は伝えきれていない気がする。


だけど色んな場面で、感じる。

ああ…さん、は、本気で俺のことが好きなんだ。と。



無邪気で、

照れ屋で、

いつも一生懸命な彼女。


俺への気持ちも、
直接は言ってこないものの
視線とか、態度とか、言葉の端々から、
「好きだよ」って伝えられているようで、
くすぐったいくらいだ。



でもそれは不思議と重たくなかった。
嬉しかった。

いつの間にか…俺も、“応えるだけ”ではなく
本心でさんを好きになり始めていることに気付いた。



そうこうしているうちに、テスト前になった。
暫く二人では会えないね、という話をすると、
さんは、テスト終わったら遊びに行こうよ!と提案をしてくれたので
日にちの約束だけを取り付けて、
テスト期間に突入した。



テスト勉強を頑張る。
その間は、テニスのことも忘れて。

そこまではいつも通りのこと。

テスト勉強を頑張るんだ。
さんのことは、今は考えちゃいけない……。

そう言い聞かせど、ふと頭をよぎってしまう。


約束したから。
テストが終わったら、遊ぼうって。
それが終わるまでは考えちゃダメなんだ。
勉強を頑張るんだ。
気を逸らしたりしたら、ダメだ。


……かなりの邪心に振り回されながらも、なんとかテスト期間は終了した。





どうして今回のテスト期間は、月曜日で終了なのだろう。
テストが終了したらぱーっと晴れた気持ちで遊びたい、
というのが全生徒の思いなのではないだろうか。

だけど、今回は月曜日。これは変わらないこと。


部活では英二が「やーっと終わった!嬉しすぎる!スッキリ!」
なんて言っていたけれど、
俺はとにかく、早く週末になって欲しかった。




約束は土曜日。




金曜日、学校で、
さんと目が合ってすれ違うことが多い気がした。

付き合っていることは学校ではまだ隠している。
だから二人で不自然な行動はとれない…。
でも、目が合った。
そして、交わされた。

それだけの間に「明日楽しみだね」「どこで何しよっか?」
そんな会話がテレパシーした気がしていたんだ。

なのに。



「(なんか……気持ち悪い、な)」



勉強の頑張りすぎか。
一週間ぶりの部活で調子が狂ったか。
もうすぐ嵐が来るからか。

なんだか、胃腸の具合が悪くて、ムカムカする。
俺はいつもの胃薬に頼る…。





明日は、さんと念願のデート。

楽しい一日にしたい。



それに、伝えたいと思うんだ。
俺はまだ、「好きです」と言ってくれたことに対して
「ありがとう」と言って、
期間を置いてから
「付き合ってください」
と言っただけだ。


明日会ったら、言うんだ。
「僕も君のことが好きです」って。


まだ、俺の気持ちは一度も伝えられていない。
言われたことに、返しているだけで。
俺自身の、気持ちを伝えたい。


もしかしたら、
さんはまだ片想いの気持ちでいるかもしれない…。
そんな彼女を安心させたいという理由もある。



と、思っていたけれど。





待ちに待った土曜日。

俺は……自宅のトイレで、

嘔吐。




「………オエッ」




まさか、こんなことになるなんて。



待ち焦がれ過ぎたか?
それともテストのせいか?
部活のせいか?
何が原因だ?


原因はわからない…けれど、
わかるのは一つ。
この状況では到底今日のデートは、無理だ。



さん……。




申し訳ない、けれど、
今日はキャンセルせざるを得ない…。

少し吐き気が収まったタイミングで、
携帯電話を手にして教えてもらったばかりのその番号を初めてダイアルした。



プルルルル…。




「はい…もしもし、大石くん?」




電話で聞こえる声は、いつもと少し違った。
だけど、声色は、やっぱりさんだなとも思った。

これから、この元気な声を、悲しませなきゃいけないだなんて…。



さん、ごめん、本当にごめん……」

「ん、どうしたの?」



疑問符を投げかけながらも、
「もしかして都合悪くなった?」と
すぐに投げかけてくるあたり、
さんの優しさに申し訳なさがより募る。



「実は、体調が悪くて…吐き気が治まらないんだ」

「うそ、大変!え、じゃあ今日やめた方がいいね」

「申し訳ないけど、そうしてくれるかい…」


一瞬間があった気がした。

そりゃそうだよな。
向こうはきっと楽しみにしてくれていて…。


「そ、っかぁー…」


明らかに残念そうなのに、
それを表さないように取り繕っているのがわかる。


「残念だけど」



また今度ね、とか。
お大事にね、とか。
そういう気持ちで結ばれると思っていたのに。
この会話は。

なのに。



「お陰で今週はずっと楽しみな気持ちで乗り越えられたから、良かったかなー」



……ああ。

思わず首をうなだれた。



「ごめん、さん…本当にごめん」

「えっなんで!?あ、嫌味で言ったんじゃないよ!」



本当にお陰様で今週は、ポジティブに過ごせたから!
そう付け加えて、さんはアハハと笑った。



「体調良くなったら、埋め合わせしてね」

「も、もちろん!」

「それじゃあ、しっかり休んでね」

「ああ…………ありがとう」

「ん。それじゃあまたね」



こんな予定じゃなかったんだ。
本当は、もっと、
忘れられないような一日になる予定だったんだ……。


そう思っているのは俺だけなのかもしれないけれど。


ただただ、楽しみにしていたはずの彼女の気持ちを裏切ってしまったことが、
今の俺には悲しい。






















はあーーーーー青春ラブ最高じゃねぇのw可愛いなお前らw

主人公は片想いの気持ちを続けてるんだけど、
実は大石もめっちゃ好きになってるし
主人公がどんな気持ちでいるか想像出来た上で
なんとか伝えたいと思ってるのにうまくいかない、ていう。

妄想はするだけ自由ですからねーwww(←)
現実は儚いwww(←←)

仮タイトル、『ドタキャンをポジティブに乗り超える!』でした笑
『恋人だからの片想い』の本編です。


2015/06/28