* 待ち合わせDEFLATION *












「秀一郎…この状況いい加減にしない」

「ん、何がだ」

「おかしいでしょ、今ここに座ってる事実が!」


ただいま、映画の予告編の最中。
朝一の回。

前から見たいって話してた映画。
だからいいんだ、ここに居ることは。

でもおかしいんだよ。
今、ここに居るのは。

……お昼前の回を見る設定のはずだったのに!


12時と言ったら11時頃に来ちゃうのが秀一郎。
だから遅くとも11時半には来るようになる私。
そうすると秀一郎は更に早めて10時半とかになる。

その結果が今日ですよ。
二人して待ち合わせの1時間半前には揃ってるってどういうこと。

更に元々の時間設定もかなり余裕持たせてたことあって、
結果的に一回前の放映に間に合うような時間になってしまった。

今回はついに前のが見れてしまったけど
今までも、丁度に設定したのに1時間くらいカフェ入ったり。
待ち時間使ってお買い物したり。(がっつり)


「なんか最近さ、待ち合わせ時間が意味を為してないと思わない?」

「だって、がどんどん来る時間早めるから…」

「こりゃこりゃ、それはこっちのセリフですわ」


なんていうの、待ち合わせ時間がデフレ起こしてる。笑
負のスパイラル起こしてる気がするよ。


「逆は度々聞くんだけどなぁ」

「ん、どういうこと」

「お互いが待ち合わせに間に合わないから
 結局設定した時間より遅くに会うのが暗黙の了解になるみたいな」

「えっ。そんな人が居るのか!?」


どちらかというと、うちらの方が異例なような…。
と口にしようと思ったところで、
スクリーンが暗転して幕が開いていくから口を噤んだ。


……ふむ。

映画を見ながら、解決策を考える。


本当に会いたい時間より待ち合わせより敢えて遅く設定してみるか?
いや秀一郎がそれで納得するはずがない。
かといってこのまま待ち合わせ時間デフレ(…)を
加速させるわけにもいかない。


…いつの間にかそんな考えはどっかいってた。
それくらい映画は面白くって、充実した時間だった。

しかし、映画館を出て時計を見たら、
丁度、元々設定されてた待ち合わせ時刻だった。
私は思わず苦笑する。


「本当だったら今が待ち合わせの時間だよ」

「ホントだ」


私の腕時計を覗き込んだ秀一郎が笑う。
おいおい。平和に微笑んでる場合じゃないぞ。

んー……。



「なんかさーぁ…」

「ん?」

「この、待ち合わせ時間が意味を為してない感じ、なんとかしたいんだけど」

「どういうこと?」



思い切って切り出してみたら、
相手には自覚すらないってことか。
そういうことスか…。(もはや笑える)


「11時に待ち合わせようって約束だったのに
 どうして9時10分からの回の映画見終わってるわけよ」

「ああ確かに、おかしいな」

「おかしいでしょ!?」


やっと理解できた様子。
どうやって解決したもんかなー…と考えてたんだけど。

秀一郎はこんなことを言う。


「でも、困ってないからいいんじゃないか?」

「んー…ま、そうだけど……」


確かに、困ってはないか。
予定よりかなり早く集まってしまうだけで、
暗黙の了解みたいでお互い分かり合ってるし。

でも、なんかなぁ。
“待ち合わせ時間”ってなんだ。



「じゃあさ、なんで秀一郎はあんなに早く来ちゃうの」

「俺はを待たせたくなくて…」

「でもさ、私もあんまり待たせたくないわけよ。
 だから少し早めに来るじゃん、
 そうすると秀一郎は次からもっと早く来ちゃうじゃん」

「確かにそうだなぁ」


感心したように秀一郎は腕を組んだ。
なんだこいつは、正気か。真剣なのか。

きっとこの人にとって、
待つことは苦ではないけど
待たせることは物凄いストレスなんだろな。
私もそっち側だから気持ちはわからないでもないけど。
(それでも秀一郎に待たされたことは一度もないけれど。)


どうすればいいんだろうねぇ?
お互いメールで家を出るタイミングを確認するとか?
あーでもそうするとメールが来る瞬間を待つために
結局早目に準備して家でスタンバイしなきゃいけなくなるし…。


あ。

閃いた。



「…ね、秀一郎。わがまま言っていい?」

「ん、どうした」


こんな風にお願いするのは、珍しいことだけれど。


「じゃあさ、次からはうちまで迎えに来てよ」


え?
と言いたい風に少し首を傾げた。
それから顎に手を当てて空を見上げた。
私は説明する。


「そうしたらお互い待つことも待たされることもないじゃない」

「確かに、それは名案かもしれない!」


ぽんと手を打った。
うん、これはいい作戦だ!

それに、迎えにきてもらえるとか、
ちょっともてなされてる感じで私も気分いい。


「あ、でもさあ」

「秀一郎があんまり早く来すぎると、私準備終わってないかもしれないね」

「そうか…焦らすのも悪いな」

「ね、だからさ、迎えに来てって言った時間に迎えに来てよ」

「時間通りかー…」



あれ、もしかしてこの人、
時間通りに来たことないっていうの?


「早く行っちゃいけないのって、難しいんだな…」



世界一待ち合わせに遅れたことのないこの人は
世界一待ち合わせが苦手な人なのかもしれない、
って思って私は笑ってしまった。






















もし大石と付き合うことになったら
待ち合わせ時間のことは絶対問題になると思うの。(真剣)

一見解決したようだけどこの大石のことだから、きっとそのうち
迎えに行くと言った時間よりもかなり早くに家の前に着いてしまって
家の周りをうろうろして時間潰すようになると思うのw
あーもう不審者として通報されればいいのに。(←)


2015/04/04