* 君を待つ僕の事情 *












私は、とある決心をした。
そして、意気揚々と待ち合わせ場所に向かう。

今日こそは……。


秀一郎より先に着いて、待ってる側になるっ!


付き合い始めて、もうすぐ一年。
なのに一度も私が待ち合わせ場所に先に来られたことはない。

確かにさ、ありがたいし嬉しいよ?
でもいつもこっち側なのは、申し訳なさもあったりする。
それに、なんだか悔しい。

というわけで、今日は30分以上早く来てやった!
たまにはお前も「ごめん待った!?」とか言って見やがれ!


の、に。


「(なんで居るんだよ!?)」


今、12時24分。

待ち合わせ、13時ですよー…。


しかも手に持ってる本、欲しがってた今日発売のやつじゃん?
ページ半分近く進んでるんですけどぉ???
電車乗ってる間も読んでたと計算しても
たぶんここについてからも30分くらい読んでると見た。

ダメだ、30分程度じゃぬるかった…。
1時間は見なきゃダメか。
そうだよ、だって相手は秀一郎だよ?


とりあえず、今日は……。


「(あと10分くらいしたら行こ)」


ここであんまり早く行っちゃうと、
次から秀一郎が更に早く来るようになっちゃったら困る…。





  **





さあ再び週末デート!
今日はもう本気、1時間でダメで次は1時間半…とかなったらくどい。
確実に先手を取れるように、2時間前に来たった!(ばばん)

これでもういたら、変態ですわ。諦めるわ。
次回から集合を始発に設定するくらいにしないと同時に着きやしない。
(いや、そうしたら終電で来ておいてスタンバるのが秀一郎かもしれない…。)


というわけで、今日も待ち合わせは13時。現在11:05。
11時までに着けてないのが私の詰めの甘いところ…だけどまあいい、
何はともあれ秀一郎はまだいない。
いつになったら来るのかな−。


10分。

20分。

30分……。



「(暇……)」



なんだこれびっくりする。暇だわ。
スマホもいじり倒しちゃったし
人間観察も飽きてきた。
勝手に早く来たのは私なのにムカついてきた。笑
秀一郎はどうしたらあんなニコニコ待ってられるんだ…理解不能。

足下の石蹴ったり。
ちょっとそのへん散歩…しようかと思ったけど
ダメだ持ち場離れてる隙をつかれたら困る!!


待つしかない。

……。

……。



石をころころ蹴っていた、ら。

近寄ってくる足が。


ついに来たか?いや、こんな歩き方じゃない。
誰……?


「姉ちゃん、暇なの?」


顔を上げると、高校生ぐらいの兄ちゃん2人組。
あー…いわゆるアレか。


「暇じゃないよ人待ってんの」

「暇なんじゃんw 来るまででいいからどっか行こうよ」

「違う!もうすぐ来るから」

「いや俺ら気付いてっから。もう一時間くらいここ居るっしょ、もうそいつ来ないよ」


そう言われて肩に手を置かれて。
もぉー馴れ馴れしいなぁ…。


「だから…」

「何やってんだ!!!」



え。



ダッシュで駆け寄ってきたその人は、
私の手を掴んで立ち上がらせると
その場に居た二人を睨み付け、
ズカズカズカと手を引いたまま歩き出した。

やべぇー……激おこだよww



「あの、秀一郎……おはよ」



声を掛けると、秀一郎は足を止めて振り返って、
私の顔を見て、後ろを見て、
ふうと息をつくと、
手を離して、
両肩に手を置いて、
はぁ〜〜〜……とめっちゃ深い溜め息をついた。


「何やってんだぁ…」

「ごめん、声掛けられちゃって断ろうとしてたんだけど…」

「違うそうじゃなくて」


眉がハの字。
そうか怒ってるんじゃなくて心配してくれてたの、か。



「俺が居ない時点で時間間違ってるって気付いただろ?
 おかしいと思った時点でなんで連絡寄越さなかったんだ」



え、あ。

もしかして、私が間違えて早く来すぎたと思ってる?


「そうじゃなくてさー…」

「え?」

「たまには秀一郎に勝ってみたくて、2時間前からスタンバってたんだ今日」


あはは、って笑ったのに。

目の前のは人は笑ってなくて。


寧ろ…激おこ?

あ、やっちゃったやつ???


「俺が…何のために…」

「いや、わかる!秀は優しいから!
 私を待たせないようにしてくれてるの感謝してるから!」

…!」


右手が頭に迫ってきて。

ギャー!殺られる!!頭蓋骨ひねり潰される!!

と思ったら。


胸に抱き寄せられて。

え。

え?



「秀一郎…?」

「さっきは血の気が引く思いだったんだぞ…」

「……ゴメン」

「……、あのさ」


手を離すとまた肩に手を置いて
すごく近くで目が合った状態で喋り出した。


「俺が待ち合わせに早く来ちゃうのはさ」


顔と目が、ちょっとだけ背けられて。


のためっていうより…俺のためだ」


え?



「さっきみたいな事態になったら…とか。
 退屈してないかなとか淋しくないかなとか。」



「そういうことばっか気になってしまうから、早く来ないと落ち着かないだけなんだ」



「だから…に先に来られちゃ困るんだ」



「待ち合わせに早く来るのは…俺の、エゴっていうのかな。
 わがままみたいなものなんだ」



は、いつも通りでいいんだよ」




ぽつり、ぽつりと。

秀一郎の本心が見えてくる。

一つずつ。


「秀一郎…ごめんね」

「謝ることじゃないけど…今日はホントに、驚いちゃったから…」

「うん、わかるよ」


私、ナンパとかそんなにあったことないんだけどなぁ、
今日はよくもまあピンポイントでされたもんだ。

…アレ、違うか。

長時間一人で待つようなこと、したことないからか。
あれれ、そういうこと??


「つまりさ、早く来てるのは俺の勝手だから。
 は待ち合わせ時間通りに来てくれれば、いいから」

「うん……」


それでもなんとなく、申し訳ない気持ちはあるなぁ、っていう
私の心配をなくしてくれたのは、「あ、でも」という声に続いた言葉。



「そう言えるのは、が、約束した時間には絶対遅れてこないからかな」



にこっと笑って


「ありがとな」


だって。



お礼言われる筋合いなんてないよー…。

もー…本当に、秀一郎は。


「じゃあさ、私からも秀にお願いあるんだけど」

「ん、なんだ?」

「30分くらいは経験的に予測できたけど、
 まさか1時間も前からスタンバってるとは思わなかったよ?
 私も気遣って早く来たくなっちゃうからさ、30分くらいまでに控えてくれない?」

「ははっ、そうか。そうだな」


世間的には、どちらかが待ち合わせに遅刻してきて
ケンカになるカップルの方が圧倒的に多いだろうのに。
私たちはなんてことを話してるんだろね。


「家が近ければ迎えに行くんだけどな」

「いーよそこまでしなくて!心配性が過ぎるよ、過保護なのそうなの?」

「過保護かぁ…」


そこまでじゃないと思うんだけどなぁ、
なんて呟きながら手を握ってきた秀一郎の力は、いつもより強くて、
大事にされてるんだと思えて嬉しかった。


次の待ち合わせからは、
焦り顔で「ごめん待った!?」なんかじゃなくて
笑顔で「いつもありがとね」って、伝えようと思う。






















心配性こじらせ大石(笑)

しかしイタズラ半分に早く来た日に
見事にナンパされちゃったもんだから
大石の中の自分のモテ度が上がった気がして
しめしめとか思ってる主人公ね(笑)

wとか使ってみた。ラノベ風。(勝手なイメージ)
あと、初めて複数の呼び方を併用してみた!秀一郎と秀!
そういうのあるよね、ちょっと甘えたいときはあだ名になるみたいな!


2015/04/04