* 君声、ふるさと。 *












午後一の授業は、音楽!

私は、この時間割が大好き。
いつも早めに音楽室に来て、ピアノを弾くの。
学校のピアノは立派なグランドピアノだから、
家で弾くより気分がいい。

まだ授業が始まるまで20分近くある。チャンス!


と、音楽室の扉に手をかけたら……

あれ、歌?



そっと、ドアノブを捻る。
ゆっくりと扉を開けて、
部屋に入って、
音を立てないようにドアノブを捻りながらゆっくり締めた。



 うさぎ  おいし かのやま。



教室の内側に背を向けて、窓がある方に向かって歌っていた。

ふるさと。



 こぶな つりし かのかわ。



なんて、澄んだ声。

声変わりは終えた男性の声だけれど、
心地の良いハイトーン。
丁寧に歌詞を紡いで、メロディーが風に乗っていくよう。



 ゆめは いまも めぐりて。



ずっと、聴いていたい。
そう思ってしまった。
だけど歌は終わりへ来る。



 わすれがたき ふるさと。




パチパチパチ!

拍手をすると、焦ってこっちを振り返った。
声の主は、同じクラスの大石君だった。



さんっ、いつからそこに!?」

「ごめん、邪魔したくなくて…こっそり聴き入っちゃった」



大石君は顔を真っ赤にしていて、
恥ずかしいとこを見られた…と思ってるのかな。

でも違う。
恥ずかしいことなんて何もない!



「大石君、歌うまいね…っていうか、声きれいだね!驚いちゃった!」

「ごめん!その、テストの練習をしようと思って…ごめんな!」



余程焦っているのか、謝る必要なんてないのに二回も謝罪の言葉を並べた。
どっちかというと謝らなきゃいけないのはこっそり聞いてた私の方なのに…。

そういえば、今日は歌のテストの日だっけ。
こんだけ上手なのに、少し早めにきて練習してるあたり、
大石君って本当に真面目。


ピアノ。

歌声。


……そうだ。



「大石君、もう一回歌ってよ」

「ええっ?そんな…」

「私伴奏弾くからさ!」



言いながら椅子の距離感を合わせて、
ペダルに足を掛けて鍵盤に手を乗せる。

うん、いい感じ。



大石君は戸惑った風だったけれど、
前奏が終わると、おそるおそる歌い始めた。

そして、また、まっすぐな通る声で歌う。



それがとても心地好くて、
こっそりバレない程度に伴奏の音量を下げた。



授業が始まるまで、15分。
みんなが集まりだすまで、あと少し。


どうか時間よ進まないで。

この音楽がずっと続いていけばいいのに。



 うさぎ おいし かのやま

 こぶな つりし かのかわ

 ゆめは いまも めぐりて

 わすれがたき ふるさと






















動揺しながら聴く童謡CD、大石の声の心地好さよ。。TK!

大石は天然で歌がうまいんだけど
みんなの前で歌うのがめちゃくちゃ苦手で
カラオケとかいっても全然歌ってくんなくて
「一曲だけでいいから!」つって無理やり歌わせたら
全部持ってちゃう、みたいなそんなん希望です。
夢見過ぎですか?近ちゃんが歌うますぎるのが悪い。


2015/02/18