* A Delicious Piece of Cake! *












「薫、今度の誕生日はいいとこ連れてくから!」


そう言って、日曜の午後に薫を無理やり街に連れ出した。
トレーニングの邪魔しちゃうかなーとも思ったんだけれど
私の心配を他所に、薫はあっさりと わかった と言ってくれた。
一年に一度の誕生日だし、薫にとっても特別な日だったりするのかな?

いっそ雨が降ってくれれば申し訳なさも半減するんだけどな、
と思ったけれど皮肉なほどに暖かくて良い天気で、
最高のトレーニング日和だなー…って
最高のデート日和であることを差し置いて残念に思ってしまったり。

我ながら女の子らしくないかなーとも思うんだけど、
女の子と付き合うとかあんまり興味なさそうな薫が
幼馴染である私の告白を受けてくれて、
1年以上経った今も懲りずに別れないでいてくれているあたり
薫の相手をするにはちょっと女の子らしさ足りてないくらいでいいのかも、と思ったり。


そんなこんなで、どこに連れていかれるかもわかっていない薫を連れて
話題のカフェにやってきた。
休日はいつでも混んでいるらしいけれど、話で聞く以上の行列で驚いた。
母の日でもあるからかな、カップルよりも母と娘みたいな組み合わせが多く見られた。

一ヶ月前から予約をしていた甲斐もあって、
私たちは並んでいる人たちを横目に中に通された。


ショーケースに並ぶのは、色鮮やかなケーキたち。
横で薫はぱちぱちと瞬きをする。

いつも100%フルーツジュースを飲んでる薫のことだから、
きっとフルーツケーキが大好きなんだろうっていう私の読み!
新鮮なフルーツとふんわりもしくはサクサクの生地との相性が絶品だと
ここのケーキやタルトは巷では噂になっている。


「今日は私の奢りだからなんでも食べて!」

「…すげぇな」

「どれでもいいよーいくつでもいいよー」


薫は暫く悩んだ様子を見せて、
「コレ」とショーケースを指差して呟いた。
そして、
「と?」って聞いたら
「は?」って返された。


「え、薫一個でいいの?」

「は…お前何個食う気だ」

「えーだってせっかく来たからさ。
 すみませーん、この森フルーツの春風タルトと、
 ベリーベリーベリー・ショートと、
 マスクと夕張のメロメロンケーキと、
 あ、あとオランジェット・ザッハトルテください!」

「………」


隣で薫が引いてるのも知ってる。
だけど最早、それすらも気持ち良い私。


5分ほど待って、
先ほど頼んだケーキと香りの良い紅茶が運ばれてきた。
おいしそうなだけじゃなくて、可愛い!
私は携帯で写真を撮る。


「ほら、薫も写って」

「やめろ。ケーキだけ撮っとけ」

「えーなんでーせっかく来たのにー…」


ま、仕方ないか。
薫が写真嫌いなのは知ってるし。
さて食べよ食べよ。いっただっきまーす…。



「んー…おいちっ!」



一口目を口に運んだ瞬間、
あまりのおいしさにほっぺを抑える私。

期待通り、っていうか、期待以上においしい!
このケーキ、生地はしっとりしてると同時にふわふわしてて、
バターと卵の風味がほんのり漂ってきて
フルーツの甘酸っぱさがマッチしてて!


『カシャ』

「え」


前を見ると、こっちに携帯を掲げてる薫。
え、私撮られた?


「…何やってんの」

「撮った」


「こっちは撮らせてくれないのに?」

「嫌なのか?」


「…別にいいけど」

「じゃあいいじゃねえか」


そう言いながら、薫は紅茶をすすった。
な、なんか腑に落ちない…けど、まあいいか。
っていうか薫が私の写真撮りたがるなんて、珍し。


さてもう一個も食べちゃおー
味の系統が被らないようなの頼んだから楽しみー!


そうしてパクパクと夢中で食べ進めて、
ふと前を向いたら薫がこっちを見ていることに気付いた。
目が合った途端、ぱっと目は背けられてしまったけど。
え、何……。


「……食い方が汚ぇ」

「げっ」


そう、薫の食べ方はとても綺麗。
箸の持ち方はもちろん正しいし、
背筋もぴしっと伸びてるし、
もちろん肘なんて付かない。
食べ始めと食べ終わりはきっちりと手を合わせるところなんか感心する。
躾がしっかりされてるって感じ。

かたや私は…
薫を見習わなきゃって姿勢はなるべく良ししてるし、
箸の持ち方こそ正しく教えられたものの。

ふと自分の目の前を顧みたら、お皿の周り、食べこぼしひど過ぎ…!


「あわわわ!ご、ごめん」

「…謝ることじゃねぇ」


謝るのはいいから、ちゃんと食え。ということでしょうか…。
裏の意味を読み取って一人で勝手に反省会。

ちょっとずつフォークで掬って、
零さないように気を付けて、お上品に…!


「…そこまで気遣わなくていいから」

「え、だってぇ…」

「気にしながら食ったらうまくねーだろ」


確かに、今ちょっと味わう余裕なかったかも…。
だけど薫にお行儀悪いって思われるのもなぁ…。


一旦仕切り直そう、と思って紅茶を一口。
すると。

薫は自分のケーキを一口分切って、こっちに差し出してきた。
テーブルの反対側から。


あんまり、お行儀の良いことではないと思ったけれど。

正面から差し出されたケーキを

フォークごと、

パクン。



………。



「おいし〜!フルーツがジューシー!タルトはサクサク!最高〜!!」



くぅ〜!!と、
思わず右手を振り回してしまったけど、
私の右手にはフォークが握られたままだった。
あわわ、こんなんじゃまた注意され…アレ。


薫は、笑ってこっちを見てた。
そんなこと滅多にないのに、口まで開けて笑って。

目が合ったら、ぷいと顔を背けたけど
実は耳が赤くって。

……照れ隠し?


目線だけこっち向けて
顔をゆっくりとこっちに戻しながら目線は逸らして。
こっちを見て。
フッと鼻で笑って。



「お前は、そうやってうまそうに食ってりゃいーんだよ」



いいのかな?
こんな私で。

こんな私だけど、いいのかな?



「おいしすぎて食べ過ぎだよー私も薫と一緒に走ろうかな」

「…来んのか?」

「いいの!?」

「置いてくけどな」

「ひどい!」



素直じゃないのに
純粋な心をもった貴方がスキ。

なかなか理想的な女の子にはなれないけれど、
貴方の好きな人でありたいよ。

薫、これからも、一緒にいてね。

ずっとずっと。




  Happy Birthday Kaoru!!!






















個人的な萌は、商品名を言えずに
彼女の方に注文をさせる海堂(笑)

海堂の好きなタイプは、おいしそうに食べる子とのことなので。
海堂がお行儀宜しいもんだから付き合う子は大変だろなー、
でもそんなこと気にしてるより幸せそうに食べる子が
海堂は好きだったりするんだろな、という妄想より。

薫ちゃんハピバー!


2014/05/11