* Wieder sehen! *












「秀一郎、久しぶり」



その一言だけで、私が誰かは分かったと思う。

秀一郎のことを、そうやって下の名前で呼ぶ人は
男女含めても校内には私だけだったから。



「ひさ、しぶり……



お化粧するようになって、
服の趣味も変わって、
全体的に少し大人っぽくなって。

だいぶ見た目は変わったと思う。
でも案の定、秀一郎は私だってすぐに分かってくれたみたい。

躊躇いがちに呼ばれた下の名前を頭の中で復唱して、くすぐったくなった。



「どう、元気にやってる?」

「ああ…そっちは」

「見ての通り、元気だよ」



グラスを持ったままやってきた私は、そのまま秀一郎の隣の席へ移動した。
秀一郎はちょっと戸惑った様子だったけれど、気にせず腰掛けた。



今日は成人の日。

この良き日に、中学校の同窓会が開催されているのだ。
(私立受験した者たちにとって、地元の集まりって
 知らない人の方が多くってやりにくい。)


卒業してから、5年弱。
でも今でも鮮明に思い出せる。

卒業したその日は、私にとって忘れられない思い出の日だから。




中学の間、私と秀一郎は付き合っていた。
といっても付き合いだしたの最終学年に上がってからだから、
実質一年も経っていなかった。

だけど、初めてだったこともあるのか、
何もかもが新鮮で、とても濃い一年間だった。

仲も良かったし。
不満なんて何もなかった。



だけど中学校の卒業と同時、
私は親の仕事の都合で海外へ引っ越すことが決まっていた。



「俺がもっと大人だったら、行くなって引き留めることができたのかな」。

私のことを抱き締めたまま、
秀一郎はそう言った。


「私が大人だったら、親に着いていかないで残る道も選択できたのかな」。

私も胸の中でそう返した。



だけど私たちは、まだ子供で。
一人では何もできなくて。



結局、私たちは離れ離れになることになった。



あの頃考える3年間って、途方もなく長い時間で。
それを遠距離――それも違う国で過ごすとなって続けられる気がしなくて。
別れることを、決意した。



「………」

「………」



挨拶したっきり、次の話題が続かない。
今までどんな風に過ごしてたとか、
今どんな生活してるとか、
聞けることはいくらでもあるのに。


…きっと、真実を知るのが怖いのだと思う。


私がいない間に、
あなたはどうやって時間を過ごしてきたのか。
誰と。
どのように。


今、付き合ってる人とか、いるの?


って、本当は聞きたい。



確かに、離れたあなたを想って過ごす3年間は、とてもとても長かった。

だけど、

あなたを想わなくなるためには、3年間は、短すぎたんだ。



「5年ぶりくらいかな」

「そうだね、そんくらい」



沈黙にしびれを切らして向こうが声を掛けてきた。

5年間。
私たちが別れてからの期間だと、
向こうも考えていたりするのだろうか。


海外にいた間、3年経っても全然忘れられなかった。
でもそれは会いたくても会えないからなのかなとも思った。

日本に帰国したときにまだ想いが冷めてなかったら、
なんとか連絡を取って会いに行こうと思っていた。

だけど帰国した頃から、驚くように気持ちは落ち着いて、
いつでも会えると思うからなのか、連絡を取る気は起きなかった。


でも、会ってしまった。

会ったら、思い出してしまった。

あの頃の気持ちを。



私は秀一郎を見るけれど、
秀一郎はこっちを見てこない。


横顔。
大好きだった、横顔。

当時から大人びた表情をする人だったけれど、
前以上に落ち着いた雰囲気に、ドキッとさせられる。



やっぱりまだ、好き。




「………私はずっと、好きだったよ」




小声でそう伝えると、
秀一郎はハッとした顔でやっとこっちをまともに見た。

そして、参ったな、という風に表情を崩した。



「もう5年だぞ?」

「わかってるよ」



会わなかったから忘れてただけで
私はまだまだあなたを心から消せてなかった。
今、隣にいるだけでもこんなに胸がドキドキする。

でもね、思い出補正も入っている気がする。
未練があったまま別れてしまったから、
私の中のあなたが余計美化されているのでは、って。

もしもあのまま付き合い続けていたら、3年も5年も経ったら、
私はいくらでもあなたの嫌なところを一杯見つけているはずなのに。


授業中に目配せして。
休み時間におしゃべりして。
お弁当のおかず交換して。
下校中に寄り道して。
一緒にテスト勉強して。
部活の大会の応援にいって。
クラスのクリスマスパーティー中に抜け駆けして。


あの頃は良かった。って、

幸せな思い出ばかりがあるものだから――。




「ねえ秀一郎……もしも今付き合ってる人とかいないんだったら、
 私と付き合ってくれない?」




言っ、た。

今度は私が向こうを見れない。
向こうからの視線は一杯突き刺さってきてるの分かってるのに。分かってるから。




「今付き合い直しても、あの頃の続きにはならないぞ?」




そう言われて、はっとした。
あなたは、とっくに大人になっていた。
あの頃とは違った。

あなただけ?
……私もだ。





「続きじゃなくていいから。今から、私と付き合ってよ」





目線が、かち合った。

逸らせない。



真剣な眼差し……が、

フッと崩れて。




「かなわないな、には」




そう言って優しく微笑まれた。



「それって…OKってこと?」

「ダメだな、俺いつも…女の子に告白させてるようじゃ」



言葉を聞き終わるが先か否か、
私は秀一郎に抱き着いた。

それを見た元クラスメイトたちが
「おいがインターナショナルアピールしてるぞ!」とか
「そういえばあいつら昔付き合ってなかったっけ?まだ続いてんの?」
とか話しているのが聞こえてくる。

何も知らないで、って、笑っちゃった。




間が空かなかったら、私たちはどうなっていたのだろう?

その後が高校生なのか、
大学生や社会人であるのか、
それだけでもだいぶ変わってくるだろう。


だから、これはあくまでも新しい始まり。
あの頃の続きではない。


だけどね、私はあなたの好きな食べ物も好きな場所も知ってるし、
どんなことで怒ってどんなものに喜ぶかもわかってる。
だから、本当の“初めて”ではない。


でも。



大好きなあなたとまた付き合える。

それだけで今は幸せだ。



ずっとあなたを想い続けてきて良かったよ。






















大石も付き合い直したいと思っていたけど
怖くて一歩が踏み出せない、様子が読み取れる。
(↑自分で書いたくせに読み取れるてなんだ)

3年って時間と5年って時間が話をややこしくしてるのでは、
という懸念もあって3年間に統一しようかとも思ったんだけれど
空白の2年間が欲しかったのでそのままにした。
会った瞬間に2年間が吹き飛ぶ瞬間も欲しかったし。

読み返してみて、大石はどうやら会わなかった5年の間に
誰かと付き合って別れたのだな、ということがわかった。(5/31追記)
(書いた癖に「わかった」てw)(でもキャラが生きてるってそういうこと)


2014/05/02