* 春みたいな。 *












――私の好きな人は春みたいな人です。



「春?どこが」

「……」



早速親友のにはダメ出しをされた、けれど。


「優しいし、あたたかくて柔らかい雰囲気を持つ人だと思うんだけど」

「優しいのはわかるし、確かに冷たいよりはあったかいってのは理解できるけど、
 そんなに春っぽい?花とか全然似合わない」

「そうかなー」


私は、結構似合うなー、と思うけど。
なんだろう、桜の下を歩いていたら素敵だな、とか。
実は植物愛護精神とかありそうだな…とか。
まあこのへんまで行くと私の妄想なんだけどさ。


「でもさ、あの…言い辛いけど、大石って最近彼女できたって噂…あるよね」

「……うん。知ってる」


そう。
それは新年度になって一番に流れた噂。
大石君に、彼女ができたっていう話。

その子は、学年でも有名な美人な子。
背は平均よりも高くって、しっかり者で、
確か去年学級委員をやっていたから、その繋がりかな…。


「じゃあどうすんの。略奪愛?」

「略奪…って言い方は好きじゃないけど。
 でも諦めるつもりはないよ。告白するかは別として、しばらくは好きだと思う」

「そっかー。相談乗れることあったら言ってねー」


そうして、そのときの会話はいったん終了した。

でも、実はさっきの話には裏があるんだ。



去年…まだ大石君が誰とも付き合ってない頃、
私は一回聞いたことがあるんだ。
大石君ってどんな人がタイプなの?って。

そうしたら「春みたいな人」、って。
実は、大石君の受け売りなんだ。

その言葉を聞いて即座に、
きっと、大石君は優しくてあったかくて柔らかいような、
そんな人が好きなんだろうなって理解した。
そして考えるほど、その言葉は大石君に当てはまるような気がしたんだ。

だから私はその場で「大石君こそ春っぽいよね」って言った。
そんなことないぞって否定してたけどね。


―――春。

そんな人に私もなりたいなって、
ちょっと意識して過ごしてきたつもりだったけど、
いつの間にか、大石君には恋人ができていた、と。




廊下で話す私たちの目の前、
例の、大石君の彼女となった子が通過していった。

思わず目で追う。



……春っぽい。

…どこが?と思う。


キリッとしたロングな黒髪。
痩せてて手足もすらっと伸びてて。
洗練された眉と切れ長な目。
ケラケラと笑うよりもクスッと微笑むような
クールビューティーなタイプ。

…どこが春?


とても綺麗でモテるタイプな子はわかるけれど、
春ってことに関しては、理解できない。

それとも春みたいな人っていうのはタイプの人のことで、
今回付き合うことになった人が必ずしもそれに
当てはまってるとは限らない、てことかな?
うーん…。



あ。


大石君。




大石君は、小走りで駆け寄ると、
何やら会話を交わして、
笑った。

やっぱりその子は、クスッと微笑みようなクールな笑い方で。
その横で、大石君は――……。

あー……。


、私、諦めた」

「何を」

「好きな人」


そう言ったあと、数秒の間があってから
は驚きの声を上げる。


「諦めた!?早!!てかあっさりだね」

「気付いちゃったから」

「え?」


思い返す。
その柔らかな笑顔を。


わかっちゃったんだ。
きっと、その子は春じゃない。
だけど、その子を見つめる大石君の表情は、
春そのものだった。

きっと私も同じだった。


入り混む余地なんて、どこにもなかったんだなぁ。



「大石君は、春じゃないよ。
 春みたいな気持ちにさせられてるのは、私の方だった」






















珍しく台詞で終わらせてみた。
こういうのもありかなと思って。

どうして私は大石を季節に当てはめると春なのだろう、って。
海とか山とか好きだし髪型を考慮しても(←)夏になるのが
自然だと思うのに、どうしても春になる。
それは、大石を見ると気持ちがあったかくなるっていう
私の乙女的な思考によるものでした。と気付いたのでw


2014/04/30