っ!一生のお願い聞いて!」

にしか頼めないお願いなの!」

「神様仏様様〜〜」

「えーそんな大げさな〜。なんだって聞くよ〜?」


突然手を合わせてお願いしてくるクラスメイト3人。
なんなのかなぁって軽い気持ちで返事したら…。


「「「大石の髪型、改造してっ!!」」」

「……は?」


予想外のお願いがやってきました。










  * 大石髪型改造計画 *












「ど、どうしたの突然!?」


突然のことにたじろぐ私。
それを、私を取り囲んでいた子たちが一斉に囃し立ててくる。


「だってさ!大石って優しくて面倒見よくてしっかり者で
 勉強もできて体育もできて、実はイケメンじゃん!!」

「じ、実はね…」


自分の彼氏をイケメン呼ばわりするのは抵抗があったけど。
でも実際、美形だな〜とは思っている。

そう、ここでいう大石とは、
私たちと同じクラスで私の彼氏でもある、大石秀一郎のことである。


「なのに!」

「な、なのに?」

「なんなのよあの髪型!?」

「そうそう!あの触角が許せない」

「触角!」


触角!
確かに言われてみれば触角に見えなくもないかも!!

ツボに入ってしまって、私は一人でケラケラと笑う。


「ホントだね!触角みたい!クワガタとかゴ○ブリとか!」

「いやいや…クワガタのは触角じゃないし」

「つーか自分の彼氏のことゴキ○リ呼ばわりすんなよ」


今度は寧ろ冷静に突っ込まれた。
えーだって面白いじゃん、触角……。


はさ、変だと思わないの?」

「んー、確かに言われてみたら珍しい髪型かも…」


ぐるーと教室を見回してみて
クラスの他の男子を見てみたけれど、
確かにあんな髪型の人はどこにもいない…。
クラス以外にも、今まで出会った人を思い浮かべても
確かにあの髪型は、珍しいのかもー。


「それだけ!?私だったら恥ずかしくて横歩けない」

「そんなにー!?」

「ダメだ…このド天然に何言ってもダメだ…」


ド天然呼ばわりされた…。
別に天然のつもりは私はまったくないんだけど…。
(自覚ないけどよく言われるってことは認めるべきなのかなぁ…?)


「とにかく!」


バン、と一人が机に手をついて乗り出してきた。


「あの髪型、変えさせてよ」

「えー?」


同じクラスになってからあの髪型しか見たことないし、
クラスメイトになる前はあんまり関わりなかったから、
他の髪型の姿は見たことないんだよね…。


もさ、あの髪型が変とは思ってないだけで、
 別にどうしてもあの髪型が良いってわけじゃないんでしょ?」

「あー…まあ、確かにね」


もしかしたら、すごい似合う髪型があるかも?


「ほらほら、だって大石がもっとカッコよくなってくれたら嬉しいだろ?」


もっとカッコイイ秀くんになってくれるかも!?



「わかった!やってみる!」

「「「やったー!!」」」



その3人はハイタッチを交わしていた。
なんだか、ここまで喜んでもらえるとやりがいを感じちゃう!


「じゃ、お願いねー」

「はーい!」


陽気にお返事。
3人は、キャッキャと私の机から離れていって
また何かの話に盛り上がってワイワイしていた。


よし、早速今日のお昼に相談してみよう!





  **





「秀くんはさ、いつからその髪型なの?」


屋上でお昼ご飯を食べながら、一言目でそれを発した私。
秀くんは横で苦笑いをした。


「やっぱり、変かな?」

「え?変なんて言ってないよ!私、他の髪型見たことないから」


秀くんは私の顔を見て、目が合って、
そのままぱちぱちと瞬きを繰り返していると
納得したのか話してくれた。


「丁度中3に上がるちょっと前からだよ」

「そっかー。じゃあ私他の髪型知らないわけだなー」


ふむふむ、納得。
その前はどんな髪型だったんだろ?
そのもっと前は?

気になってきた!



「あのさ、私、他の髪型も見てみたいな!」



お、なんかすごい自然な流れで言えた!
それに、そそのかされたから言ったって感じじゃなくて
私、今本当に秀くんの別の髪型見たいと思ってるし!

でも、秀くんの表情は曇っていて。
あれ……?


、誰かに何か言われた?」

「えっ?」


ドキッと心臓が跳ねた。

言われた、けど、
別に言わされたわけじゃないし。
ちょっと誘導されたような気もしなくもないけど、
今は私自身の意思だし。
問題ない、よね?

っていうか秀くんは、どういう意図で今の質問を…?


「どういう、こと?」

「んー…ちょっとな」


ちょっと…?
なんだろう。
気になる…けど、聞いていいことかな?


「いや、いいんだ。気にするな」

「えー……気になる」


ぷくぅとほっぺを膨らます。
秀くんは、参ったな、って感じで頭に手を当てて、
結局話してくれた。


「いや、ちょっと前にも、髪型変えないのって言われたばっかだったから
 それに何か関係してるのかなって気になっただけ」

「あ、そうなんだー…」


あれ、もしかしてあの3人??
それで本人に言ってもダメだったから、
私を経由してなんとかさせようとした、のかな?


「俺は今の髪型気に入ってるし、かのじ…その人たちは、
 面白がってるような印象を受けたから断ったんだけど」


言い直したけど、今、“彼女たち”って言いかけたよね?
やっぱり、あの3人なの、かな。

面白がってた、のかな?

私、おふざけに乗っかっちゃってるのかな??



「それとも、関係あるのか?」



まっすぐな、目線。
真実を見透かしてきそうな。

でも、なんか悪いことをしているような気になってしまって…。



「…知らない」



首を横に振ってしまった。
秀くんは私の顔を見たまま「そっか。わかった」と言って微笑んだ。
なんだか、罪悪感があるようなー…。


「まあ、が他の髪型にしてほしいって言うなら、考えてみるよ」

「あっ、別にしてくれって意味じゃなくて、
 他のも見てみたいなー…って」

「うん。ありがと」


そう言って、頭をぽんぽんと叩かれた。

これでいい…のかな。

目的は達成したはずなのに、
なんだか気持ちがモヤモヤするよ…?





  **






「おれ、職員室に用事あるから」

「わかった」


屋上から下りてきて、
秀くんはそのまま1階まで下りて行って
私は教室に戻った。

教室には、例の3人が話してた。

報告、しよう。
秀くんが髪型変えるって言ってくれたよって。

それから…聞きたい。


「ねーねー」

「あ、。どうしたー」

「秀くんが、髪型変えてくれるって」

「マージ!!?」


さすがだよー、やるなお前ー、
とか言いながら背中をばんばん叩かれた。

でも手放しで喜べない。
一つ確認するまでは…。


「あのさ…」

「え?」


面白がってるの?
私、もしかして利用されてる?

って、聞こうかと思ったけど……


「あ…やっぱなんでもない」

「あそ?いやー楽しみだなーも楽しみだろー?」

「う、うん…」


聞けなかった…。
だって、もし違ったら相手に嫌な思いさせちゃうよね…。

私が他の髪型見てみたいって思ってるのは本当だし。
そそのかされたようなとこも少しはあるけど、
今は自分の意思で言ってるんだから、問題ないよね…?





  **





その放課後。
委員会が終わって荷物を取りに教室に戻ったら、話し声が。


「大石、どんな髪型なるかなー」

「ねー」


あ。

どうやら、例の3人。

なんだか足を踏み入れてはいけない気がして、
廊下に立ったまま話をこっそり聞いた。


「とにかくあの触角なくなればある程度許せる」


そう言って、ゲラゲラと笑い声。


「本人に言ってもダメだったけど、を使う作戦は成功だったね」


……アレ。
やっぱり私、利用されてる――…?

“ド天然”だからなぁ…。
なんだか胸の奥が、チクチク、して。


「あの美形、ホントに宝の持ち腐れだよね。
 もうちょっとまともな髪型だったら絶対モテんのにな」

「ねー。超勿体ないよねー!」

「これでモテ出したらうちらお礼言われたいくらいだよね」


そう言って、また、笑い声。


そういう、つもりだったのか。

うん。私もどこかでは、気になってた。
どうしてそんなに髪型変えさせたいのかな?って。
いつの間にか、私も他の髪型見てみたいって気持ちが生まれて
そっちの疑問のことはすっかり忘れてた。


「っていうか私たぶん結構タイプだと思う」

「ズルイ!私も!」

「いやいや私がゲットするから!」


あれ、私は?
私の気持ちは??

アレー……?



「恋愛対象にするにはあの髪型だけがネックだったもんなー」

「ホントそれ」

「やべー週明け超楽しみー!」


そんなことを言って笑いながら3人は帰っていった。

私はそれをトイレに隠れてやり過ごして、荷物を回収して、
テニスコートへ全速力で走った。

本当はそのまま帰るつもりだったけど、
一刻も早く、会いたくて。


秀くん…!



フェンス越しに、その姿を見た。
真剣な眼差し。
光る汗。

思い返してみたら、私が秀くんを見てカッコイイと思ったのは、
テニスをしている姿だったな。
そうしたら間もなく向こうに告白されて、
付き合うことになって。


確かに、どうしてもこの髪型が良いってわけじゃないよ?でも、
記憶をいくら辿ってみても、
秀くんとの思い出の中で、秀くんは
いつもこの姿で。


秀くん。

秀くん、秀くん……!





練習が終わって、解散するテニス部。
話しながらテニスコートを後にする秀くんを見つけて、
私は声をあげて走り寄った。



「…秀くん!」

「え、?」



普通だったら現れるはずのない私を見つけて
秀くんはすっとんきょうな声を上げた。
学校ではさんって呼んでるのに、それすらも忘れて。


「ど、どうしたんだ!?」

「ごめんねーごめんねー!!」

「と、ととりあえず落ち着け!」


自分も動揺してるくせに私を宥めてくる秀くん。
私はその体に勢いよく抱き着いた。


ヒックヒック。
胸の中で声が反響する。

そこで初めて、気付いた。

私、号泣してた。



「大石、鍵は預かるから、今日は先に帰れ」

「でも手塚…」

「その状態の恋人を放っておくのか?」

「っ…」


私、秀くんにしがみついてる。

迷惑かなとか、困ってるだろうなってのはわかるけど、
それよりも、今、この人から離れたくない。


「…悪い」

「お前もたまには休め」


手塚くんがそう言ってくれて、
秀くんは私と一緒に先に帰れることになった。


「大石ヒューヒュー!」

「うるさいぞ、英二」


茶化されながら、
涙でいっぱいの私は顔を伏せていて、
秀くんに肩を抱きかかえられたまま学校を後にすることになった。


学校の門を出るまでは無言だったけど、
道を歩き始めて少しして秀くんは声を掛けてきた。


「どうした、。何があったんだ」


そう言って、肩を抱きかかえたまま手をポンポンとさせた。
私は、しゃくり上げるのは止まっていたから
鼻声だけれどなんとか話すことができた。


「ごめんね、秀くん…」

「俺は謝られる覚えはないぞ?
 まず何があったか教えてくれないか」


私は、自分が情けなかった。
人にそそのかされて、興味だけで、
一番大切にしているものを見失いそうだったことに。


「…ごめん、言えない」

「……そうか」


また、しばらく無言。

もうしばらく静かにしてたら
秀くんは別の話題を振ってくれるんだろうけど、
その前に、伝えないといけないことは伝えておかないと。



「…それとは関係ないんだけどね」

「うん」

「今日の昼間言ってた、髪型の話…忘れていいから」


ちょっと間があって。


「そうなのか?」

「うん」

「なんで?」


なんで?

利用されてることに気付いたから?
面白がられてることに気付いたから?


……違うよねぇ。


ぐすっと鼻をすする私。
そして、学生服にしがみついた。


「秀くんー…」

「ん、どうした?」


小声で呟く私の口元に、秀くんは耳を寄せてくれて。
だから、恥ずかしかったけど、きっと聞こえたと思う。



「私、結構やきもち焼きなのかも」



返事にならない返事をしたけど、
秀くんは笑って私の頭をぽんぽんと叩いた。


離したくない、離れたくない。

何より大きい想いはそれだった。



確かに、気になるよ?

もっと似合う髪型があるかも?
もっとカッコよくなれるかも?って。


でも、大事なのはきっとそんなことじゃないんだ。



またあの3人に報告しないとな。

文句言われるかもしれない。
でも気にしない。

言ってやるの。
「私にとっては、秀くんは今の髪型が一番カッコイイから」って。






















Twitterより引用
> 「大石好きだけど髪型がなー」「あの髪型じゃなかったら大石好きになってたかもw」
> とか言ってる人なんなの大石はあの髪型だから大石なんだよ
> 違う髪型だったらとか言ってる時点で大石好きとは言えんわ!
> てことで大石は私が頂いていきますね^^
> そんで付き合ったら、まず一番に髪型変えさせます!(爽)
笑。

もし大石がもっと普通の髪型だったら、もっと人気あって、
そしたら私は大石を好きにならなかったと思うよ、って話w

たぶん、この大石は全部分かってる。(笑)
この主人公嘘つくのへたくそすぎるもん。(笑)

でもたぶん、主人公の拡大解釈だと思うw
3人組も別に本気で大石と付き合いたいと思ってるいないと思うw
絶対イケメンだから見てみたいーみたいなミーハー心なのに
奪われちゃうと焦っちゃったお話だと思いますw
これだからド天然はーwww


2014/04/29