* 便りは風に乗って。 *












は大石のことが好きらしい」。

噂は瞬く間にクラス中に広まった。


きっと、本人の耳にも届いてるんだろなー…。

なんだか最近、大石くんとよく目が合う、気がする。



でも、大石くんは何も言ってこない。




これは、ダメってことなのかなー…。

だって、もし大石くんも私のことが好きで、
私が大石くんのことが好きって噂が聞こえてきたら、
向こうから何か言ってきておかしくないよね?


だから、きっとダメなんだ。

なら傷つかない方がいいよねって思って、
私から大石くんに何か言うこともしなかった。



だけど、どこかで諦めきれてなくて…。


噂って意外と本人には届きにくいものだし。
もしかして、知らないだけかもしれないな?って。



伝えて、みようか。

もうすぐ卒業式。
当たって砕けてみようか。


良い切っ掛けの日だし、
ダメだったとしてもその後顔を合わせずに済む。
大石くんは、エスカレーターで上がらず別の高校に行くことが決まってるから。

せめて、伝えるだけでも。








―――卒業式。


式が終わって、
卒アルに寄せ書きをして、
黒板にラクガキをして、
「みんなで写真撮ろうよ!」の一言で、クラスの集合写真を撮ることになって。

そのとき。



「ほらお前ら、隣行けよ」

「ヒューヒュー!」



噂は収まってきてたと思ったけど…根強く覚えていた人もいたようで。

追いやられて追いやられて、私と大石くんは隣同士。


目が合って、私は苦笑。
大石くんはいつも通り笑ってて。

これは…やっぱり知ってる?
知らない?

分からないまま、私は写真に写る。

精一杯の笑顔で――。



終わると、今度はみんな個別で写真を撮りだす。
人々がバラけていく。

私も、仲良しグループの子たちと撮ろう、と思ったとき

さん」

と、後ろから声が掛かって――…。



振り返ると、大石くんが右手を差し出していた。



「今までありがとうな。高校でもお互い頑張ろう」



戸惑いながらも、私はその右手を取る。

温かくて、大きな手。

初めて握った。



そして、分かった。

やっぱり大石くんは、あの噂を知っていた。

だけど、何も言ってこなかったんだ。って、
分かってしまった。




「こちらこそありがとう」



中学校生活の、幸せな思い出をたくさん。



委員長として朝礼で前に出て話す凛とした姿とか。
授業中に発言するのを前向いたまま耳だけで聞いたりとか。
わざと机の横を通過してみたりとか。
体育の授業を横目でちらちら見たりとか。
同じ班になって嬉しかったこととか。

思い返してみれば些細なことだらけで。
だけどどんなに幸せだっただろう。


ありがとう、ありがとう。



「大石くん、立派なお医者さんになってね」



涙が、滲んだ。
卒業式だもん、仕方がないよね?


手を握ったまま、泣く私。
大石くんは慰めるでもなく、「ありがとう」とまた言った。


「お、見ろよ」「ついに告白かー!?」
なんて冷やかしの声を聞こえるけど、そんなんじゃない。
そんなんじゃなくて、
でも私は失恋したんだ。

だけど、なんて優しいフラれ方でしょう。



結局、気持ちを伝えられないまま、

だから当然返事も聞けないまま、


私の恋は静かに終わりました。



さようなら、大石くん。中学校の思い出と一緒にここでお別れ。






















このタイミングで卒業式ネタとは我ながらw

きっとこの主人公は告白することはできない子。
噂がなかったら本人に伝わることすらなかったのでしょう。
だけど、あの噂さえなければ当たって砕けられたのかな、
とか思ってしまうのです。
結末は同じなんだけどね。

大石優しいなー。優しすぎて残酷だなー。(笑)


2014/04/19