* 君行き片道切符 *












好きな人に彼女が出来た。



「おい大石マジかよー!」

「やるじゃんお前」



クラス中がその話題で盛り上がっている。
なんでも相手は、学年でも人気な美少女。
見た目だけじゃなくて、性格も良くて、
勉強もできて運動もできてしっかりしてて…。
私なんか、逆立ちしたって叶わない。



「めっちゃ盛り上がってるねー」

「ね」



隣の席のちゃんが話しかけてきた。

人が集まっているその輪の中に入る気はないけれど、
それについての話はしたいみたい。



「初めから両想いだったのかな?告白されたから付き合うって感じかなー」

「どうだろ」

「っていうかどっちから告白したんだろ」



ズキンズキン。

心臓が、痛い。


関心がないフリしか、できない。

本当は誰よりも気になってる。
でも一番聞きたくないのも私。



ちゃんも好きな人いるのー?」



それは。

聞かれて困ることを。



でもなるたけの平常心で、真顔で返す。



「ううん、いないよ」

「そっかー私も今はいないや」



いない。

もう、思い続けちゃ、いけないんだから。






  **





放課後。
外からは、運動部の元気な声が聞こえてくる。

でも私は…サボっちゃった。
部活行く気になんて、なれないよ。

かといって家に帰るのもなんかイヤで、教室でぼーっとしてた。


ら。



「あれ、

「え?………大石」



なんと。

一番会いたかった、はずの、
一番顔を合わせたくない人。


なんで今、ここに。アナタが。




「何してるんだ」

「えーっと、宿題、とか」


開いてなかったノートを今更焦って広げながら、
本当は使ってなんかなかったシャーペンをくるくる回す。

不自然だった、かな。
でも問題はその行動が不自然かとかじゃなくて。

今、私、平常心でいられてるかな。


笑顔……笑顔。
私って、いつもどうやって笑ってたっけ。

ほっぺは上に上がってる。けど、ひきつる。



「そういう大石は?」

「俺は、さっきまで委員会で…教室覗いたらが見えたから」

「そう」


そこまで大石は笑顔で喋っていたけど、
言葉を詰まらせると、こっちを窺うような表情に変えて。


「…ちょっと、気になって」

「え?」



私はキョトンとする、けど、大石は意味深な声色。




、今日元気なかったから」


「―――」




どうして、気付いちゃうの。


ダメだ、やっぱり私、大石のこと…!




 『 ス キ 』




声に出してしまったか、と思ってハッとする。

しかし前を見ると、大石は困ったような表情で、
心配そうに私を見つめていた。



そんな、ところが。


どんな相手に対しても、親身になってくれちゃうような、
そんな大石のことが。


気持ちが溢れて止まらない。




好き。



好き。



好き。




好き!







「……スキ」




心の中で繰り返したよりも遥かに弱々しく、
でも今回は、確実に声に出していた。


目の前で大石が、困ったような表情、に加えて
焦ったような顔で、顔を赤くして、視線を逸らす。



「ごめん、俺、実は最近…」

「知ってる!うわさめっちゃ広まってるから」



遮るように。

いくら分かっていても、本人の口から聞くのは、やっぱ辛い。






「いいんだ、大石くんに好きになってもらえなくても」






言いながら、気付いた。




そうか。そうだったんだ。
私が辛かったのは、大石くんに彼女が出来たからじゃない。

彼女ができちゃったら、
好きでいるのが許されないみたいな、
そんな気持ちにさせられたから。


好きな人に、好きになってもらえない、
それくらいの片想いなら辛くない。

好きな人を、好きでいちゃいけない。
それ以上に辛いことはないよ。



だから、お願い。




「これからも、好きでいて、いいですか?」




ポカンとした表情で大石は、
無言のままこくりと頷いた。




「ごめんね、もう二度と、言葉に出したりはしないから」




だから、これからも心の中だけで。


大石くん、これからも、ずっとずっと スキ。






















途中までは『やっと片想いに別れを告げる』に似てる。
ただ、向こうは秘めたまま引っ張ったのちに消滅するけど
こっちは本人に伝えることで昇華するジョンバー。

失恋したときめっちゃ凹んだんだけど、
「好きでい続けることを拒否される理由はないよね!」って
開き直ったら大分楽になったっていう体験談。
私の「私、片想い得意だから!」はこのへんが起源w


2014/03/15