* 私の恋は成就したことがない *












来月、結婚する。



相手は学生時代から付き合っている人。

約5年間…ケンカもあったけど
一緒にいると楽しくて、安心できて。

別に特段カッコイイってわけでもない。
でもとても大切で大好きな人。
この人となら一生一緒に居られるだろうって思うんだ。
結婚ってそういうものだよね。


だけど、どこかでモヤモヤしてる。
本当にこのままでいいのかな?って。

結婚する。
その事実は変わらないし変えたいと思ってるわけではない。
でも…このまま結婚していいのかな?って。

モヤモヤしている。

これが、マリッジブルーっていうのかな…。



「あれ、?」

「―――」



なんとそこには。



「……大石」



そこに偶然いたのは、大石秀一郎。
中高ずっと大好きだった人。


「久しぶりだな。お出かけ?」

「ん。ちょっとぶらぶら」

「そっか」


それじゃあまたね、って、手を振って去ることもできた。
でも、足を留めてしまった。

一瞬の間のあと、大石は頭を掻きながら言ってきた。



「なんか、元気ないな。どうした?」



……そんな。

会うのですら久しぶり。
元の私がどんなだったか覚えてるの?
毎日会ってても気付かない人もいるのに?


なんで、気付いちゃうの?


大石は目立つタイプではない。
でも、とても気配りができる人。

いつもこういうタイミングで助けてくれた。
落ち込んでるときは一番に気付いてくれた。

私は、本当に本当に彼が大好きだった。



「マリッジブルーかなぁ」

「…え?もしかして」

「うん。来月結婚するんだ」

「そうなんだ…おめでとう!」



大石は笑顔でそう祝ってくれたけど。
私の笑顔はきっと曇ってて。

なんだろう。このモヤモヤした気持ちは。


「俺はからっきしだよ」

「そうなんだ。やっぱ忙しい?」

「今は仕事に集中したいかな」


大石はそう言う。
思い返せば私がフラれたのも「勉強と部活に集中したい」だったな。
今も、縁がないんじゃなくて、
恋愛をしている暇がないんだろうな。
もしかして、またそうやってフったりしてる?

…なんて。
大石が今どうであったって、私はもう関係ないのにね。

複雑な思いがして、変な笑顔になった。
その表情を読み取ったのか、
大石は私の様子を伺いながら話しかけてくる。


「やっぱり、複雑なものなのかい?女性の気持ちっていうのは」

「そうだねぇ」


やっぱり私は、歯切れが悪くて。



「色んな人と付き合って、色んなことをしてきた」

「うん」

「でも、一個だけできてないことがあって…」

「なんだ、言ってみろ」


真剣な顔で大石はこっちを見てくる。
対して、私は心の中で苦笑する。

言ったね?後悔しないね?



「時間ある?」

「え、ああ」

「じゃあさ…ちょっと着いてきて。行きたい場所があるんだ」

「わかった」


何も疑わずに、私に着いてくる大石。
スタスタと前を歩く私も、どうかしてると思う。

無言で歩くのもどうかと思って、私は話題を切り出す。


「私さ、今まで告白された人としか付き合ったことないんだ。
 旦那さんになる人も含めて」

「…そうなんだ」

「自分から告ったのは、全部フラれた…。
 っていっても、告白したことあるの一人だけだけどね」


私がそう言うと、大石はバツが悪そうにした。

そりゃそうだ。
その“唯一”は自分だと気付けばな。


言ってしまえば、本気で付き合いたいと思った人と付き合ったことがないんだ。

付き合ってみたらみんないい人で、
こんな私を好きになってくれてありがと、
告白してくれてありがとって思うんだけど。

自分からいって成就したことはない。



私たちは、休日の昼の街の喧騒から離れて、
どんどん人気のない方へ向かっていく。
大石も、何かがおかしいとは勘付いていたと思う。

でも、そこで足を止めるとは思ってなかった様子。


「着いたよ」


だって、ここはホテル街。



「冗談だろ!?」

「本気だよ」



大石は驚きすぎて、挙動不審みたいになってる。
でも私は大石から視線を外さない。


「私、絶対不倫はしない」

「じゃあ…」

「だから、これが最後。最初で最後」


そうは言うけど、って大石は視線を外す。

心の中の曇が、一つの塊になって、
ザアザア雨が降り出すのを感じてる。



「今後一生間違えないために、今間違えておきたいの」

…」



来月、結婚する。

でも、このまま結婚していいのかな?ってモヤモヤしている。


そんなとき、目の前に現れた人。


いつもこういうタイミングで助けてくれた。

私は、本当に本当にアナタが大好きだった。



「お願いだよ、大石」



涙が、溢れる溢れる。
もう目の前がほとんど見えないくらい。


そうしていたら唐突に腕を掴まれて、ぐいと引かれた。


ズンズンと歩く私たち。

涙がどんどん溢れる。

私は声まで零して嗚咽する。

前は一切見えない。



ありがとう。

そしてさよなら。


私が唯一、本気で付き合いたいと思った人。






















大石は、どっち方向に手の引いたのでしょうって話でっせ!
普通に考えたら大石の性格なら離れる方向に進むと思うけど、
むしゃくしゃした全く愛のない抱かれ方をするのも悦だよ!
んで旦那さんの元に戻って、この人選んで良かったって思って
初恋に別れを告げることが出来れば、大石も本望ってこと。
たぶんこの大石はそこまで考えて動いてくれてる。と思う。

どちらにせよ、もう二度と顔向けは出来ないでしょうね。
だからさよならなのさ。


2014/03/08