* 負の連鎖が悪循環 *












顔が可愛くって。
平均並みの身長、ちょっと細身。
勉強もできて、運動だって得意。
家はお金持ちらしくて、ピアノを習っているらしい。
歌だって上手だし、美術もコンクールで入賞してた。
明るい性格で友達も多くて、教師からの人望も厚い。


そして、素敵な恋人だって。

あの人は、私が欲しい全てを持ってる――。



「いい彼女をゲットしたね」



教室の中から声を掛けると、廊下にいた大石ははっとしたように振り返った。
それは丁度、部活に向かった彼女を大石が見送った瞬間。

私と大石はこれから日直の仕事。


「そ、そうかな」

「うん」


話しながら教室に入ってくる。
大石は話を逸らしたそうに、
「さっさとやっちゃおうか」なんて言いながら席に着いて日誌を取り出した。
私も素直に横に腰掛けるけど、話題は逸らしてやらない。



「どんなどころを好きになったの?」



あの子は恵まれ過ぎている。
ずるい。

私だって、もう少し可愛く生まれててたら。
頭が良かったら。
運動神経が良かったら。
家が金持ちだったら……。

ついつい無い物ねだりしてしまう。
でもそれくらい、という人間は魅力的で、羨望と、嫉妬の対象である。


「好きなとこ、か…なんだろな」


困ったな、みたいな表情をしつつも、
話さなきゃこの話題は終われないと観念したのか、
ちょっと真面目に質問の返事を考え始めた様子。


ほら、答えなさいよ。
なんだって。

そしたら、諦められる。
ほら、私じゃあ無理だったんだって。
持ってる人は、いいよね、って。妬むことだってできる。


どこ?



「例えばな」



例えば?

何を言い出すの。



「態度が悪い店員さんがいたとするだろ、
 そうすると俺なんかは、苛立ってしまったりするんだけど」


うん。それは大石じゃなくたって、そうだ。

私は頷く。



「でも、さんはな、そういうとき、笑うんだよ」


は?



「あの人ご機嫌斜めだね、って。何か辛いことあったのかな?ってさ」



その発想は

なかった。




「花火大会で急な土砂降りにあった日も、
 今までで一番エキサイティングな花火だったとか言っちゃってさ。
 浴衣新品だったのが台無しなのに楽しそうに笑っちゃって」



「持ち帰ったケーキがぐちゃぐちゃに崩れてたときも、
 目の前で電車に発車されちゃったときも、」



「一瞬だけ怒ったり泣きそうになったりショックを受けた素振りを見せるんだけど、
 すぐにそれを崩して笑うんだ」



「それが素なのか、雰囲気を悪くしないために意図的にやってるのかはわからないんだけど…
 彼女といると、場が和むんだ」



口を挟む間すらなかった。
話し始めるまではあんなに渋ってたのに。

大石は、それほどまでにという人間が好きなのだろう。
入り込む余地なんかない。




「そういうところかな」




大石は笑顔でそう締めた。



やっぱりね。

あの人は、私には、
持ってないものを持ってるんだなぁ。



「あっ、ごめん。なんかのろけみたいになっちゃったかな」


「いや、いいよ」



深呼吸。




「よく分かったから」




羨ましいよ。
人を妬まずに生きてきた人って、
そんな考え方ができるようになるんだ。

私には、無理だなぁ。



「さ、やっちゃおっか」

「ああ」



呼吸がしづらくって仕方がない。
大きく深呼吸をしたけど、肺の奥に酸素が取り込み切れないみたいな感じがしてイヤ。

こんな自分は嫌いだけど自分じゃ自分を変えられない。
誰かに好きになってもらえたら、自分も愛せるようになったりするのかなぁ。






















書きかけだったの思い出したので仕上げ。去年の11月作。

私が書くには珍しい後ろ向き主人公。
といいつつ、名前変換的には彼女が主人公だよねってかw
いやいや一人称の子が主人公です。苗字使うにはそれしかなかっただけw

大石がエピソードを語ることで主人公は彼女を見直すのか、
という流れに見せかけて、そんな簡単にいかないのが人の心。
外野から見れば、生まれとか育ちが恵まれてないからではなくて
考え方が卑屈だから好きになってもらえないんだよ、と言いたくなるんだろうけど
本人からすれば、生まれや育ちが恵まれてればそんな卑屈にはなってないわけで。
負の連鎖ってやつだよね。どっちが先なんだろね。

素敵な彼女だね、なんだけど、気付く大石も大石だよねって話。
結局は大石が素敵なんです!(←)


2014/02/27