* そして初恋は舞い降りる *












クラス替えをして、1ヶ月。
始めのうちは他のクラスに通う人も目立っていたが、
だんだん慣れてきたクラスメイトは教室で会話に華を咲かすようになってきた。

今日は、クラスの女子が一角に固まっているから
どんな話をしているんだろなー、と思ったら、
何やら、誰が好きだとかいう話題で盛り上がっているようだった。


聞き耳を立てるのもあまり良くないな、と思いつつも
結構声が大きいもんだから…。
いや、細かい内容は聞こえはしないが、
「そうなんだー!」「どういうところがー?」「いつからー?」とか言っているから、
きっとそういう話なんだろうな、と。


女子はその手の話題が本当に好きだな。
一般的に男子よりも女子の方が早熟だというが、その通りだと思う。

当の俺はというと、いわゆる初恋というものも、まだなくらいだ。


好きな人ができたことはない。いや、
俺はこの子を好きなのか?と思うことはあっても
確信に至ったことがないというか。
いいなと好感を抱くことはあるけれど、
友達として好き、もっと言えば人として好き、
それ以上の感情であるのかは、分からない。

誰が好きだ、と公言する人は
確信を持ってそう思っているのだろうか…。
俺にはまだ人を好きになるのは早いのかもしれない。
そう思ったまま中学3年生になってしまったが。


チャイムが鳴って、掃除の時間になった。
俺と同じ班のは、「あー超盛り上がったー!」と
満足げな様子でほうきを取り出して床を掃き始めた

「ごめんねー、うるさくて」と言うので、
「いや」とだけ返したが。


とは、1年生ぶりに同じクラスになったけど、
背が伸びて、髪も伸びて、なんだか大人っぽくなったなー…。


「大石はさ、好きな人とかいないの?」


なんと、俺にまで話題を振ってくるとは。

しかもその質問は、それはさっきまで俺も自問自答していた内容だった。


「わからないな」

「えーどういうこと?」


上目線では聞いてきた。
は1年の頃より背が伸びたと思ったけど、
それ以上に自分が大きくなっているのか、
なんだか小さく見えた気がした。


「いや、なんていうんだろ」


自分の考えをまとめながらなので、
少ししどろもどろしながら話した。


「友達として好き、とか、嫌いの反対、っていう意味で
 好きな人だったらいっぱいいるんだけど…
 いわゆる“好きな人”っていうのは、それとは違うんだろう?」

「んーそうだねぇ」


床を掃くことは続けたまま、天井を見上げては話す。

くりっとした目が印象的で。



「その人のことがやたら気になって、
 何してんだろってチラチラ見ちゃったり」



話を続けながら、俺も床を掃く。

が一歩進むと、俺も一歩進む形で。



「近くにいれただけで嬉しかったり」



窓の後ろに、青空。


すっかり春。

もうすぐ初夏。




「笑顔を見るだけで、なんだか心の中が温かくなるの」




そう言って、笑う。



手が止まっている自分に気付いて、焦って動かす。

教室で掃除中にこんな会話をしている自分にはっとしたけど、
他のみんなは、離れた位置でほうきを動かしてこちらに感心はない様子。




も、好きな人いたりするのかな。


って思った瞬間。




「それから、相手の好きな人がやたら気になったりね」




とか言うから。



えっ?


て。




「それは、どうして?」

「そんなの決まってるじゃん」



さぞ当然、みたいな口調で語りながら、
は窓際に向かった。


そして、顔だけこちらに倒しながら。




「両想いだったら嬉しいからでしょ」




と、笑顔で。




なんだろうこの気持ちは。


なんだろう。




…さっきの質問だけど」

「ん?」




確信なんて、ない。



でも、なんだろう。

心臓の奥から湧き上がるような、この気持ちは。



それってやっぱり?

もしかしてこれが?




「やっぱり俺……好きな人、いるかもしれない」




今度はは、誰かと聞くでもなく
「フーン」なんて、いたずらな笑みをこちらに向けるから。




「そういうは、誰が好きなんだい?」


と、思わず口をついて出た。



それ聞いちゃう?と笑うと。


ペロッと舌を出して

「ナイショ」

だなんて。




…ズルイ。

ズルイな、は。




「人に聞くならまず自分からだろ」

「じゃあ私が言ったら大石は答えてくれるの?」

「えっ!いや、俺は…まだ確信が持てたわけじゃないし…」

「何それ」



笑いながら、ほうきを置いて机を運び出す。そして


「じゃあ、確信が持てたら教えてね」


だって。




「…ズルイな、は」


「えー、何がー?ほらほら、大石も早く机運べー」



窓から吹き込む風が、温かい。

それだけで、こんな幸せな気持ちになるなんて――。



一生にたった一度の初恋。


それがやってくるのはやっぱり、こんな、春の日のことなのかなと思った。




まだ、確信は持っては言えないけれど。






















あらら割と簡単にフォーリンラブ。
初恋に落ちる大石の話を書きたかった。

まだまだ駆け引きを楽しみたいみたいな、そういうのあるよね。
だって中学生だもん!(忘れがち)
見事な誘い受主人公だなーw女は告らせてなんぼってかw

これで主人公が別に大石好きじゃなかったら笑える。←鬼畜


2014/02/20