* だから元気にならなくちゃ。 *












ここんとこ大石の元気がない。
そりゃそうだ。
大切な彼女が、引っ越し…それも海外へ行ってしまったんだもの。


ため息。

大きく吸って……

…もう一回。


ああもう、見てらんない。



「おおい…」



声を掛けかけて、やめた。
だって、大石の横顔、泣きそうだったんだもん。
オレだったら、そんなときになんか言われても、余計困る。



大石って言えばさ、

すごく頼りになって。
優しくって。
自分より周りのこと心配するようなタイプで。


なのにどうだろ、今の大石、
捨てられた子犬みたい。

頼りにならないどころか、
こっちから助けを差し伸べてあげたくなるみたい。



しょーがない、いっちょ慰めてやっかな!
って思ったんだ。
いつも励まされてばっかのオレだけどさ。


あれ、でも、どうやって慰めれば良いのかな。

何言ったって日本とドイツの距離は縮まらないし。
気が紛れたって二人が会えないことに変わりはないし。

それに……オレも。

本当は、オレだって―――……。




「英二」



後ろから掛けられた声に振り返ると、
そこには不二が笑顔で立ってた。



「んにゃ、不二!」

「どうしたの、そんなに大石が心配?」



あれ、気付かれてた。
オレが大石のことばっか気に掛けてたの。



「………うん」

「あっそ」



あっそ、って……。
そういえば、不二って大石になんか冷たいよね…。
(あんまり仲良くないのかな…)



「僕はさー…」

「えー?」



不二が珍しく語尾引っ張ったりなんかして。
どしたのかな?って思ったら。



「どっちかというと英二が心配だけど?」

「えっ……それは、ど、どうして…」

「僕が気付かないと思ってた?」



ん?って。
笑顔で小首を傾げてくるもんだから。

不二も意地が悪いよにゃー……。



「なんかあった?」

「不二……」

「うん」


大石は、話を聞くのがうまいよなって思ったけど、
不二は人を喋らすのがうまい。



「大切な友達が、遠くに引っ越しちゃったんだ」

「うん。それで?」

「……サミシイ」

「それはそうだろうね」



そりゃそうだよ。
だって、遠く、遠ーーっくに行っちゃったんだもの!

でも、それだけ?
………違う。


意を決して、言う。



「っていうか、オレ……最近失恋した」

「うん」

「……あーもうちっくしょー…!」



その、ちっくしょー、は、
失恋したって事実もそうだし。
言葉にしたら認めてしまったみたいで、急に現実味が増して。
それに、その言葉に驚いてない不二にもムカついた。

あーもう!!



「それで英二、最近元気なかったんだね」



って。
ちょっと眉の下がった笑顔で不二は言う。

あれ。
オレ最近元気なかったんだ。
そっか。



「オレ、元気なかった?」

「うん」

「みんな気付いてるかな」

「いや多分僕くらい」

「乾は?」

「あーどうだろう、君は乾の特別なお気に入りではないからね」



それはどういう意味だー!と思いつつ。
(確かに乾って特定の人物に特に詳しい気がする…)

じゃあ……。



「大石は?」



いつも、オレの異変に一番に気付いて
一番近くで
一番に励ましてくれる大石。



「あの様子だよ?」



不二が親指で差した先。


ため息。

大きく吸って……

…もう一回。


ああもう、見てらんない!



「ちょっと大石と話してくる!」

「いってらっしゃい」



ひらひらと手を振る不二。
くるっと振り返って。



「……ありがと」

「ん?僕は何もしてないよ」



そんなこと言ってニコニコ笑ってる。
不二って、なんかズルイよにゃあ。

オレももっと、思ってること言っちゃっていいのかな?



「大石!」



いつもより小さく見えるその背中に声を掛けた。




「今日、一緒に帰ろ!」




少しでも、元気になりますように。

オレは、なるたけの笑顔で。






















また主人公が出ないドリーム(笑)
毎度の大稲でございます。

「大石が元気ないからオレが励まさなきゃ」から
「本当はオレだってヘコんでんだぞちっくしょー!」になる話。
そして『夕日』に繋がります。

英二はたぶん、自分の気持ちを一生隠し通すつもりだったんだと思います。
でも、不二に突かれて、もういいや!ってなったんだと思います。
といっても呼び出した段階ではやっぱり黙ってるつもりだったけど、
面と向かってうじうじしてる大石みたらムカついたんだと思います(笑)


2013/10/15