* 標高175cmの恋 *
――初めて、目線が合う人に恋をした。
私は、青春学園に通う15歳。
何を隠そう、といっても隠すまでもなく、私は背がデカイ。
昔からそれがコンプレックス。
小学校の時はあだ名が「巨人」だったし、
中学校に入ってしばらくして男子に抜かれるまで、
同学年で自分より大きい人にあったことがなかった。
思い起こせば、物心ついたころには誰よりも大きかった。
小学校を卒業するころには160cm台後半で、
中学校に入っても伸び続けて、
中3の今、年度頭の身体測定曰く174cm。
「(これでも若干猫背にしたんだぜ…)」
「おー今日もデカイな」
「うっさい」
こんなやりとりも、もう飽きた。
まあよく言えば、もう慣れた。
前は結構気にしてたけど、それほど傷つかないようになった。
それでもやっぱり、
もう少し小さく生まれたかったなー…とは思うけど。
「ちゃん見てみて、この服可愛いよね!」
クラスメイトに声をかけられて覗いてみれば、それはファッション雑誌。
なるほど、今流行りのシフォンスカート、ノースリーブのワンピース。
確かにどれも可愛い。
でも……。
「ちゃん背高いから似合いそう」
「いやいや、デカすぎてバランス悪いから」
「そんなことないよぅ!」
「そーだよ似合うよ」
みんなはそう言ってくれるけど。
社交辞令なのか本気なのかはわからないけど。
違うんだよなぁ……。
と、口に出そうか迷ったところでチャイムが鳴った。
皆それぞれの席に散っていく。
私も自分の席について、ふぅと息を吐いた。
そんなとき、すかさず声をかけてくる隣の人。
「どうした、ため息なんてついて」
「大石…」
確かにらしくないかな、ため息なんて。
どんなときも男勝りで強がりな私だから。
でもこの人の前だと、なんとなく。
「ヒール履いてみたいんだよね、私」
「ヒール?」
「そ。細い踵でカツカツ言わせちゃったりしてさ。
足元オシャレになるし、脚も長く見えるし。色んな服に似合うし」
ついついぺったんこの靴を選ぶ私には、
着合わせる服も限られてくる。
さっき雑誌で見たみたいな、可愛い服だって、本当は、
細いヒールのついたような華奢な作りの靴を合わせられたいはず。
「でも一生履かないんだろうなー…」
そう、ぼそりと漏らしたら。
「勿体ない」
……え?
「さんスタイル良いから、似合うんじゃないか?」
そんな言われ方をしたのは、
初めてで。
「苦手意識で試さないのは、勿体ないと思うけどな」
大石がそう言ったとき、先生が教室に入ってきた。
大石の声に合わせて「起立」した。
礼をして着席する直前、横を見た。
同じ高さで、目が合った。
恋をした。
スタイル良い、なんて思ったことなかったし。
ましてや似合うんじゃないか、なんて。
実際に見たわけじゃない。
慰めてくれただけかもしれない。
でも、なんて心強い。なんて嬉しい。
――もしも8cmのヒールなんて履いて
あなたを見下ろしちゃっても、それでも同じこと言えるの?なんてね。
だけど何故だろう、君の隣なら、それも許される気がするね。
物理的な意味で身長が近いってのと、
精神的な意味で目線が合った的なそういう話。
妄想:二人は付き合うことになって、
主人公ちゃんがオシャレワンピースにヒール高い靴履いてきて、
あからさま見下ろすみたいになっちゃって、
大石が一瞬「うわぁ…」という表情を見せて
「それ見なさい」って帰りたい気持ちになってたら
「やっぱり、スタイルいいな。綺麗だよ」と
サラっと言えちゃう大石であればいい。
↑続編は書かないけど、こっちがメインw
それを想像させるのが本作の狙いだから。てわけで妄想で保管。
どうせ私は150cm台前半ですよ(←)
2013/04/30