、頼む!一生のお願いだ!オレと付き合ってくれ!!」


「だから、しつこいっっ!」




ざわっと周りの視線を一斉に浴びる。
それにもいささか慣れてきた。

桃城とのこんな関係が始まったのは、1ヶ月前に遡る。











  * ダメでもともともっと推せ!*












初めは、こんなじゃなかったのよ。
放課後、人が誰もいない校舎の、それも屋上に呼ばれて。

「好きだ。付き合ってくれ」って。

でも私は桃城のこと、友達としては好きだけど、
どうしても恋愛対象には見れなくて
「ごめん」
って。
その日のそれで、終わったと思ってた。

その後は数日、特別用事がなかったのもそうだけれど
なんとなく、いつものようなバカ話を振ってこなくなったなー
まあそりゃそうか仕方がないかな、なんて思ってた。


ところが。

!このとーーりだって!考え直してくんねえか!」

「だから、無理って言ってるでしょ!」

一週間も経過すると、この関係が始まった。


もちろん、周りのやつらだって気付くし、
噂がどんどん広がって見物人まで現れる始末。
休み時間になると、様子を一目見ようと
他のクラスからやってくる人たちまでいるのだ。
気付けば名物のようになっている私たち。


こ、こんなはずは…!
そりゃ、元々仲は良かったけどさ、
まさか冗談でこんな話をするような関係になるとは…。

参った。
普通の友達で、いいのに。

……普通って、なんだ?






  **






「ねぇ、桃城の告白って本気なの?」


このような関係になってから一ヶ月というタイミングで、
親友のからようやく直接質問された。


「周りみんな噂してるよ、あの二人どういう関係だって」

「知ってる…。どういうつもりかなんて私が聞きたいよ〜」


くたっと頭を机に倒した。


「ある日突然ああなったの?」

「っていうか……あの、実は………
 一回ガチで告られたんだよね」

「マジで?じゃあ本気なんだ!」

「でも二回目以降はあの様子だから、
 どこまで本気なのかわかんないよ」


一回目は、それはそれは、緊張感のある状況だった。
呼び出しくらったのなんて初めてだし、
あんなに真剣な表情の桃城も初めて見た。
そして私の緊張も宛て外れではなくて、実際に告白されて。


「でもさー…前より仲良くなったんじゃない?」


え。
……どういうこと?

固まって声を発さない私に気付いたのか、
は説明を始めた。


「前からちょこちょこは喋ってたみたいだけどさ、
 あんなやり取りとはいえ、すごく仲良さそうに見えるけど」

「マジか」


そう言われてみれば、会話する回数は増えたかもしれない。
(あのどつき合いを会話と呼んでいいのなら…)

あと、前より素直な感情をぶつけられるようになった、かな。


例えば、「しつこい!」とか「うるさい!」とか「いい加減にして!」とか。
前はそんなこと言えなかったのに。
っていうか、桃城以外には今でも言わないよ、もちろん。


考えていると、がニヤッと笑った。


「どうすんの?」

「どうすんの、って……」


今もそうしてるみたいに、交わしていくつもりだけど…。

……あれ?
そういうことか!


これってどっちが先に折れるか、ゲームのようなものなんだ。
桃城が諦めるのが先か、
私が断り疲れてOKするのが先か。
どちらかが行動を変えないと、この状況はずっと続く。

でも、私の答えは決まってるよ。


「こんなやり方されてさ、好きになれるわけないじゃん。
 私は今みたいに断り続けるしかないよ」

「そっか」


自分で言って、すごく納得した。

こんなの、無意味だよ。
早く諦めてくれないかな……。





  **






「あ、教室に忘れ物」


部活が終わって、鞄に筆箱が入っていないことに気がついた。
確か今日は宿題があるし、持って帰らなきゃ。


「私取りに戻らなきゃ、先帰ってて」

「いいよー待ってるよ」

見たいテレビあるって言ってたじゃん。ホントにいいから!」


そういって、誰もいないしんとした放課後の校舎を、
今なら誰にも怒られないだろって、走って…。
長い廊下の先、未だに表札見ないとどれが自分のかわからない教室、
でも今日はその必要がなかった。

桃城がいた。


「(げっ!)」

「あ、じゃねーか!」


筆箱は諦めようか、と思うとどっちが早かったか
桃城は私の姿に気付いて走り寄ってきた。

めっちゃ笑顔だし。
いいやつなのは、わかるんだけどさ。


「どうした?オレに会いにきた?」

「うっさいアンタがいるなんて知らなかった!
 私は筆箱を取りに来たの!」


語尾を強めてそう言って
自分の机に向かって筆箱を掴んで、
さっさとその場を後にしようとした。

だけど。



「待てよ」


ドキッ。



いつもとは違う、少し低い声。
今は、おどけてない。それはわかった。


「なあ、お前って、オレのことどう思ってんの」

「どうって、友達以上友達未満くらい?」


それって、どの範囲だ。
自分で自分が発した言葉にツッコミ入れながら、
でも実は内心ものすごい動揺してる。

だって、なんか突然真剣になったりするから。
そう、このまえの時みたいに。



「…もう、可能性ねえのかな」



突然、寂しそうな表情。
…何よ、普段はそんな顔見せないくせに。
昼間のアンタは、いっつも、誰よりも元気で明るくて。


「戻っか、普通の友達に」

「え」


唐突にそう言われて戸惑った、けど、
「まあ、そうだね」って、返した。



「迷惑かけて、ごめんな」

「いや…」

「もう、明日からしねーから」



そう言って、桃城は教室を出て行った。
元々帰る予定だった私も、後ろを追った。


廊下に、私たちの足音だけが響く。
桃城は、私より歩くのずっと早いだろうに、
距離が離されないってことは、
私はここにいていいのかな。

とか考えてたら、話しかけてきた。


「やっぱ、考え直して付き合っちゃおうとか思ってない?」

「お、思ってないわよ!」


コイツは、ここまで来て…!
まったくもう。


「本当に、明日からは普通にしてよね」

「おーおー。心配しなくとも、明日からは普通にやるよ」


階段を下りながらそんな話。
そのまま下駄箱へ。

私は靴を履くのに手間取って、しゃがんで、
ローファーの踵を踏まないように指を入れて、
立ち上がった、ら。


「……何」


息苦しいほど近くに、桃城が立つ。

何か言いたいなら言えば、そう口にしようと思った瞬間。



「も、ももし…?!」


抱き着かれて。



どう、していいのかわからない。
声をかけるべきなのか、それとも黙っておくべきか、
とりあえず、自分の心臓がバクバク言ってる。


「明日からは、普通だから」

「……」


腕に力が篭る。


「今日、これで最後」


やっぱり、どうしたらいいかわからなくて、
私の腕は下に下ろされたままだった。


ゆっくりと、体が離された。

申し訳なさそうに、一瞬だけ目が合って、逸らされて。



「じゃな」



短く残して、桃城は走り去っていった。
追いかけるまでもなく、私は、暫くその場に立ち尽くしていた。





  **





翌朝。
そこには、ここ一ヶ月とは違う光景が。


、おはよ」

「おはよーちゃん」

「おはよー」


友達と、挨拶。
そんな和んだ空気を一瞬で壊す、アイツが、今日は来ない。



教室をぐるっと見渡す。
……居た。

本当に、やめたんだ。
なんか寂しい気がしてるような自分に気付いて、
でもこれが、普通だよね。
突然なくなったからそりゃ変な気持ちもするけども。


そんなこんなで一日が始まった。

授業中。
休み時間。
昼休み。

私と桃城が突然会話をしなくなって、半日が過ぎた。
周りは「別れたのか?」「ばっか元々付き合ってねぇよ」とか
「ついにこてんぱんにフラれたか?」とか「実は付き合いだしたか?」とか
あることないこと色々噂しているのがなんとなく聞こえる。

そりゃあ、これだけ変化すれば、思うよね。
私も外野だったら同じ反応していたと思う。


考えてみれば、席も遠いんだっけ。
私たち、いうほど接点ないよね。
あれ、私、告白される前は桃城と
どういうタイミングでどんな話してたっけ。

あれ、なんだろう。

苦しい……。


向こうは今、どれほど私のことを意識している?
突然こんなに態度変えたんだ、考えてやってる部分もあるはず。
そうだよね?今まで私が茶化されてただけとか、ないよね?

普通の友達に戻るっていうけど、これじゃあ友達でもないじゃん。

でも、あれ?そう言われてみたら、
私っていつも、桃城と話すとしたら、
大体向こうから話し掛けてきたときで。
そして、告白される前って、どれくらい喋ってたっけ?


なんだろう、この気持ち。

なんだか、胸がぎゅっとなって。

私は、昨日の下駄箱での出来事を思い出している。


昼休みが終わるまで、あと5分。


昼練が終わったらしく、「あっちー!!」とか
服をぱたぱたさせながら桃城が教室に入ってきた。

そして、私の横を素通りしようとした。

……ああもう!


意を決して、声をかけた。


「桃城!」

「ん?」


振り返った桃城は、案外普通。
こっちが拍子抜けしちゃう。

深呼吸。



「ちょっと、こっち来てよ」



そうして、屋上へ連れ出した。
周りの視線やヤジを背中に受けながら。





  **





「何?」


桃城はあっけらかんと聞いてきた。
私はそれを睨み付けてやった。
「そんな怖い顔すんなよ」とも言われたけど、
そうさせてるのは誰だと思ってんの、と思った。


「昨日さ、普通の友達に戻ろうって言ったじゃん」

「うん」

「こんなの普通じゃない」


手に、力が入る。
あれ、なんだか視界が歪む。



「友達じゃないじゃん…」



……まさか。

泣いてしまうなんて。
コイツのために。
コイツの前で。


桃城は、少し困った風に頭を掻いて。


「泣くことじゃなくね?」

「何よ!」

「いや、怒らせたいんじゃなくてさ」


顔を覗き込んできた。
バカ、泣き顔ぶさいくなだからあんまり見るな!



「オレと話せなくなるの、そんなにイヤだった?」



挑戦的な笑顔。

頭のどこかでは、コノヤロウ、って思ってたんだ、
だけど、その一方で、
今日の朝みたいな気持ちがずっと続くのは、辛いなって、
思ってしまったんだ。


「イヤ、だ」


言葉が、涙と一緒に零れる。



「どうする?」



曲者顔で、桃城が覗き込んできた。

あれ、私、術中にはまってる?
自覚があっても、抜け出せないんじゃしょうがない。

鼻水すすりながらそんなこと考えた。


でも、それが“惚れた弱み”ってやつなのかもしれない。


「さあ授業始まるぞ、戻ろうぜっ」

「そうだね」



屋上を出て、廊下を歩いた。
横よりもほんの少し後ろ、斜め辺りをキープして。


歩きながら、考える。

考えてみれば、もし一回目に告白されてフッたとして、
桃城がおとなしくしてればその翌日は今朝のようになってたんじゃないかな。
でもそしたら私は「あんなことがあったんだから仕方ない」って、
桃城とは、友達未満のような関係になってしまってたかもしれなくて。


常識外れな方法だけど、
気まずい状態を作らず話しかけてくれてたのかな。
この一ヶ月は確かにその前より多く話せてた気がするし、
今の私は、前よりもずっと桃城に心を開いてるし。
そして何より……今のような状況になっているわけで。

まったくもう、ホントこの人は。


少し歩く速度速めて、横につけた。
ちょっと鼻声な気もしたけど、話し掛けた。


「結局、アンタの思惑通りなのかな、これ」

「どうだろな」


ニッと歯を剥き出しに笑われて、
コイツには敵わないのかな、なんて思った。

悔しいから、絶対口になんて出してやらないけど!


ああ、また私たちの周りには見物人や噂が絶えないのかな。
それもいっそ、楽しむっきゃないのかな。
コイツの隣にいる限りには。























*あとがき*

冒頭のが舞い降りたので。
本当は大石でやりたかったけど、どう考えてもキャラじゃないしw
それともボーリング後の大石だったらありえるのか…?(笑)

桃ちゃんは、どこまで計算してたんでしょうねw
いうて青学一の曲者ですからなあwww

せっかくなので桃ちゃんBDに合わせましたw
お誕生日おめでとう!内容関係なくてごめん!(笑)


2012/07/23