* These are all FUJIxINU qualities! *












「……ここは?」


ほのかに香る消毒液の匂いが鼻につき、
乾はゆっくりと目を開けた。


「あ、乾先輩!良かったっス」

「桃城…に、海堂」


何故だか、意識がはっきりしない。
前後関係をうまく思い出せず、乾は頭に手を当てた。

確か自分は、部活の最中で……
そうか、頭を強く打ったのか…そう言われると額が痛むような。
どうやら、意識でも失っていたのだろうか。

そこまで思い出し、自分が保健室にいることを認識した。
そして、横に座っている二人を一瞥した。


「お前らがここまで連れてきてくれたのか…悪かったな」

「いえ…」

「それより先輩、頭大丈夫っスか!?」


頭大丈夫、なのはお前の方だ桃城。
コイツはもう少し国語の勉強をするべきだな…失礼なやつだ。

そう思ってクスッと笑うと、
「外傷は大したことはない」
と答えた。


ただ…
とまで言いかけて、
「なら早く帰らないと下校時刻ヤバイっス!」
と桃城が言うものだから、話題は切り出さないことにした。


「これ、先輩の荷物ッス」

「ああ悪いな、海堂」


立ち上がって荷物を受け取り、久しぶりにジャージ姿のままの帰宅が決定した。


廊下を歩きながら、先ほど喉まで出かかった言葉を脳内で復唱する。


外傷は大したことはない。
ただ、何か重要なことを忘れているような…。

記憶喪失、という大袈裟なものではないにしろ、
衝撃で事故の直前の記憶が曖昧になっている気がした。

順に遡って思い出すことにした。



そもそも何故、記憶を失ったんだか。
頭…そう、先ほどからほのかに頭が痛い。

何か、固いものを打ち付けられて…!



「どうしたんスか、急に頭抱えて」

「いや……つい咄嗟に…」



まさか、脳内に悪魔の顔が浮かんでいたなど。
悪魔といっても、なんだか見覚えがある黒い笑顔……



「あ!」

「「え?」」

「不二、不二はどうした!?」



ぶんぶんと首を振り回しながら辺りを見渡した。
そのとき不二のことが気になったのは、
不二こそが頭突きをしてきた犯人だと思い出したのと、
何故だか、不二にすぐそばにいてほしいような…そんな衝動に駆られたからだ。



乾の首振りの激しさにドン引きしたり気付かなかったりしながら、
海堂と桃城はそれぞれ答えた。



「…不二先輩なら部長と一緒に帰ったんじゃないスか」

「珍しかったよな、あの二人が居残りしてまでグラウンド走ってるなんて」


ってか部長がグラウンド走ってる時点で笑えたよな!
なんて桃城はのんきなことを言っていた。

不二と、手塚。
不二、手塚。
………。



「なるほど、不二塚か」

「「はい?」」

「いや、こっちの話」


乾は中指で眼鏡を上げた。


オウフwww
拙者『不二塚』などとつい専門用語がwwwいや失敬失敬www
フォカヌポウwww拙者これではまるで腐男子みたいwww
拙者は腐男子ではござらんのでwwwコポォ



「乾先輩…?」

「あ、いやいやすまない」



無意識にニヤけている自分に気付き、
乾は冷や汗を掻きながら眼鏡を再び中指で上げた。



「グラウンドを走っている手塚を想像したらつい、な」

「ですよねー!オレもそのときは先輩運ぶのに必死で気付かなかったけど、
 今になって思い出したらかなり笑えるっていうか」



そこまで言うと、桃城は実際に声に出して笑い出した。

なんだろう、そんな桃城を見、
乾は不思議な感情に駆られていた。
それは先ほど不二の(悪魔のような)笑顔を思い出したときに似ていて、
何故だか、桃城を視界から離せない自分に気付いた。

しかし当の桃城は乾を見返すことはなく、
その視線の先にはいつも…。


……この感情は、なんなのか。

海堂を見つめる桃城、
その桃城を見返す海堂。

その様子を見ながら、乾はえもいわれぬ感情に陥っていた。



「あ、乾先輩の靴っス」



とりあえず自分の下駄箱に入れておいたらしく、
桃城は乾の靴を地面においた。
(乾はここまで廊下を靴下で歩いてきていた。)


靴を履きながら考えたが、何かが引っかかる。
そんなに事故の衝撃が大きいのか。



と、そのとき。



「乾!」

「不二」

「あ、不二先輩!」



なんと、そこには不二の姿があった。



「不二、どうして…」

「手塚と二人でグラウンド走り終わって、
 そのあと部室で……着替えてたら遅くなっちゃって」

「そうか」



不二は乾の腕をがしっと掴むと、
胸元に顔を寄せると謝ってくるのであった。



「ごめんね、確かに乾キモ☆とは思ったしってか言ったけど
 意識を失っちゃうほどショック受けるとは思わなくて」

「いや、俺は…」



そんな理由だったっけか?
なんだか、頭突きをされたような…
でも、不二が言うからそうなのかな?

…記憶が曖昧で自信ががたついている乾であった。



「とりあえず、帰ろう。ほら、君たちも」

「はい」

「すまないな、みんな」



そして、正門まで来て、それぞれの岐路に着くことになった。
桃城は自転車に乗り、海堂はその横を走って帰っていくようだった。

その後ろを見守り、不二がにこにこと笑った。



「偉いね、乾。キューピッドじゃん」

「ん?キューピッド?」

「普段桃は越前くんと帰るでしょ、
 今日の事件があったから珍しく二人は一緒に帰れるってことでしょ」



そういう意味では僕の方がキューピッドかなー☆
なんてきゃるんとしている不二であったが、
乾は何かが引っかかっていた。



キューピッド…きゅーぴっど、
英語風に発音するとキューピッ…。



「(ぬぬぬぬぬぬぬ…?)」

「僕としては君が海堂くんを好きでいてくれてた方が
 面白くはあったんだけどねー」



ん?

俺が、海堂を?



「桃と海堂も安定かな!でさ乾乾、
 表だからだいぶはしょるけどさ僕さっき部室で…」



桃と海堂?

桃と、海堂。
桃、海堂。
………。




「桃海ってことかーーーっ!!!」


「乾!?」




不二が目を開けるより早く、
乾はチャリとマラソンで並走している桃と海堂の間を割って入っ…
たと思ったらスピードを付けすぎて遥かに通り過ぎてしまったので、
後ろ向きのまま猛速ダッシュで戻ってきた。
そして、二人の目の前でピタッと止まると、
ぐるっと振り返った。



「おい桃城!!」

「は、はい!」

「お前……強気でいてしっかりものでたまーにへたれ(はぁと)で
 なんかお尻も肉感的だしフェロモン(体臭?)撒き散らしてるし…
 くっそぉぉおあああああああああああああああ!!!1」





 WW
 ・ ・
  ◇



↑今の桃城の心境を図解。





「だからって…だからってなあ、
 強気なようで実は臆病で誰よりも心優しくて
 首とか鎖骨とかセクシー(ハァハァ)で何より生足が艶めかしい
 海堂と比べたら足元どころか地面めり込んでも比較にすらならn」

「ごめんね二人ともー(にっこり)」




その場に現れた不二は、乾の背中側に回ると、
頭に手を添え(訳:頭蓋骨をみしみしと音がするレベルで握り潰し)、
そのままペコンとおじぎをさせ、その場を退場させることにした。



「まだ乾ちょっとおかしいみたい、僕が家まで連れて帰るから心配しないで」

「は…はい。お大事に」

「…お疲れ様デス」



そうしてまた二人は並走していった。
それを見送ると、不二はふうと息をついて手を離した。

……っていうか、なんていうの、こう、
頭をぶんって投げ払う感じで、ぶんって。(…)



「何やってんの?バカなの?死ぬの?」

「ずびばぜん…」

「困るのは君なんだよ、あーあ、二人が変に思ってないといいけど…」



そう、解説を挟んでおくと、
脳みそぶっ飛びまくっている本シリーズの乾だが、
意外にも周りにはその変人っぷりはバレていないのであった。
(不二と乾が合わさったときのみとち狂ってくるわけで。それが不二乾クオリティ。)


しかし……心配を他所に

「おい…さっき乾先輩が言ってたこと聞き取れたか」

「いや……早口だった上に鼻息荒くてわかんなかった…」

↑こんなでした。
(鼻息ももふもふさせとくもんですな。)
(こうして、また変人だということを気付かれずに済んだ乾である。)
(いや、変な先輩だな…とは思われている。だがその程度ということだ。)




「…だが不二、俺はやっと一番大事なことを思い出せた気がする」




鼻から強烈に息を吸い込むと、
乾は世間に響き渡るような声で叫んだ。




「俺のマイキューティーはニーは、キャオルだあああーーーーー!!!」

「乾!?今度こそ本当に正気に戻ったんだね!」




どこが正気だよ、という通行人の目線を受けながら、
不二と乾はその場で抱き合うのだった。
夕日は完全に沈み、もう一番星が出ている、そんな初夏のある日のことだった。




同じ空の下、その通りには人気がないのをいいことに、
片手離しをした桃城が走る海堂の手を取り、
「やめろ」なんて振り払いながらも、
「痛ぇな」なんて文句を言いながらも、
どこか楽しそうな二人が仲良く走っている

なーんてことも忘れて、抱き合ったままの体制で
意識を失ってる間に部室で何が起きていたかを不二に聞かされている乾であった。





  愛爆発ですね?

  イエス、不二乾クオリティ!






















コスモスwwwwwwwww(カオス通りこした的な意味で)
『This is the FUJIxINU quality!』の続編。
まとめて読むと良いかなと思います。
ていうか前作がまとめきれなくて諦めたんだけどさww

頭を打った衝撃でまともになってたけど、
頑張って思い出そうとして一瞬戻ったり、
不二の登場をきっかけに一気に狂ってく乾、を目指したw

まさかこれが桃海真ん中BD祝いだなんて。(笑)
(最後にちょっとだけサービスw)


2012/06/16