* 髪の毛切らしてshort of hair *
「うわ、髪短っ」
「まんま男じゃねーか」
「うっせー!!」
おお怖、と男子二人は遠ざかっていった。
ったく…。
人が、傷心の身なのも知らずに。
じわ、と涙が浮かんだのをまばたきでごまかした。
らしくない、と言われてしまうかもしれない。
こんなに男勝りで、恋とは無縁なような私が。
でも本気だったんだ。
寝ても覚めてもその人のことばっか考えてた。
今日は誰と何を喋ってる、そんなことばかり気になって。
どうしたら少しでも理想に近づけるか、噂を聞き付けて、髪を伸ばして――。
「随分さっぱりしたな」
かけられた声にはっとして顔を上げた。
大石だった。
「なんていうの、イメチェン?みたいな?」
焦って笑い返してそう言った。
なのにわざわざ本当のことを言い直したくなってしまったのは、
大石の「ふーん」という言い方が、優しいようで挑発的に聞こえたことと、
少し哀れみを帯びた笑顔が柔らかかったから。
大石はなんだか、相談したくなるような、そんな空気を持ってる。
「…実はね、失恋しちゃったんだ」
「あ、ごめん……そうなのか…」
「バカだよね、なんか、その人髪が長い子が好きみたいな噂、聞いて…」
今ならわかる。
別に髪が長ければいいわけじゃなくて、
ロングヘアが似合うような、女の子らしい子が好きなんだろな…。
と。
「俺は、いいと思うけどな」
え?
顔を向けると、大石ははにかんだ風に。
「は、その髪型の方が似合ってるよ」
その笑顔が、優しくって。
そうか、私はこのままでも、いいんだ。
こんな私でもいいと言ってくれる人が、いるんだ。
ありのままの私を好きになってくれる、そんな人と出逢えたら、いいな…。
「やっと笑ってくれたな」
「え?」
「少し表情が暗かったみたいだから」
そんなことがあったんじゃ仕方がないよな、とフォローしてくれて、
笑顔をくれたことに、感謝した。
「いつまでも凹んでる私と思うなよ」
「言うじゃないか」
笑い合ってたら、少し涼しくなった首もとのお陰で
気持ちも軽くなったような気がした。
髪を切るのは、失恋の証。
切ったお陰で、新しい恋の兆し…?
髪を切った勢いで執筆。
大石がこの時点で主人公を果たして好きかはおいといて、
いつかはくっつくと思いますねー。
少し表情が暗い、という大石の発言は、
決してその日の朝だけのことをいいたかったわけじゃないんだと思います。
いくら好きだからって、自分を偽らなきゃいけないような人とはうまくいかないよ、てこと。
2012/04/16