* バカと方便は使いよう *












深夜に、着信。

誰だろう……シュウ?



「なあ、落ち着いて聞いてくれ」

「な、に…?」



いつもと違う声色のシュウ。
何か、大事な話だっていうのは即座に察知した。


すぅ、と息を吸うと。



「俺、医者を目指してるって話、したろ?」

「うん……」



なんだ、ろう。


いやな予感がするような。




「実は地方の医大に受かって、引っ越したんだ」




―――――――えっ……。



「合格が決まったのつい最近で、引っ越しや手続きでドタバタしてて
 連絡遅くなっちゃったんだ…ごめん」




つまり?

シュウは?


私が知ってるあの場所にいないの?





が東京に戻ってきても、一緒にいられない…ごめん」




何さシュウ、水臭いな。



日本とドイツ、こんなに離れてて、
今さら国内のどこからどこだってなんだっていうの。


それよりも、合格おめでとう。


って。

笑って言わなきゃ。


笑っ、て……。



「……っく」

「え、!?」

「う……くっ…ぇ…」

「もしかして、泣いてるのか!?」

「ふぇぇーーん!!」



涙が止まらない。
止めようと思っても溢れてくる。


泣いたって、何も変わらないのに。

困らせるだけなのに。


だけど、受け止めるには辛すぎるよ?

たとえウソでも、良かったねなんて笑顔でいえる自信ないよ?



「ごめん…ごめん!聞いてくれ!」

「イヤだァ!言い訳なんかいらない!慰められたいわけじゃないっ…!!」



違う。違う違う。
こんな言葉じゃなくて、もっと、祝福とか…
心の底から真実で言える私でいたいのに…。


すると、シュウは。





「違うんだ!本当にごめん!……エイプリルフールなんだ!」





……は?




「今、なんて…」

「だから…エイプリルフールだったんだ。いつかの仕返しにと思って…」


……つまり。
引っ越しは、嘘?
大学受かったのは?え?
どこまでが本当でどこからが嘘???



「家から電車で通える、都内の大学に受かったんだ」

「それは、本当なの…?」

「ああ」



おめでとう、オメデトウ。

これは手放しに喜んでいいんだよね?
……素直に喜べんやないか。シュウのアホ。
もう、驚いちゃってよくわからないよ。



「疑心暗鬼になりそう…」

「本当にごめんって」



でも、そっか。

日本帰ったら、会えるんだ。
また、あの大好きな場所で、会えるんだ。


あとは私が帰るだけだ。



「頑張ったんだよね、おめでとう!」

「…ありがとう」



ああ、やっと笑えた。
シュウの声も、少し嬉しそうかな?



「実は、これから入学式なんだ」

「そっか!頑張って!」



入学式を頑張る、ってのも変かな?
でも、やっぱり新生活、気合入れてってほしいじゃん?



「それじゃあそろそろ出かけるから、電話切るな」

「うん、いってらっしゃい」

「ああ、そっちはおやすみ」



悲しい嘘と、嬉しい真実。

逆じゃないなんて、どれだけ幸せなことだか。

嬉しいな。
嬉しいな。


一刻も、早くホントウの君に会いに行きたいよ。


来年の今頃は、間違いなくそこにいられるって、信じていてもいんだよね?
嘘から出た真になんてならないように、
エイプリルフールもほどほどにね。






















最後フラグっぽくなったか?いやいやw
帰国後の大稲は幸せでいさせたってくださいw
しかし『想像に辿り着く頃には』といい、
また離れ離れになりかねない不安みたいのを心の底に抱えてるのが
大稲を書く上で外せない深層心理なのかもしれないねw

主人公が帰国(卒業)間近、大石は現役で医学部生(くっ…)て設定で。
私が帰国してから、大稲のドイツ滞在時ネタを書くのは初めてかな。

エイプリルフールネタは、“好き嫌い”系ばっかで
それ以外の嘘をついてる作品がなかったことに気付いたので。


2012/04/01