* 記念日 -10th memorial edition- *












4月30日。
今日は私の好きな人、大石君の誕生日です。

そして私、には、中学3年になっての大決意があります。
それは…

今日、大石君に告白します!!


実は、プレゼントも用意してあるんだ。
手作りクッキーだけど、もらってくれるかなぁ。
あ〜、今からキンチョーしちゃうよぉ!
どーしよーどーしよーどーしよー…。


ー、まだ時間平気なのー?」

「え?あ、大変!もうこんな時間!」


親の声ではっとして時計を見た。
いつもなら出発してるはずの時間を5分も過ぎてた。

タイヘンタイヘン!
あ、プレゼントも忘れずにっと。


「行って来まーす!」


いつもと同じはずの朝。
でも、今日は何だか何もかもが嬉しく感じちゃう。

少し上機嫌に、軽い足取りで学校へと向かった。





『キーンコーンカーンコーン』

「ふう。ギリギリセーフ」


チャイムが鳴ってる間に教室に駆け込めた。
一息ついて自分の席に向かう。


「はよっ、

「あっ、おはよーちゃん」


この子は今一番の仲良しのちゃん。
さっぱりしてて、すごくいい子。
大石君の誕生日を聞いてくれたのもちゃんだったりする。
ちゃんには、色々とお世話になってるんだよね。


「今日は珍しく来るの遅いじゃん」

「えへへ。色々と考えてたら来るの遅くなっちゃって」


席について荷物を机に移し変える私に、ちゃんは声をかけてきた。
そして 色々と? と私の言葉に反応して、
ハハーンといたずらな笑みを向けてきた。


「あ〜そっか、今日だもんね!あんたの好きな大石のたんじょ…むぐぐ」

「シーッ!声が大きいよちゃん!」


慌ててちゃんの口を塞ぐ私。
あたりをキョロキョロと見渡したけど、
幸い、周りのみんなも自分たちの話に夢中で
私たちの会話には誰も気を留めてなかったみたい
とりあえず一安心して手を離した。


「ゲホッ!あー苦しかった…」

「だってちゃん声が大きいから!」

「ゴメンゴメン、つい口からポロっと」

「もう!」


誰にも聞かれてなかったから良かったけどさ!
だって人に知られちゃったら、恥ずかしすぎるよぅ…。

ぷくっとむくれる私。
そんな私に、他の人に聞こえないように
ちゃんは顔を寄せて問いかけてきた。


「でもなんであんたも大石なのさ?
 手塚部長とかのほうがカッコ良くない?」


あたしファンなんだ〜とか言ってる。
確かに手塚君もカッコイイとは思うけど…。

てか、あれ?ちゃんって?


「…ちゃん菊丸君のこと好きなんじゃないの?」

「バカッ!英二はただの友達だよ」


…怒られちゃった。
そうなんだ。よく話題に上がるからてっきりそうなのかと思ってた。

そっか、お友達なんだね。
ちゃんはすごいなー、男の子と友達なんて。
私なんか、普通に喋るだけで緊張しちゃうのに。
男の人が嫌いってわけでもないんだけど、あがっちゃって…。

考えたら、ニヤっと笑ったちゃんは私に耳打ちしてきた。


「あいつ大石にゾッコンだよ〜。とられちゃうかもよ?」

「とられる!?」


ちょっと待ってよ!

あいつ。
って、つまり菊丸君のことだよね。

んー……
………えっ?!

えっ、あ、そっかそっか!
私からかわれたのか!


「やめてよ〜そういうこというの」

「あはは、冗談冗談」

「イジワル…」


ちゃんは私が困る様子を楽しんでるようだった。
もう、私は真剣なのに…。


「あんたホントにおおい……“あの人”のコト好きなんだね」

「うん…」


本当のことだから否定しなかった。
もう、この気持ちは隠せない。



私が始めて大石君を見たのは、2年の2学期。
青学は人も多いしクラスも多い。
同じクラスとか委員会とか部活に入らなきゃ、
顔すら知らない人も結構いる。

同じクラスになるのなんて3年間でもほんの一部だし、
部活が一緒の人なんてもっと少ないくらい。
やっぱり、係わり合いになる人は限られてるわけ。

顔も名前も知らない人なんて同学年にいくらだっている。
私と大石君は、そういう関係だった。


ところが2年のとき。
何故だか突然学級委員をやる事になった。
学級委員なんて初めてで、どうしたらいいのか全然わかんなくて。

どぎまぎしながら初めて参加した学級委員会。
そこで、大石君を見た。

学級委員なんて何度もやったことあるって感じで、
何事もてきぱきと進めていく。
そのまま学年代表にも選ばれてて、立派だなーって。

それから、なんとな〜く気になってて。


初めての学級委員会から数日後ぐらいに
ちゃんに誘われて男子テニス部を見に行ったんだ。
一目惚れ…ってことにはならないけど、ホントそんな感じで。

鋭い眼差しでボールを追うその姿を見た瞬間、心臓がドキッてした。

本当に、他の誰よりもカッコよく見えた。
というか、私の目には大石君しか映らなかった。



「ホラホラ、席着け!」

「あ、先生来ちった。そんじゃ」

「うん。また後でね」


ちゃんはぱたぱたと自分の席に戻っていった。
そしてホームルームが始まった。

ふぅ、と溜息をついて、鞄の中の包みのことを考えた。

プレゼント…いつ渡そう。
体育館裏とか屋上とかに呼び出すわけ?
そ、そんな大それたこと出来ない!

かといって靴箱とか机の中もな〜…入れるとき人に見られたら嫌だし。
う〜ん。どうしよー……。


「…っ!」

「は、ハイ!」


声をかけられて咄嗟に返事をすると、
目の前には呆れた顔のちゃんがいた。


「何ボケっとしてんの。とっくにホームルーム終わったよ」

「あ、うん」


一気に現実に引き戻された。けど、
……どうしましょ。






数学の授業中、私とちゃんは手紙交換をした。


『実は今日プレゼント持ってきたんだけど、いつ渡せばいいかな?』

『放課後に屋上とかじゃない?』

『そんなところに呼び出すなんて出来ないよ!』

『何ならそういうシチュエーション作りしてあげようか?
 英二も協力してもらって。』

『うん、ありがとう。…でも、これは自分の事だからやっぱ自分で何とかするよ。』

『そう?そんじゃ、頑張ってね。応援してるからさ。』


要約するとこんな感じ。
結局何も解決していない…。

頑張るしかない、か。
人の助けは借りたくなかったんだよなぁ。
だからといって自分では勇気が足りない気もするし。
うーんどうしようかなぁ…。

やっぱり協力してもらえばよかったかな…。
とも思ったけどうまくいかなかったときその人にも悪い気がしちゃうし。
できれば自分でなんとかしたいんだよね。

…よし!
いつか一人になるタイミングがあるだろうから、ぱっと渡して逃げよう!

内気な私には、それが精一杯。




――昼休み。


「3年2組ーっと。」


大石君のクラスは、10組のうちのクラスからは結構離れている。
何個もの教室の前を越して、やっと辿りついた。


「…アレ?」


教室の中を見回したけど大石君の姿は見当たらない。


「う〜ん…図書室とか?」


…いません。


「え〜?委員会の仕事でもあるのかなぁ?」


学級委員ってどこで何するっけ。
先生と話してるとかかなー、あ、職員室いそう!


と思って歩き始めた、けど。


……あ。



「そうだ、テニス部の昼練だ…」



大会が近いのか、最近テニス部は昼休みにも練習をしていることがあった。
練習中じゃ渡せないよね…。


よし。決めた。
放課後にしよう。
掃除が終わって部活に向かう最中が狙い目かな。よし!



――放課後。


今日は私は掃除はないし、後は大石君がここを通るのを待つだけ…。

あ、友達と一緒だったらどうしよう…いや2組にはテニス部の人いないはずだし、
でも隣の1組には例の部長の手塚君がいたような…。
でもでもわかんないよとりあえずここで待ち伏せし…


『ピンポンパンポーン♪ 連絡します。体育祭委員の生徒は、
 至急多目的室へ集まってください。 繰り返します、体育祭委員会の生徒は…』

「えっ!?うそ〜!!」


そう。実は私体育祭委員なの。
本当はまた学級委員をやりたかったんだけど(大石君はまたやるだろうから)、
他にも立候補者がいたから譲っちゃって、
学級委員と合同の仕事もある体育祭委員に入る事に決めたの。


「こんなときにあるなんて〜」


学級委員は放送で呼ばれてないから、今回は来ないみたいだし。
でも、仕方ないよね。う〜…早く終わってくれますよ〜に!



――願いは通じなかった。

緊急招集だから一瞬で終わるだろうと思ってたのに、
話し合いが予想外の方向に進んでかなり長引いてしまった。
窓からはもう部活が終わって帰っていく生徒も見える。
せめて、テニス部が終わる前に…!

…ん?あれは、テニス部の人じゃない?あ、たくさん帰ってくよ!
大変、もう部活終わっちゃったみたい。
大石君帰っちゃうよ〜。
早く〜早く〜!!


「それでは、これにて臨時の体育祭実行委員会を終わります。――礼」

「「ありがとうございましたー」」


言いながら、私の体は半分動き出していた。
みんながガタガタと動き始める頃には既に廊下を駆け出していた。


あ〜んもう!こんな日に限って緊急招集があるなんて!

私は、校舎の中を駆け抜け、急いで靴を履き替えて
走りにくいローファーで出来る限り速く走った。でも…。


「誰もいないよね…」


思わず声に出して呟いてしまった。


もう日は半分沈みかけて、空はオレンジ色に染まってる。
ネットやボールも片付けられていて、どこにも見当たらない。
テニスコートの中もガランとしていて、当然人なんてどこにも…。


『ガチャッ』

「!?」


不審な物音に振り向くと、部室の前に一つの人影。
こっちに背中を向けて、顔は見えないけれど。


コート内と部室内の最終チェックのために遅くなっていた人。

点検を終えて、部室に鍵をかけていた人。


―――大石君だった。


「おおいし、く…?」

「誰だい?」


大石君の顔を見たら、驚きと安心と嬉しさと緊張と、
全てが混じって押し寄せてきて、
さっきまで堪えていたものが出てきてしまった。


「おおい…っ…うぅ〜」

「お、おい。どうしたんだ?」

「あ、あの…ヒック…ふ…ぅっ」

「…落ち着いていってごらん」


そういうと、大石君は150cmちょっとしかない
私の身長に合わせて屈んでくれた。

まるで幼い子と話すときのような。
子ども扱いされてる?
でも、やっぱり…優しいなぁ。


「あ、の…っコレ…」


ポケットから出した、小さな包み。
昨日の夜、3回失敗してやっと出来た完成作。


「…くれるのかい?」

「〜〜〜」


私は首を立てに大きく2回振った。
とても声なんて出せる状態じゃなかったから。


「…ありがとう」


その言葉があまりに、柔らかくて。
自分の顔がすごい状態だろうのも忘れて、目を見開いた。

このとき、今日始めて大石君の顔を身近で見た気がした。
といっても、涙で霞んじゃって表情まではよく見えなかったけど、
でも、いつものあの優しい笑顔だった気がした。
やっぱり、すき…。

…なんて、和んでる場合じゃない!
今、ここではっきりと言わないと!


「大石君!」

「ん?」

「えとっ、ヒック…あの、おたんじょっック…ぅび、おめで…う〜」


だ、だめだぁ。
声が詰まっちゃって上手く喋れないよ〜!

だけど大石君は聞き取ってくれたみたいで、笑顔を見せてくれた。


「誕生日、知っててくれたんだな。ありがとう」

「そえで、…ぅぐっ。あぁあのねっ私…ヒック ずっと…ふぅ〜
 おおいしくんの…コトっ!…ぅっく。…うぐぅ〜〜あぁ〜ん」


…ヤバイ。
ホント喋れないよ、胸が一杯で。


一言“スキ”って言っちゃえば終わりなのに。

そのたった2文字が出てこない。


「うぇ〜〜〜〜」

「…ありがとう」


そういうと、大石君は私の頭にポンと手を乗せて、
ハンカチを渡してくれた。
…やさしい。

私は、首を縦にブンブン振るしかできなかった。


「えっと、今日一緒に帰ろうか、さん」

「!」


その瞬間、本当に本っ当に幸せで頭おかしくなりそうだった。
まさか一緒に帰ってくれるだなんて…ってあれ?
私、今日大石君に名乗ったっけ…?




家につく頃、私はようやく落ち着いてきていた。
私がしゃくり上げるばかりで、ほとんど会話はなかったけれど
大石君は、そのまま私の家の前まで送ってくれた。

ここ、と玄関を指差すと
大石君は、そっか、と柔らかく笑って足を止めた。

申し訳なさもあって、頭を深々と下げた。


「わざわざありがとうございました」

「いや、こちらこそプレゼントありがとう」


…ハイ。

えっと。大石君はもう用事済んだし帰るよね?
二人きり、だし。
今、言っちゃおうかな?

そうよ!
今日しかないんだから、言うしか…!


「…実はさ」

「え?」


口を開きかけた私はきっと、とてもマヌケな顔をしてた。
まさか、大石君の口からそんな言葉が出てくるなんて。



「オレ、前からさんのこと――…」



…今日は、好きな人の誕生日の他にもう1つ、

とっても大事な記念日になりそうです―――。






















10年前の4月30日、このサイトが仮オープンした日、
唯一存在していた作品がこれでした。
物凄く稚拙だけれど、大石愛をビンビンに感じたので、なんとか
読める作品(笑)にしてあげたいなと思ってこのたびリメイク。

なんでオリジナルは突然下の名前で呼ばれてたんだw趣味か?w
意味がわからないので本作では苗字(笑)


2012/03/23