* 初めての恋の風 *

  〜桃色に吹かれて〜













「ねね、パパの“はつこい”ってどんな?」



それは、4歳になる娘にある日聞かれたことから。




「どうしたんだ突然」

「あのね、ちゃんね、ようちえんにスキなひといるの!」



……なんといきなりのカミングアウト。

こんなに小さくて可愛いも、いつか立派な大人になって、結婚して……
いけない目頭が熱くなってきた。



「ママにそうゆったらね、ママがね、それはちゃんの“はつこい”ねって!」

「そうか」

「でさ、パパは?はつこいはー?」


……こりゃ大変。



「…ママは何て言ってた?」

「ママはようちえんのねんちょーさんだって」

「…そうか」



…ふぅ。



そうだな、話してみようか。



「誰にも言わないな?」

「ゆわない!」

「ママにもだぞ?」

「うん!!」


“も”じゃなくて“は”だろ、
なんて自分で心の中で訂正を入れながら。


「あれはパパが…そうだな、中学生のとき」

「えぇーチュウガクセー!?おとなじゃん!」

「そう思うか?」


また髪を撫でる。
どうしてこんなにも、いとおしいのだろう。


「コドモだよ、中学生なんて」

「えーそうなんだー」

「今よりずっと、色々なことを感じてた気もするけどな」


はてなマークが見えた。
おっと、こういう議題は不要だったかな。



「あたたかい春の日だったよ」






  **






「おおいしぃー!」


ドガッ。


背中に飛び蹴り。
こんなことするのは…


!」

「あはっ、正解」


振り返りながらその名を呼ぶと、
舌をぺろっと出して笑ってみせた。

どこか憎めない、その笑顔。


いてて、と蹴られた部分を撫でていると
ずいと目の前に指を二本突き出された。



「今年も同じクラスだって、よろしく」



…マジか。

ピースサインを見ながら軽く目眩がした。


その子は、
2年生のときに同じクラスで、
女子の中では比較的多く喋る方だった。


嫌い、ではない。
でもどちらかというと苦手なタイプだった。
英二ともまた違う天真爛漫さで、
自分と生き方に対する考え方が違うように感じるからだろうか、
掴めない、という感じがして一緒にいると落ち着かない。



「仕方ないから仲良くしてあげるね」

「こらこら」



嫌いなわけでは、ないんだよなぁ。
背中をばしばし叩かれながら自分の心情を確認していた。




他の女子よりは話す。
だけど少し苦手。
でも悪い子ではないのはわかる。

そんな認識だった。




その放課後。
学級委員に任命された俺は、妙な責任感…というか、
どうも教室のことが気になってしまい、部活終了後に様子を見に戻った。
警備員さんもいるしお節介なのだろうけれど…。

もう誰もいないであろう教室の、
電気や戸締りを確認して帰るつもりだった。が、
そこには予想外なことに、人影が。



「こらいつまで残ってるんだ」

「わっ、学級委員様だ」



きゃっきゃっ、と女の子二人は囃し立てる。
一人は、まだ名前を覚えてない子。
もう一人は、だった。


「もう下校時刻過ぎてるだろ」

「大石だって残ってんじゃん」

「俺は部活だよ」


そんなやり取りをとしている間、
もう一人の子は窓の外に目をやると声を上げた。


「あれ、いつの間にかサッカー部終わってる!」

「ありゃ、急げ」

「ありがとねー付き合ってくれて」


そういうと、その子はパタパタと荷物をまとめて出ていった。

は…動かない。


は帰らないのか」

「んー?帰るよぉ〜」


荷物をゆっくりと片しながらそういう。
俺は窓の鍵などを確認して回る。


「一人で帰るのか?」

「うん」


答えながら、窓を開けて身を少し乗り出す。
こら、せっかく人が戸締まり確認したのに…


「危ないだろ、女の子一人でこんな時間まで」

「大丈夫だよぉ」



その時。




風が、一筋。


めくれた前髪から笑顔が覗く。






「日が延びたねぇ」






あまりに、柔らかく笑うものだから。



時が止まったように思えた。





桜の木が、橙に光る。

風に吹かれて、花びらの波が舞い起きる。




その背景の中で、映える、



君しか視界に入らない。






カラカラと窓が閉まる音でハッと目が覚めた。

今、何を……。




「帰る?」

「あ、ああ」




…胸が。



「(おかしいな…)」



苦しい、なんて。
辛いわけでもないのに何故。

手を当てる。
ドキドキと響いているのが、胸なのか手なのか耳なのか頭なのかわからない。



「行こーよ」



教室を出て振り返るその姿を見て、
慌てて後を追った。
足が地につかないような不思議な感覚がした。


せっかく確認に来たのに、が一度開けた窓の鍵は
果たして閉められたのか否か、そんなことも忘れて岐路についた。



あの日に感じた風を、俺は忘れることはないだろう。






  **






「…て感じかな」

「ふーん」


なんだか気恥ずかしい。
実の娘にこんな話をするなんて。

久しぶりに思い出したな、こんなこと。
すっかり忘れていた。
ああなんだろう、気持ちがよみがえってくるようだ。


なんて考えていたら、不思議そうな顔で。



「じゃあさ、そのってひとはどうなったの?」


「 」














「…ははっ」

「えっ!なんでわらうのー?!」

「そうだよな、わからないよな」


ゆっくりと、髪を撫でる。



、お母さんのお名前は?」

「大石





「…だよな」

「ウン」



一人で笑っていると、
は「ヘンなパパ」なんて言いながら少し拗ねた。


「今日の話、ママには内緒だからな」

「なんで」

「…パパがさんって人のこと好きだったって知ったらママ怒るかもだろ」

「そっか」


納得したその様子を見て、心の中で笑ってしまった。
いつか、気付く日が来るだろうか。
その頃には忘れてしまっているだろうか。


「約束だぞ」

「ハーイ」


ニッと笑って頭をがしがしと撫でていると、
後ろから軽く小突かれた。


「ちょっとパパ、に変なこと入れ知恵しないでよ」

「変なことじゃないぞ、なー?」

「ねー!」


と顔を見合わせて笑っていると、
不機嫌そうに頬を膨らまして聞いてきた。


「じゃあ何の話さ」

「ん?…ちょっとした昔話だよ」

「あっそ」


むすっとしたその顔を見ていても、何故だろう。

胸の奥が温かい。
この感情は、昔を思い出したからだろうか。


、妹か弟か欲しいか?」

「うん!いもおと!!!」

「そうか」


頭をポンポンと軽く叩いて、
横に居るその人を、見た。



「だってさ、ママ」

「バカ!」



思い切り膝蹴りされた。


いてて、と当たった部分を撫でながら、

相変わらず手加減ないなぁ

なんて、あの日見た桜舞い散る風景を思い返していた。






















分かると思いますが『恋風』イメージです。
インスパイヤーされたのであって、歌詞創作ではないのであしからず。
“胸が止まらない”て表現を使おうか迷ったけど
あれは特別過ぎるので私が使っちゃいかんと思ってやめた。

さすがに結婚してる夢は初めてだなぁw
パパとママだっておww萌ゆるww
ちなみに最後は下ネタです。(笑)
さりげなく挟んでみたけどどうよwwww

大石ラブすぎてヤバイ!TKありがとう!恋風最高!
神曲なんてレベルじゃねーぞ\(^o^)/


2012/03/22