* Oh, I see U there. *












俺は大石秀一郎。青春学園に通う中学3年生だ。
テニス部では副部長として活動している。
個性派揃いのメンバーで楽しい日々だが、それゆえトラブルが多いのも悩みの種だ。

最近特に俺の胃を痛めているのが…


「あっ、すんませ……てお前かよ」

「あァ?てめぇからぶつかってきてその態度はなんだ!?」


「こらこらお前たち!」


この二人だ。

桃城武、海堂薫。
2年生レギュラーで、来年はこの二人が中心となることも期待されている。
そんな二人がこの有り様じゃあ…。



「喧嘩はやめないか!」

「だぁーっておおいっセンパイ!コイツむっかつくんすよ!」

「フン!こっちだっててめぇなんか視界に入るだけで癪だ」

「何ぃ!?」

「やめろって!!」


二人の間に割り込み体を押し返すようにする。
しかしこの二人の力の強いこと!
かといって放置して殴り合いにでも発展したら困るし…。



「レギュラー集合!」


「やべっ集合だ」

「……ケッ」



手塚の声がかかると二人は大人しく集合すべく駆け出した。
基本的に素直なのになぁ…。



「どうすればいいだろう…なあ英二」

「うんにゃ桃と海堂?いんじゃん別に殴り合うわけでもないし」

「今のところはそうだけど…」



もしものことがあってからでは遅い。

…よし。
機会を見て、一人ずつ話してみよう。






  **






「だぁー疲れたぁー!!」


レギュラー同士の打ち合いが終わり、桃は頭から水を被っている。
俺も顔を洗いに水道までやってきたけど、
他のメンバーはコートに残っている。

…今聞いてみるか。



「なぁ桃」

「ん、なんスか?」


ごしごしと豪快に顔と頭を拭いた桃はさっぱりとした顔でこっちを見る。



「なんでお前はあんなに海堂と仲が悪いんだ?」

「見てればわかるでしょう!?アイツが突っかかった態度で向かってくるんスよ!」

「他のやつが相手なら、同じような態度されてももっとうまく交わすだろ」



例えば、荒井とか。

2年生の事情というと桃と海堂の仲の悪さが目立つけれど、
実は表に出さないだけで桃と荒井なんかの方が険悪なのではと思う。
でもウマの合わない人はどうしてもいるし、
そういう意味では二人は暗黙の了解というか
余分な係わり合いをうまく減らして問題を最小限に抑えてる…と俺は踏んでる。

そんな大人な対応も出来るのに、海堂相手にはどうして。


桃は視線を逸らして少し考え、タオルを首にかけると答えた。


「なんつーんすかね…アイツだけには意地でも負けたくないっつーか」

「だからって喧嘩することはないだろ?本気で怯えている一年生もいるんだぞ」

「そうなんスけど…」


珍しく歯切れ悪く、何やらごにゃごにゃと言いかけると、
がしがしっと頭をかき、納得いかなさそうに吐き捨てた。



「ライバルだからこその対抗心ってやつじゃないスか?しんねーけど…」



ライバル、だからこそ。

……なるほど、そうだったのか!



「特別な存在だからなんだな」

「とくべっ!……まあ、そうっちゃそうスかね…」



ぽりぽりと頬を掻く。

海堂の前でもこんな風に素直でいればいいのに。
まったく不思議なものだな、ライバルというのは。



「仲良くしたいとか思わないのか?」

「別に、あんなやつ…」

「そんな意地を張らずに!」



背中をポンポンと叩いた。

なんだか、桃と海堂の距離感というものが掴めて来た気がする。



「意地…意地なのかぁ?てか特別ぅ?アイツが!?
 仲良くなるとか想像つかねぇし……いや想像とかじゃなくてアイツとオレがぁ?えーっ??」



何やらぶつぶつ言ってる桃を置いて俺はコートに戻った。





 **





その後部活は順調に進み、平和に終わった。


部誌は手塚が竜崎先生に持っていって、俺が最後の点検をして鍵を閉めて帰る。
そこはいつも通りだったのだけれど、違ったのは…


「(おや…まだやってるのか)」


部室脇に置かれている海堂のテニスバッグだった。
大抵は俺と手塚が部誌を書いている間に戻ってくるのだけれど、
たまにこうして置きっぱなしのままのときがある。
頑張っているんだなぁ。


と、あそこに見えるのは…



「海堂」

「……っス」

「お疲れ。遅くまで頑張ってるんだな」



海堂はバンダナを外すと軽く会釈をし、鞄からタオルを出して顔を拭いた。



「日が延びてきたから…橋一本分伸ばしてみたんス」

「なるほど。偉いんだな」



褒められたかったわけではない、とでもいいたいように海堂は顔をしかめた。
それとも照れ隠しなのか、俺にはわからないが。



……さて、せっかくだし今聞いてみるか。



「なあ、海堂」

「はい」

「海堂は、桃のことをどう思ってるんだ」



海堂は飲み物を吹き出しそうになったのをギリギリ堪えたようだった。
口元を拭うとこっちを向く。



「な、何スか突然…」

「いやぁ、実はさっき桃とも話してたんだけどな…。
 お前らって、喧嘩が多いよなぁと思って」



海堂は少し顔をしかめて、首をうな垂れた。


「まあ、迷惑っスよね……スンマセン」

「いやいや、そんなことが言いたい訳ではないんだ」


本心だった。
さっきまでとは心持ちがまるで違う。

だって俺は、もうわかっているんだ。



「で、どう思ってるんだ?」



聞くと、海堂はフシュウと息を吐いた。



「どうも何も…見た通りっスよ。アイツとはウマが合わねぇんス」



不機嫌そうに言い放った。

でも、本当はそうじゃないんだろう?
まったく、素直じゃないなあ。



「ははっ」

「?」

「海堂は、桃のことが大好きなんだな!」

「あぁ!?」


よほど心外だったのか、海堂は噛みつきそうな勢いで吠えかかってきたが、
即座に「…スンマセン」というと座り直した。



「喧嘩するほど仲が良いっていうだろ?きっとお互い素直になれないだけなんだよ」

「は、はぁ……」

「桃も、海堂は特別な存在だって言ってたぞ」

「えっ」



よほど衝撃だったのだろう、海堂は固まっていた。

ぽんぽんと肩を叩いた。



「あと半年もすればお前らが中心となってテニス部を引っ張ってくんだぞ、頑張れよ!」

「…………」

「さあて、時間も遅いし帰るか!海堂は走ってくんだろ、気を付けろよ」



手を振ってその場を後にした。




「桃城が俺を…特別……?!何言ってんだ……いや、まさか…フシュ〜……」


とか背中でなんとかぶつくさ呟く声がしたけど、気にせず帰ることにした。



これで何かが変わるといいんだがな。
うん、今日はなんだか良いことをした気分だ!


大きく伸びをして帰路についた。





 **





翌日。
いつものようなテニスコート。


「お、わりっ……てお前かよ」

「また貴様か!」


海堂が桃の胸ぐらにつかみかかる。
そしてまた罵り合いが始ま……


「……けっ!」

「……フン」


……らない。


顔を逸らすと反対方向に歩き出した。
いつものような喧嘩には発展しなかったのだ。



「…これは大成功かぁ?」


「なになに大石」

「興味深いデータが取れそうだな」



不二と乾が寄ってきた。
どうもこいつらは、こういうところに目ざとい。



「桃と海堂だよ。あまりに喧嘩が多いから、昨日二人を説得してみたんだ」


「ほう」

「ふーん」



ウォームアップ中、ふと目が合う桃と海堂。
しかし、一瞬にしてすごい勢いで逸らされる。

桃は腕をぐるぐる振り回して、
海堂はバンダナに手を宛てフシュウとため息をつく。

桃がスマッシュ練習する姿を、海堂が見つめる。
桃がそれに気付いて顔を上げた瞬間、
海堂は何事もなかったかのようにランニングを始める。
フシュウとため息を吐きながら走り去る海堂を目で追う桃だったが、
頭をぶるぶると振ると顔を叩いてスマッシュ練習を再開する。


変に意識しているようにも見えるが、
まだぎこちないだけだろう。
きっとそのうち仲良く笑い合う二人が見える日もやってくるさ!


「どうだ、喧嘩しなくなっただろう?」


ガッツポーズをする俺に対し。




「大石…お前は余計なことをしてくれたようだな」

「えっ?」


乾に肩を叩かれたかと思うと



「いやいや、僕は面白いと思うけどね」

「はぁ…」


不二に肩で当たられた。
どういうことだ…。



「まあ、今後も詳細な観察と分析が必要だな」

「そうだね」



乾はメガネをついと上げ、不二が横で笑う。
二人は、俺とは違う視点で見えているようだが…。


細かいことはどうだっていい!



「全員集合!練習を始めるぞ」



手塚の声が掛かった。

さあ、今日もみんなで部活動に励もうじゃないか!




「今日も頑張ろうか!なあ、桃、海堂!」


「は、はいっ!」

「…っス」




その二人に声をかけたことで、
周りの部員たちがヒヤッとするのを感じた。
しかし、もう気にすることはない!

二人が喧嘩をするのは…絆の表れに違いないんだからな!!




「ははは、じゃあ二人でAコートに入れ!」


「えぇ!?」

「は!?」



こうして、みんな成長していくんだな。

うんうん…青春だなぁ!



「そらそら、行くぞー!!」




桃と海堂が目を見合わせて困った顔をするのを見守りつつ、
俺はボールかごを掴んでテニスコートへ走った。


二人がぶつかり合いを乗り越えて、笑顔を交し合えるような仲になれる、その日を夢見て。






















業界初(たぶん)!大石視点の桃海小説w何これwww
いえね兄上が桃海読みたいていうし私は大石書きたいし。
その要望と欲求を掛け合わせたらこうなりましたっていうw

あれだけ大石小説ありながらたぶん我が家で初なんだけど、
氷帝戦後シャカリキになったウザ大石を意識してみた!
うん、ウザイね!すごい!大石すごい!!(褒)

そしてさりげない不二乾ね。ここ大事。
そしてさらにさりげない不二大ね。趣味発動。


2012/03/03