どこを好きになったんだろう?

いつ好きになったっけ?

どうして好きなのかな?


今となっては思い出せないけど、
きっと当時もよくわかってなかった。


いつの間にか始まってた、ただそれだけだった気がする。

そこから始まる、長い恋の行方なんて知らずに。











  * はっぴぃ・すたぁと -2012 edition- *












ー!」

「あ、〜!おはよーっ!」


新学期。
掲示板の前の人だかりを抜け出そうともがいていると、親友のの声がした。
ひらひらと振られる手を頼りに、なんとか人を掻き分け飛び出した。


「はよっ。ね、どうだった?」

「うちら一緒だよ〜!中学初めて!」

「マジ!?やったじゃん!」


きゃいきゃい、と盛り上がる私たち二人。
テンション高すぎて私に至ってはその場でジャンプしちゃったりして。

小学校からずっと仲が良くて部活も一緒なだけれど、
中学でクラスが同じになったのは今年が初めて。
楽しい一年になりそう!

っていっても、
上機嫌な理由はそれだけじゃなくて…。


「とりあえず朝は元の教室行くんだよね?」

「そだよ〜」


一緒に階段を上った私たちは、
お互いの元のクラスに行くため途中で別れた。

途端。


「………えへ」


いかんいかん。
独りになったと思ったとたんニヤケが。
冷静さを保たねば…!

でも…そう思っても、浮かれる気持ちを抑えることが出来ない。
だって、今度のクラスには…。


「おっはよ〜ん!!」

「わぁ!」


後ろから突然押されて、思わず声を上げてしまった。
この声は…!


「英二!!」

「ほいほ〜い」

「びっくりするなぁ、もう…」


ホントいつでも元気だなぁ、英二は。
せっかく人が感傷に浸ろうというときに…。


「今年はクラス別れちゃったね」

「そだね」


私たちは話しながら教室へ入った。
英二とは、去年同じクラスだったんだ。
会話のテンポが合って、男子では一番仲良いんだ。


でも…ゴメンね?英二。

私、前に英二に嘘ついちゃったんだ。
まだそれを言えずにいる。


あれは、一ヶ月ぐらい前の事かな……。




  ***




「ねっ、日曜日さ、テニス部の大会があるんだけど見に来ない?」

「お、なぜ突然?」

「いいからいいから〜!ねっ?」


そう言われたのは、帰りのHRが始まる数分前。
後ろの席から身を乗り出すようにして英二が言ってきた。
私は後ろに首だけ倒しながら応答。


「英二試合出るの?」

「あったり前じゃん!ね、だから見に来てよ!!」


頭の中で他に予定がなかったか思考を巡らせた。
英二やったら張り切ってるし…そだね。


「いいよ、見に行く」

「やたっ!」


特に用事はなかったし、全国区というテニス部がどんなものなのか
一回は見てみたいと丁度思ってたんだよね。
練習風景なら何度か見たことがあるけど、
他の学校と戦ってる様子は見たことがなかったから。

そんな、初めは軽い興味だった。


「よ〜し!オレ張りきっちゃうもんね!見に来てよ、絶対だよ!」

「わかったわかった」


HRを終えたあと、大会の場所と時刻を聞いて、帰った。

その日、何が起こるかとも知らずに…。




―――当日。




「ほぇ〜…」


いよいよ始まった青学の試合。
私は、度肝を抜かれていた。


「すごい…青学ってこんなに強いんだ」


私はテニスに詳しくなかったし、
ルールとか細かいとこまではわからなかったんだけど。でも、
そんな無知な私が見てもはっきりわかるくらい、青学の強さは圧倒的だった。


「ゲーム青学、6−0!」


結局、青学のダブルス2は、相手に1ゲームも取らせることなく試合を終えた。
そしていよいよ…。


「ダブルス1、前へ」


その瞬間、ゴールデンペアだ!と知らない学校の人が声を上げていた。
別の場所からも、黄金コンビやらゴールデンコンビやら色々と聞こえてくる。


「青学ゴールデンペアの大石・菊丸だぜ!」


隣に立っていた人の声が耳に入った。
へぇ…英二って有名人なんだ…。

コートに出て行った英二は、フェンスの後ろに私を発見すると手を大きく振ってきた。
私はそれに対して胸の前で小さく手を振った。
な、なんか注目浴びてる気が…。


戸惑っているうちに、試合は始まった。
先ほどのように、青学ペースで試合は進められていた。
そして、英二はいつでもコート中でクルクルと走り回っていた。


「ほいほいっとね〜」

「出たっ!ダイビングボレー!!」


周りの人が叫ぶ。

ホントすごい…。
英二カッコイイじゃん!
と、思ったよ。ホントにね。
派手な動きは目を引く。でも……。


どうして私はパートナーの大石くんの方ばかり目で追っているのか。


自分でも、わからない。
特別目立つことをしているわけでもない。
今まで関わり合いもなかったから、注目する理由もない。
なのに、気付くとそっちを見ていた。

今思えばあの時点で私は ヒトメボレ していたのかも知れない。



「ゲーム青学、6−0!」



その声で、はっと現実に引き戻された気がした。
それまでは、夢見心地でずっと一人を目で追っていた。

英二がこっちにVサインを出してきたので、私もそれに応えた。
でも、思考は上の空。


思い出すと、鼓動が高鳴る。

どうして、こんなにも心が痛むのか……。



っ!」

「わっ、英二!すごかったじゃん!」

「でしょでしょ!ちゃんとオレの事ずっと見てた??」

「見てた見てた〜」


なんて、言ってしまった自分。
罪悪感も感じたけど、それよりも、気になったのは心臓の脈動。
激しく、激しく、波を打つ――。


「ね、英二!」

「んにゃ?」

「普段の部活のときも、テニス部見に行っていいかな!?」


気付くと、そんなことを言っていた。

気になった。
この心臓の高鳴りの正体が。
確かめたかった。


「もっちろんだよ!毎日でも見に来てよ!でも、突然どうして?」

「え…なんか、今日ので感動したから!…うん」


しどろもどろそう答えた。
我ながらその場ででっち上げた感満載だったけど、
英二は気にせず喜んでいるようだった。

と、英二はベンチの方を振り返った。


「あ、オレそろそろ行かなきゃ。次の試合が始まるから。じゃね!」

「うん。頑張ってね」


シングルス3も、終始青学ペースだった。
無論、6−0。
何やら3つ勝つと終わりらしく、そこで試合は全て終了した。
私はそれを見届けると、ぼーっとしたまま帰宅した。



家に帰ってからも、その時のことを思い出してはドキドキしてた。
頭の中は、一人のこと一杯だった。


そして、私は暇を見つけてはテニス部を見に行くようになった。
英二が不思議そうにしてるから、
テニスに興味が沸いたとか目覚めたとか理由を付けて。

別に嘘なんてつく必要ないのに。
でも、なんとなくこの気持ちを気付かれたくないような気がしてたんだ。



それまで恋らしい恋なんてしたことがなくて。
あの人カッコイイな、とか。
優しくていい人だな、とか。
今までずっとその程度で。

だから、一人の人にのめり込んでしまう苦しさを、初めて感じた。



って好きな人とかいるの?」


ある日突然訊かれた、英二からの一言。
そんなの、私が知りたいよ。

…なんてね。気付いてたよ。
これは間違いなく“恋”だって。

でも…。


「う〜ん…いない、かな」

「ふーん、そっかぁ」


私はまた、咄嗟に嘘をついた。
別に言えばいいんじゃない?
“私はあなたのパートナーの大石くんが好きです”って。
英二優しいし、仲取り持ってくれたりするかもよ?

でも、何故か言えなかった。

この気持ちは、心の奥にしまっておきたかったんだ。




  ***




ホントに英二には申し訳ないと思ってる。
ゴメンね?なんて、
心の中で謝ることなんていくらでも出来る。
でも、それは卑怯だ。
わかってる…でもゴメン。


「おう!懐かしの教室!」

「懐かしって、まだ二週間しか経ってないじゃん」

「オレの中では昨日過ぎたらもう過去」

「何それ」


そんなどつき合いをしながらも、微かな罪悪感。

嫌だな、こんな自分。
英二とは、裏表もなく楽しく付き合いたい。
今までそうしてきたように。


「でも確かにさ、これからはもうここを使わない〜って思うと
 少し懐かしい場所のような気がしてくるかも…」

「でしょ?でしょ??」


楽しそうに笑う英二。

いつか、この罪悪感も消える日が来るのかな…なんて、
柄にもなく悩んでみたりして。



その後始業式が行われて、簡単なHRを終えると二年の教室に別れを告げた。
いよいよ、中学校最後の一年間への扉が開かれたのです。


「じゃね、

「うん。バイバイ」


廊下に1組から並ぶ教室。
2組の私が先に新しい教室へ辿り着くこととなった。
英二とも別れて教室に入ろうとした、時。


「あ!大石ぃ〜!」

「!」


瞬間、心臓は高鳴った。

そうです。何を隠そう。


今年は、大石くんと同じクラスなのです。


「お、英二」

「結局うちら一回も同じクラスになんなかったね」

「そうだな。英二は確か6組だっけ、不二もいたよな」

「そだよ〜」


そのやり取りを、私は固まったまま見ていた。

リアル大石くん、だぁ。
考えてみればこんなに近くで見るのは初めて。
声も、掛け声くらいしか聞いたことなくて、
おしゃべりしてるところを聞くのは初めて、かも。

ドキ。ドキ。


「大石は2組だよね、と同じクラスだ」

?」

「!?」


なんで私の名前が話題に!?
えええええ、ちょ、まっ!!!
英二さん、心臓に悪いですよわよ…!


は2年の時のオレの仲良しさんだにゃ」


英二は言いながら私の方へ手のひらを向ける。
大石くんは促されてこっちを、見た。

初めて、目が合う。


ドキン。
目、キレイだな。




――――………。






魔法に、かけられたようだった。

大石くんは私の顔を見て一瞬固まった、ように見えた、けど、
実際はきっと固まってるのは私の方で、
ていうか固まるも何もほんの一瞬のことだったんだろうけど
私からしたら無限のように感じられた、というか。
「よろしく」と柔らかな声で言われて、
だけどそれすら意識の遠い彼方だった。

なんて爽やかな笑顔をする人だろう。


「はい!よろしく頼みますです!」

「ははは。面白い子だね」


そうかな、とか照れ笑いできた自分gj過ぎる!
脳内それどころじゃないよちょっとこれどうするこれあばばばばばb!


ちょっとちょっと!どうしよ!
大石くんと!近付いて!目が合って!会話して!
よろしくだって!面白いって!
昨日まで遠い人だったのに一気に距離が近付いて!
近過ぎちゃってどうしよう〜って感じだよ!Help!


なんか…緊張して変な汗かいた。
所詮同い年の男子相手に…くそぅ……。

こんなこと、初めてだよ。


「それじゃね〜」

「ああ。また部活でな」

「またね、英二」


英二は6組へと向かった。
私はただ静かに手を振った。
英二の姿が人込みに紛れると、大石くんはこっちを向き直した。


「えっと…、ちゃん?」

「はひ!と申します!」

さんか。よろしくな」

「こ、こちらこそ!!」


ど、どどどどどどど、どうー!!(鳴き声)
どうすんのこれどうなんの!?
同じクラスになったってだけでこんなにお近付きになっちゃっていいの!?

これから一年間同じ教室で過ごす…のか。
嬉しい、かな。うん。嬉しい。
しかし心臓が持つかちょっと心配だったりして…。


そんなこんなで、私の中学3年の生活は蓋を開けるのでした。





  **





大石くんと同じクラスになって、一週間。
観察してるうちに色々なことがわかった。

テニス部では副部長をやってるみたいだし、
しっかり者なんだなって。
みんなが嫌がる学級委員を、
周りの男子に後押しされながら、立候補していた。

他にも、色々。
足を組むときは左足が上とか。
考えるときは顎に手を持ってくる癖とか。
実はちょっとだけおっちょこちょいなところとか。

…誰にでも優しいとことか。

う〜ん。
なんだか最近、それが悔しい。


「ねえ大石くん、宿題答え合わせしようよ」

「ああ、いいぞ」


きっかけを一生懸命自分で作って、話しかける。
会話の合間に見られる笑顔が、好き。
だけど。


「あっ、ズルイ私も写させて!」

「違うぞ俺たちは答え合わせしてるだけだぞ」

「まあそう言わないでよ大石」

「あー私も私も!」


いつの間にか、人だかり。
その真ん中で君が、困った顔をしながら笑ってる。
私はなんだかそれを客観的に見ている気持ちになる。
さっきまで一番近くにいたつもりが、今は一番遠いみたい。


優しい。
笑顔が、好き。
だけどその笑顔は自分だけのものじゃない。
そう考えると、苦しい。

もっと色々知りたい。
もっと近くにいたい。
もっと笑顔が見たい。


今のままでは満足できなくなっちゃったんだよね。




「ねえ

「ん、何?」

「好きな人できた?」

「ぶっ!」


ある日、お弁当食べてる時のこと。
にいきなり聞かれた一言に、私は素でお茶を吐いた。


「…キタナイ」

「ごめん、マジでごめん!!」

「…まあいいけどさ」


は腕にかかったお茶をハンカチで拭きながら言った。


「…で、どうなの?」

「何が?」


あくまでシラを切ろうとする私には言った。


「できたでしょ、好きな人」

「…どうしてそう思うの?」


…マズイ。
こういうとき、はやったら勘がいいんだ。
きっとバレたに違いない。

でも鎌をかけられてるだけかもしれないし、
あくまでも白を切り通そう…。


はニヤっと笑うと私の耳元に口を寄せて、
他の人に聞こえぬように小声で、言った。


「…っていうかぶっちゃけ、大石のこと好きでしょ」


GAME OVER。

バレてます。
いや、負けちゃたまらねぇ。


「そんなことないよ!」

「ホント?」

「…ウソです」


…自ら割れました。


「やっぱりね〜」

「…どうしてわかったの……」

「だっての態度バレバレ」

「…マジ?」


そうなんだよね。
私いっつもそう言われる。
「わかりやすすぎ」「態度でわかる」って。
隠し事ができない性格らしい…。

まあにはいつか話そうと思ってたから。
いいや、もう全部明かしてしまおう。


「いつからいつから?」

「春休みに…テニス部の大会見に行った頃、かなぁ」

「えー?あ、クラス一緒になる前かーでも意外と最近だねー」


は完全に興味で色々質問してくる。
でも答えてるうちに、ああ、私本当に大石くんのこと好きなんだ…。
って確信に変わってきた気がする。
言葉にすればするほど、秘めてた自分の本心が浮き彫りになってくる。


一通り話をして満足したらしいは、
デザートのポッキーを食べながら最後の質問をしてきた。


「で、告白するつもりとかないの?」

「そそそ、そんな滅相もない!!」


私は手を横にぶんぶん振って否定した。

こ、コクハク!?
そんなバナナ!アップル!
って何言ってんだ自分!!


自分で顔が赤いのがわかる。
はニヤっと笑うとポッキーで私の方を指しつつ言ってくる。


「だって大石誰にでも優しいじゃん?取られちゃうよ〜」

「〜〜〜」


そう。
それが実は悩みだったりするわけ。
悩める乙女。14歳。ああはらり。


「ま、何かあったら言ってね。相談乗るから」

「ん。ありがと」


人に話してしまった。
そのときの私は、なんだろう、
もう後には戻れないなーなんて気がしてたんだ。

歯車は、少しずつだけど動いてた。




たまに、英二も入れて三人で話をすることがあった。
6組からやってきた英二は、次移動なんだーなんて言いながら立ち寄って、
休み時間が終わる数分前で抜けていく。

そういうときは、二人で会話を続けるわけで。
必要以上に緊張している私にが目で合図送ってきたりして。
あーもう、そういうのいらないから!と思いつつ、
恋してるなぁ、なんて女の子な自分に戸惑ったりする。

他の人が話に割り込んでくると、
心臓のドキドキがちょっと減って、
なんだかちょっと安心する一方、残念で。
心の中が、ざわざわする。


話の内容なんて、どうでもいいんだ。
一緒に話せてなくたって、関係ないんだ。

大石くんの笑顔が好き。
ずっと一緒に話してたい。
いつも近くで見ていたい。


話をする度に、思いは高まって。

横顔を見るたびに、想いは深まって。



3年生になってから3週間ほど経ったある日、私は決断した。


告白しよう!


授業中のことでした。
ノートも取らずに呼び出しの作戦を立て始める。
思い立ったが大安吉日。
自分の無駄な行動力に敬服。

もう、気持ちが止まらない。




「大石くん!」


休み時間になると同時、私は大石くんの机に駆け寄った。
いつもより、更に高鳴る心臓を必死に押さえて。


「さっきの話の続きもあるしさ、今日一緒に帰らない?
 確か家の方向同じだったよね」


これぞ、私が授業中に考えた作戦。
話の続き、なんていって、本当に大したことじゃないのに。


「部活で遅くなるけど、大丈夫かい?」

「大丈夫、どうせ私も見学してるから!」


私は相変わらず自分の部活がない日はテニス部の見学に行ってて、
同じクラスになって以来大石くんにもそれは認知されてる。


「そっか。…じゃあ、どうすればいいかな」

「ん〜と…終わったら門の前、でいい?」

「ああ、わかった」


…ぷふゅ〜。
会話が終わったあと、思わず溜め息。
本番はこれからだっていうのに…。
でも、とりあえず一山超えた感じかな。

周りのみんなには気付かれたかな?
結構ガヤガヤしてたから平気だと思うけど。

ま、どうでもいいさ。この際。
ここまで来たら、自分と相手の話!
寧ろ自分との戦い!!!


そんなことを意気込みながらHRを追え、いつの間にか放課後。


「なんか、今日そわそわしてない?」

「そ、そうかな?」

「ふーん…」


じろじろ見られて、たじろぐ。
さすが、鋭い…。
私がわかりやすいのか。


「ま、いいや。また明日ね〜」

「うん、バイバイ」


部活がない日は即帰宅、がモットーのはさっさと帰っていった。
私は焦りながらも手を振って、その背中を見送った。



そして私は、いつも通りテニス部の見学に行くわけだ。
いつも通りなのに、なんだか緊張しちゃう。
向こうと、目が合ったりして。思わず逸らしたりして。
あれ、もしかし向こうも意識してるかな…なんてこと。

呼び出した時点で勘付かれてるかな?
でも一応昼間の話の続きっていうことにはなってるし…。

どうしていいのか分からない。
練習が終わると同時、私は目が合わないようそそくさと
テニスコートから逃げるように門へ待機しに行った。


15分ぐらいすると、ガヤガヤとテニス部の人たちがやって来始めた。
そろそろかな〜と思うけど、
副部長の仕事で遅くなるんだよね、確か。

はぁ…緊張…。


「あれ、

「わぁ!!」


ため息をついた瞬間に後ろから掛けられた声に、
思わず飛び上がるほど驚く。
そこにいたのは、英二だった。


「英二!ビックリさせないでよ!!」

「別に声掛けただけにゃのに…」


英二はぶーたれた口をした。
こっちは心臓ばっくばく。
ああどうしましょ。


「誰か待ってるの?」

「あ、うん。クラスの友達」

「ふ〜ん」


嘘…ではないぞ!
だけど共通の知り合いの名前をこの場で出さないのは、明らか不自然。
きっと英二は、大石くんではない誰かだと想像していることだろう。


「なーんか今日みんな都合悪くてさー!オレ帰り一人ぼっちだよ〜」


英二はつまらなそうに石を蹴りながら嘆いた。

そうなんだ、とか言いながら、
その原因の一つは私なんだろなって思ったりして…。


英二に言えないこと、増えてく。
いつかは言うのかもしれないけど。
今はまだ、言えない。

うまくいったら、言えるかな?
うまくいかなかったら、言うのかな?

うまくいかなかったら、どうしよう…。


「まあいいや。かーえろっと。またね〜

「うん。また明日」


英二に手を振って見送る。
姿が見えなくなったのを確認して、ため息。
また一人の時間がやってくる。
先のことを考えて、鼓動が早まる。


さっき遮られて思考が止まったけど、
うまくいかなかったら、どうしよう?どうなるんだろ?
ていうか、うまくいったとしてもどうなるの?
ああわからない。
だけど今更後戻りもできない。


そんなことを考えて、15分ぐらい経った頃。


「お待たせ!」

「!」


後ろから聞こえてきた、大好きな声。

喜びと同時に、心臓が大きく波打つ。


「……」

「…行こうか」


大石くんの言葉に私は頷いて、歩き出す。

…どうしよう。
顔、上げられない。
恥ずかしくて。


とりあえず、二人肩を並べて歩く。
こうして横に並ぶと、背高いな。
視線を上に持ち上げられないこともあって、顔が見れない。

大石くん、今、どんな顔してる?


「………」

「…えーと、なんの話の続きだったっけ?」


無言で歩くことに痺れを切らしたのか、
大石くんのほうから、話題を吹っかけてきた。


「えーと…なんだっけ。大したことじゃなかった気がする」

「そっか」


わー。
話題終わっちゃったよー。
どうしよなんか話題話題ーぎゃー!

アドリブ得意なつもりだけどテンパるとダメ!なんもできない!
いいやもう作戦決行!本題突入!


「あ、あのさ!実は一緒に行きたいところがあるんだけど、いいかな?」

「ああ、わかった」


結局、今日のテニス部の練習がどうだとか、
今日の授業がどうとか宿題がどうだとか、
新しいクラスをどう思うだの、当たり障りのない会話をした。

といっても私の頭は他のことで一杯で、
大石くんが話すことに頷いたりたまにコメントしたりだったけど、
自分で何を言ったかとかよく覚えてない。


一緒にいられて嬉しいはずなのに、
ドキドキしすぎちゃって、早く終わってくれ〜、なんて。
だけど、終わってほしくない、そんな気もしてる。矛盾。


私は大石くんをうちの近くの公園まで連れてきた。
人気が少ない、小さな公園。
誰もいなかった。
もう夕日は沈みかけてて東の空だけが橙色。

私は大石くんにブランコに乗るよう促し、
自分も乗った。


ここに来ると、真正面に夕日が見えるんだ。


「綺麗でしょ」

「…ああ」

「ここね、私が一番好きな場所なんだ」

「へぇ…いい所だな」


私が話すと、大石くんも笑ってくれた。

ドキドキするけど、あったかい、笑顔。


…今だ。

言うなら今しかない!


授業中に立てた作戦↓

『ここにつれてきたのは言いたいことがあるからで…』
『えっ…そ、それは…』
『…ずっと好きでした!』
『実は、僕もだよ』
『えっ!?本当!?』
『愛してるぜ、
『私もよ!秀一郎!!』

 〜ハッピーエンド〜


………完璧。

何か違う気もするけど。
でもようはそういう流れだ。
よし、今こそ作戦を実行するとき…。


「 」

さん!」


…ほぇ?

口を開いて声を出そうとした瞬間、
大石くんの方から呼び止められた。

いざ言わんと意気込んでたもんだから肩透かしを食らった気分。
なんだろ?


「…なに?」


大石くんは、心なしか真剣な表情だった。
何事。


「突然で驚くかもしれないけど…」


え、え、え、

何。




「俺…さんのことが、好きだ」




………ぷっ。




「な!?」

「あははははは!」


思わず、笑ってしまった。

だって、えぇ?
何言ってるのこの人!
呼び出されたこととか、態度とか、
もしかしたらって思わなかったのかな?

本当に大石くん鈍感だなぁ、っていうのが愉快で。
先越されちゃったなぁ、っていうのも面白くて。

そして何より…嬉しかったんだ。

笑顔が止まらない。


「笑うことはないだろう…俺は本気なのに」

「違う、違くって!!」


もう涙が出るほどに、笑った。
大石くんの焦ってるような照れてるような表情が、
可愛いなんて思ってしまって。

ああ。
君の顔が赤いけれど。
夕日のせいと思っていたけれど。

それは私もあなたも同じってことなのね?


「私もね…大石くんのこと好きなんだ。
 今日は、それを伝えたくて呼んだの」

「そ、そうだったのか…」


本当に気付いてなかったんだ。
どんだけ鈍感なの…。

まあいいや、だってこれって、ハッピーエンドってことでしょ?

いや、始まり……かな?


「両想いだったなんてねー!」

「気付かなかった…」

「っていうか呼び出しの段階で気付かなかった?」

「ごめん、全然…」


ブランコで立ちこぎして、私は声を出して笑った。
大石くんは動揺が隠せない様子だったけど…笑ってた。

いつの間にか、一番星が出る頃になっていた。


「もうこんな時間か」

「ありゃ、いつの間に」

「それじゃあ、そろそろ帰ろうか、さん」


ブランコから飛び降りた私は、くるっと振り返って抱きついた。
胸にそっと耳を寄せる。

わぁ、幸せだ。


「わっと、さん!」


焦ったような声が聞こえて、
だけど何よりその呼び名が気に食わなくて。


「ねーそのってやめてさ、名前で呼んでよ」


腕を緩めて、顔を上げて。


「秀一郎って長いね。私、シュウって呼ぶから。ね?」

「……わかった、


にこっと笑うと、
シュウは私の背中に腕を回してぎゅっと抱き締めてくれた。

少しずつ現れてきた星が、
私たちを歓迎してくれているような気がした。


「…あ、でも学校では内緒にしようね」

「どうして?」

「…恥ずかしいじゃん」

「そうか…ま、いいけど」


そんなことを話しながら、その日は帰った。

明日会うときは、今までとは違った気持ちで会えるのかななんて考えて。





―――そして、翌朝。




「おっはよ〜シュウ!」

「「!!!」」



私の何も考えない軽率な一言で
一瞬にしてクラス全員に知れ渡るのでしたとさ。




私、と、シュウこと大石秀一郎が付き合い始めたきっかけはこんな感じです。


とても幸せな始まり方であり、
この先ずっと続く幸せの、ほんの一角でした。

そんなことは、この頃の私たちには知る由もなかったけれど。






















『告白』に続いて本作もリメイクしてみました!
たぶん、この頃のが一番稚拙なんだよなー
アイディアは豊富なのに勿体無い、と思って。
これより古いのになると、発想自体が突飛過ぎて書き直す気にならないw

大稲本編としては、元祖でいいんだと思う。
これはあくまでも2012 editionであって、
言葉遣いとかも今の私の好みに合わせて書いた。
あとは流れが不自然なところを修正したりな。

大石が主人公を好きになるきっかけがもっと必要だなと思って。
つまりね、一生懸命近付いて、話してるうちにってことなんだけど、
もっと大事なのは、笑顔をもらってるつもりだったけど
その分だけ笑顔を返してたってことなんだ。
大石の笑顔を見て嬉しくて自然と笑顔になっちゃってたんだよ。
そして大石はその笑顔に恋をしたんだよ。ってこと。
ああもうラブラブ過ぎて目が当てられないwwwww

一番言いたいことは…10年間も同じキャラ追い続けるなんて想像もつかなかったよ!(白目)


2012/01/27