* この夜が明けても瞬いて *












いつも通り、待ち合わせに向けて走る私。
向こうはきっと30分前くらいに着いてんだろな。
本当は私も早く着ければいいんだけど、そんなの無理!
ただ、遅れることだけは絶対にしない。

携帯時計、確認。1分前。
遥か前方に姿確認…行けるっ!
ラストの全力疾走!!


「シュ〜ウ!」


呼ぶと、振り返って笑顔が見えた。
それだけで嬉しくて、私ももっと笑顔になっちゃう。


「どう?今日も待ち合わせ時間ぴったり」

「だな」


息が切れてるのごまかしながら笑顔。シュウも笑ってる。

話しながら、どこへ向かうでもなく歩き出す。
昨日はどんな夢を見ただとか、今朝家を出るまでにあった出来事の数々だとか、
気付いたら喋ってるのは私ばっかで、シュウは頷いてばっかの気がする。
シュウも楽しそうに笑ってるから、いいんだけどさ。


「昼食、まだだよな?」

「あ、そだね!なんか食べよっか」


久々まともに喋ったシュウのごもっともな意見に従い、
放浪した末結局ファミレスに入った。

お昼時よりは少し遅いのかな?
店内はそんなに混んでなくてすんなり禁煙席に案内された。

なににしよおっかなーと。
卵タマゴ…オムライスいいなぁ。
あーでもハヤシライスもおいしそう。
ハンバーグは昨日食べたしなー野菜と肉摂らなきゃー卵はたんぱく…。


「…何笑ってるの」

「なんでもないよ」


といいながらシュウは明らかに笑いを噛み殺して、
ごゆっくりどうぞ、と手の動きで示した。


「シュウは何にするの」

「うーん、どうしようかな」

「…決めた。私オムライス!」

「じゃあ押すな」


と、あっさり店員呼び出しボタンを押したシュウは
メニューを見ないままオムライスとカレーライスを頼んだ。


…コノヤロウ。

どうしてこの人は、人が気を遣わない気の利かせ方が出来ちゃうのか。
しかも自然に。
気侭勝手にやってる自分が悪い子みたい。


あーあ。
好きだなぁ。

もう付き合って5年以上。
今になってもまだ、尚好きになってしまうだなんて。
深く知れば知るほど、あなたの芯にある優しさが見えてきて、辛いほどだよ。


「どうかしたか?黙り込んで」

「シュウがイケメンすぎて見惚れてた」


な、何言ってんだ!
なんて、顔を赤くしちゃうようなとこは、変わらないなぁ。


そんなこんなで話しているうちに食事は運ばれ、
何を話したかもはや良く覚えてないけど、とりあえずオムライスはおいしかった。



お店を出て気付いたけど、世間は本当にカップルだらけ。
お店は色とりどりの飾りつけをしていて、
店員さんはサンタの服やトナカイの帽子を被って商売に精を出してる。

クリスマス、なんだなぁ。


ちら、と横を見上げた。
………。


「嬉しいね」


え?

と、こっちを向きながらシュウは首を傾げる。


「前に散々文句言ったこともあったけどさ…」


それは確か、3年前のクリスマス。
ムシャクシャしながらシュウに国際電話をかけたことを思い出してた。
シュウも思い出してくれたかな?


「やっぱりさ、クリスマスに恋人と過ごせるって、嬉しいね?」

「…そうだな」


気恥ずかしい気がして、照れ笑いをしながら肩をすくめた。
シュウの返答は、とても柔らかくて、
本心で言ってるんだろうけど、
それ以上に私への気遣いなのだろう、と思った。


別に、今だってクリスマスは恋人のためのイベントとは思ってない。
アメリカにドイツと、クリスチャンが大半を占める国に暮らしていた名残だと思う。

クリスマスは家族と過ごすもの。
教会でろうそく持って歌を歌って募金をしてお祈りするもの。
プレゼントは朝ツリーの下にサンタが持ってきてくれるもの。
だから夜はそわそわしながら早寝をするもの。

だけど、意地っ張りかもなぁ。


世間の風潮もそうだし、何より、
こんなに綺麗な景色を大好きな人と見たいと思うのは、当然の気持ちじゃない?


「綺麗だね」

「そうだな」


言葉を発して、同意するのは、いつだって私からシュウの順番。

だけど、そうしたときに手を取ったりするのは、
割とシュウの方が多かったりする。

それだけで幸せな、イルミネーションの中の散歩道。





 ****





夕御飯はオシャレなダイニングバーで。
私、向かい合わせのテーブル席よりカウンターが好きなんだよね。


そういえばこの前英二と初の合法飲みしたんだけどさーって言ったら、
そういえばアイツつい最近まで未成年だったんだよな、って話になった。

考えてみればそれは私たちも同じで、
シュウとこうしてお酒を飲み交わしてるってのも
今までには数える程度しかなかったこと。

俺、超下戸なんだよな…なんていってるシュウがスパークリングワイン一杯で顔赤くしてる横で、
そんなの今更言わなくてもわかってるってって私はケラケラ笑いながらボトルの残りを飲み干した。



「そろそろ出ようか」

「ウン」



なんだかそれは、合図のような気がして、
私は途端に心の準備を始めた。
いつになっても、慣れないなぁ。なんて。
頬が少し染まるのを感じるのは、お酒のせいかななんて、
わかってる癖に責任転嫁して。



夜の街を手を繋いで歩いて、
フロントは一歩後ろに引いて、
エレベーターでは手を掴むのも掴まないのも不自然な気がして
距離だけを最大限近付けてぴったり寄り添った。



部屋に入ると、正面の大きな窓から綺麗な夜景が見えた。
おー、写真の通りじゃん。やるぅ!

ひとしきり景色を堪能して振り返ると、
シュウはふぅなんて溜息つきながらソファに腰を下ろしてた。


「いっぱい歩いて疲れたね」

「そうだな」


本当に疲弊したような声。
シュウ、年だよ年。

ぷくくと心で笑いながら自分のコートをハンガーに掛けて、
「貸して」とシュウのも受け取った。
大きいなー。わぁ。


綺麗なベッドが嬉しくて、ぼすんと寝転んだ。

…はっ。
誘ってると思われたら困る。それはまだ早い。

即座にガバッと起き上がって、「プレゼント交換しよ!」と言った。


今日は、お互いプレゼントを持ってきて交換しようよ、ということになってた。
前回に会ったとき、「自信作だから楽しみにしてて!」とメンチ切ってただけあって、
なかなか良い物を考えたと自分でも思う。


「ね、私が先でもいい?」

「どうぞ」

「あのねーすんごいお金かかってなくて申し訳ないんだけどね」


鞄の中から、それを取り出す。
ラッピングする時間がなかったなんていう女子力不足エピソードは、
敢えて言うことでもないだろう。


ジャジャーン!

と、その物を出すと、理解できなかったのかシュウはまばたきを繰り返した。


私がプレゼントに選んだもの。
それは、アルバム。
私たちが写っている写真を入れて、日付とコメントを添えて。


「懐かしいでしょ?残念ながら付き合ってすぐの頃のはあんまなくてさー
 でもほら卒業式とかー、一時帰国とかー…」


なんだか気恥ずかしくなって捲し立てるように言った。
シュウはそんな私の様子も気にせず、
ぱらぱらと捲られるページに目を落としてる。

気に入ってくれたみたいだ。
満足。
正直、これ以上の物なんてないでしょってくらい自信はあったしね!


「てなわけでぇ」

「ん?」


なんか舌足らずになった。私キモイ。



「私からのプレゼントは『二人で過ごした時間』!」



我ながらクサイと思いつつ、「今日一日も含めてね」って付け加えた。


もう二度と戻れない。
だけど私たちにも、こんな頃はあったんだよ?
そして、今っていうこの瞬間も無二のもので、
いつか、あんな頃があったんだよなぁ、
て思うようになるはず。

そんなメッセージをプレゼントに込めたつもりだったし、
今日一日も、後で幸せな思い出になりますようにって、
大切に過ごしたつもりだし、いつか思い出せたらなって思う。


そんなことを考えてたら、
くしゃって髪に指を入れつつ「悔しいな…」とシュウは呟いた。
どういうこと?


「本当に、最高のプレゼントだから」

「何それ〜。最高すぎて悔しいの?」


首を傾げた。
シュウの顔を見ると、アレ、コイツ泣きそう?
そんなまさかいやでもあり得る!


「あ〜っ!さては、シュウのプレゼント微妙なんでしょ!
 だから、私のプレゼントが最高すぎて悔しいんだ」


わざとらしく笑ってやった。
こんな私は気が利かないですか?

いいえ。信じてるから言えるんです。


だけどシュウは、首を横に振るばかりで。



「どう…したの。シュウ?」



なんだか突然不安になって、最悪の事態を想定し始めた。


実は今日別れ話を切り出す予定でした?
いやそんなだったらホテルとか来る前に!
じゃあアレ?死亡フラグ?
俺実はあと半年の命なんだ?
でもさっき、来年のクリスマスはなんて鬼が笑いそうな話をしたとき
シュウの表情には何か隠してる風な感じは見受けられなかったし…
もしかしてプレゼントめっちゃショッボイのかしら!
そんなことで怒る私じゃなくってよ!?


ほんの0.5秒くらいの間にそんなことが意識をぐるっと回った。

そんな私とは関係なしに、
シュウは

…」

と、私の名前をそっと呼ぶと、
苦しくない程度にきつく抱き締めてきた。

嬉しい、けれど、
なんだか不安が伝わってくるのは、私の考えすぎ?



「えっと……」

「………ごめん」



体が離された。
ようやくまともにシュウの顔を見れた気がしたけど、
やっぱり、もの憂いげな表情をしていた。

謝られたのは、突然抱き締めたことに対して、かな。
それだったら謝ることないんだけど…
てか突然どうしたの、ホント。


なんて考えてたら、シュウは自分の荷物から小包を出して渡してきた。


開けていいよ、と促されたのでその通りにした。
なんだかすごくシュウの視線が刺さってくる気がして、
そちらは見れなかったので包みを剥がすのに集中した。


…わぁ!


「ネックレス!かわいい!」


さすがシュウ、私の趣味を理解してる!
安いとか高いとか私は正直よくわからないんだけど(ごめんね…)
あんまりごてごてっとしたのは苦手とか、
大人っぽいより可愛いのが好きなんだけど
あまりにも女の子オンナノコしてるのは好まないとか、
そんな趣味があるんだけどシュウのチョイスはまさにドンピシャだった。


「つけてあげるよ」

「ありがとー!」


シュウに背中を向ける。
髪の間に手を通してネックレスをつけてくれた。

シュウ……。

色々考えて選んでくれたんだろな。
さっきはシュウ、どうしたんだろ?
シュウ、大好き。シュウ。
シュウがいなくなったら、私死んじゃうよ?
その手とか、匂いとか、体温とか、
今ここにあるのが当たり前みたいになってるけど
私はすごく大切に思ってて、
でもどれだけ大切に思ってようと
なくなっちゃうときは止められないんだよ?


涙で視界がぼやける。

大好きすぎて死んじゃうよ。



…どうした?」



不安そうな顔が、そこにはあった。
そうか、不安にさせてるのは、私の方だったのか。


首を横に2回振った。
心配はいらないよ、の意味。


「……ありがと」


嬉しいんだよ。
幸せなんだよ。

幸せすぎて不安になっちゃうくらい。


なかなか涙が止まらなくて、
へへっ、と照れ笑いでごまかそうとした。



「可愛いね、大事にするよ」



そっと胸元に手を当てた。
そこに確かにある、感触。
幸せなクリスマスプレゼントだ。

ああ、なんだか、
さっきのシュウの気持ちがわかった気がした。
でもそんなこと考えてるの私だけなのかもなとも思った。


考えていると、シュウが口を開いた。


「あと実は、もう一個」

「へ、まだあるの?」


もうだいぶ満足していた私はすっとんきょうな声をあげてしまった。
なんだろう。


また、小箱。
さっきとは違う形の。

シュウが私の左手を取る。


「どうしたの、シュウ。王子様?」


突然の行動への照れ隠しもあって茶化して笑ってしまった。けど、
もしかしたら、と気付いた時にはシュウは片手で箱を開けていた。

笑いが止んだ。



「俺からのプレゼント。『二人で過ごす時間』」



何これ、プロポーズ?


私には頭の中でしかツッコミを入れることができなかった。
てゆうか、ツッコミとかじゃなくて、結構リアル?

薬指にぴったり填められたリングを見たら、
声を出してわんわんと泣いてしまった。


これからも色々あるのだろう。
楽しいことや嬉しいことだけじゃない。
それでも一緒にいてほしい。
あなたも、ずっと同じ気持ちでありますように。






シュウの顔が、月の光に照らされている。

だけどうまく見ていられない。


でもいいんだ、今日は大切な日だけど、大切なのは今日だけじゃない。
少しずつ変わっていく毎日を、それぞれ大切にしていこう。


だから安心して、目を閉じた。

瞼の向こうで君がどんな顔をしているか、それだけを考えて。






















『今ここにある輝きよ』の対になってます。
『甘えん坊だけど。』と『心配性ですが。』、と同じ関係。
事情により日記に書き込まざるを得なかったけど、
その事情とか色々はクリスマス前後の日記参照でw

『今ここにある輝きよ』と比べて読めば分かると思うけど、
すれ違いがあるんだよね。でもそこが愛なんだよ。
ここで語りつくせるものじゃない。
二つ併せてレビューするべきだな。
忘れちゃう前に…褪せちゃう前に…。

あー楽しかった。大稲最高!イッヒリーベシュウ!!!


2005/12/05