「最近桃と海堂あんまケンカしてなくね?」


発端は、部活中のひょんな一言から。











  * TuNe DeLation *












青学ー!ファイオー!!

そんな掛け声が今日も元気に聞こえてくる青春学園テニスコート。
そして、こんな罵り合いも最早名物…?


「おいマムシ!ガン付けてくんじゃねぇよ」

「通り道でぼーっと突っ立ってるお前が悪ぃ」

「っんだと!?」


そして、もう額はぶつかっているんじゃないか、
というほどにまで顔を近付けていがみ合い。

決まってそれを止めるのは副部長である大石の仕事…
のはずが。


「ちっ!」

「フシュー…」


桃城は舌打ちをすると背を向けた。
海堂もまた、長い溜息をつくと練習に戻った。
止めようと思った大石の手が宙に浮いて固まっている。

でも、何もこのような状況は今回だけではない。
実はこのようなことがここ暫く続いており、
部員たちは「どうしたんだろうね」なんて噂をしていた。


「まただね、彼ら」

「ああ…どうしたんだろうな」

「ちょっとは大人になったのかな、それとも…」


不二と大石もまた、そのような話をしていた。
そういう話をする者はいれど、
大きな声で話す者いなかった。
ましては、本人たちの前では。

しかし、この男…。



「最近桃と海堂あんまケンカしてなくね?」


「「!?」」



頭の後ろに手を組んでひょうひょうと言ってのける菊丸。
言われた本人たち、そして周りの者も皆固まった。
何しろ、桃城と海堂の二人の喧嘩は、部員たちにとっても大事だ。

元々近寄りがたい海堂が、更に荒れて周囲に害を与え出す。
本来はムードメーカーである桃城が、あからさまに不機嫌な態度を取る。
以前に二人の大喧嘩で、部の雰囲気がそれは悪いものになったことがあったのだ。

なのに。


「(さ、さすがだぜ菊丸先輩…!)」

「(でもその言葉が原因でまた二人が大喧嘩を始めたら…!?)」


「ははーん、さ、て、は…」


部員たちの顔色が青ざめていく。
それにも気付かずか、菊丸は二人の周りをぐるりと回り。


「二人付き合ってるんだろー!」

「「!?!?」」


二人の前にピースを突き出すと、
ぱちぱち、と人差し指と中指をくっつけては離して見せた。

にしても…付き合う。


…あの、ここは男子テニス部ですが。


しかし、そんな常識は通用しない。
少なくとも菊丸英二には。


「変なことじゃないって、ほら!
 オレと大石だって付き合ってるんだしさー」

「こらっ英二!」


顔を赤くした大石が焦って止めに入る。
あーまた黄金夫婦が始まった、と
他の部員たちは呆れながらも一度安堵していた。


「うちの部のみんなは寛大だから良かったけど、
 世間一般ではこういうのは普通じゃないんだぞ?」

「わかってるって!だから教室いるときはこんなことしないじゃーん」


そんなことをいって、大石の首に巻きついたりとじゃれてる菊丸。
大石は、こら!なんて言いながら、力ずくで剥がすわけでもなく、
むしろまんざらでもないという様子である。



「で、どうなのよ」



大石からようやく離れた菊丸が、
桃城に向き直り問いかけた。
ちなみに、海堂はすでにその場から離れ自主トレを再開していた。


「あー海堂逃げたなー」


というわけで、ターゲットは桃城に絞られる。


「てかさ、ケンカになっちゃってたのも
 結局は相手のこと見てたり近くにいるからっしょ?
 今日も途中まではそんな感じだったのに、にゃーんか怪しい」

「えっ」


焦ってたじろぐ桃城。
一歩後ろに下がり、斜め上を見上げ、
でも菊丸のことを正面から見て言い放った。


「アイツはライバルだから…そうっス!
 ライバルのプレイを見て実力を知っておきたいって…」

「休憩中も?」

「う…」


桃城が口篭ったのを見かねて、
後ろから不二が止めに入った。


「ほらほら英二、そのへんにしときなって」

「だぁーってさ!」


菊丸はいささか不満のようだったが、
「練習を始めるぞ!」という手塚の声を受け、
ちぇーっ。と不満そうながらも小走りで集合した。

結局その後、練習中に桃城と海堂が目を合わせることはなかった。





全体練習を終えた後、海堂はいつも通り自主トレを行った。
そして荷物を取りに戻ってくると、
自分が荷物を放置した部室の陰に、人影が目に入った。


「……桃城」

「よぉ」


音楽を聴いていた桃城は、
海堂に気付くとヘッドホンを外した。

しかし、そこから会話はない。


「……」

「……」


暫くの沈黙。
桃城の方からそれを破った。


「なぁ、これからどうする、オレたち」

「!」


そう。
実は、二人は…友達以上恋人未満という状態だった。
菊丸の発言も、あながち外れてはいなかったということである。



「あ、誤解すんなよ!オレは、その…お前と付き合いたいと思ってるんだけど」



桃城が海堂に告白したのは、つい一週間前のことであった。
喧嘩ばっかしてきたし、多分嫌われてるだろうし、
っていうかそもそも男同士だし…絶望的だとは分かっていた。

それでも、海堂の返事は

「考えておく」

の一言だった。


その矢先の、菊丸の発言であった。



「やっぱ前と態度違うんだろな?エージ先輩にまでああ言われるし…」



海堂は何も言わずに桃城の隣に腰掛けた。
桃城は少し動揺したが、そのまま話を続けた。



「つっても、オレ、今ここでお前にOKもらえても…ダメでも、
 どっちにしろ今まで通り接せられる気しねぇし…
 じゃあどうしろって言われても、っつーか…あーもう!」



桃城はガシガシと頭を掻く。


「…わっかんねぇ」


桃城は膝の間に顔を埋めた。

分からない。それは、
これからどうして良いかについてか。
それとも海堂がどう思っているかについてか。


そもそも桃城にしてみれば、
即断られなかったことが疑問だったのだ。
オレにはそんな気はない、その一言で終われることだっただろう。
なのにそうならなかったということは?
しかし期待はしていいのか?


元々考えるのが苦手な桃城の脳ミソはパンク寸前であった。

そんな桃城の気を知ってか知らぬか、
海堂は落ち着いて長い溜息をつく。


「…らしくねぇな」

「え?」


桃城は顔を上げて海堂の方を向いた。
珍しく、ごく間近で目が合った。



「お前はもっとバカで、適当で、がさつで、
 他人がどうとかじゃなく自分が思った通りに動く単細胞生物だろが」

「なんだと!?」



思わず拳を振り上げて立ち上がりかけて、
桃城は固まった。

あれ、今までオレどうしてたっけ?
ケンカ?そういえば最近ケンカらしいケンカもしてねーな?
っていうかどういうこと?ねえ海堂君何が言いたいの?


その体制のまま動かなくなる桃城を見、
海堂はふっと柔らかく笑った。


「…大石先輩と菊丸先輩みたいにだけは、
 絶対なりたくないと思ってたんだがな」


桃城は、ぱちぱちと瞬きをする。


「つまり…どういうこと?」

「分かれよバカ城」


行き場の無くした拳を宙に振り上げ、
桃城は一人「イヤッホーゥ!!」などと叫んでいた。
海堂は自分の顔が赤いのが悟られぬよう、
バンダナに手を当て、斜め下を向きながら長く息を吐いていた。



「っていうか、お前今オレのことバカっつったろ!?
 っていうかさっきも言ってたろ!言ったな!?」

「貴様がバカなのが悪い」

「うっせ!ヘービヘービ!マムシ!根暗!バカイドウ!」

「てめぇにだけはバカとは言われたくねぇ!!」



ぎゃーぎゃーと、月夜の下、二人で喚きたてていた。
元に戻ったのか、はたまた照れ隠しなのか、
だけどそこにあったのは、今まで通りに喧嘩をする二人の姿であった。





そして翌日。


「どけ単細胞」

「はぁ!?お前が避けて通ればいいだろー!?」

「その無駄にデカイ図体と態度が目障りなんだよ」

「っんだとー!?」

「やんのかコラァ!?」



「最近また桃と海堂ケンカするようになったよなー。
 なーんだ、面白くないのー」

「そっか…うまくいったんだ」

「はにゃ?」



不二は何かをわかった風に微笑み、コートの外へ消えていった。
大石は「まったく仕方がないなあ」なんて言いながら
満足げに二人の喧嘩を止めに割って入っていった。

どゆことどゆことー!?と慌てふためく菊丸に
手塚が

「菊丸うるさいぞ、グラウンド10周!」

を言い渡した。


「にゃーんでオレが!ちぇーっ」

「エージ先輩、ご苦労さんっスー」

「桃城、海堂、お前たちは30周だ」

「「はぁ!?」


なんでっすかぁ!!
なんて歯向かって周回数を増やされそうになっている桃城に対し、
海堂はさっさとラケットを片付け走りに向かっていた。


「相変わらず部長は厳しいなー、厳しいよ」


呟きながら海堂に追いついた桃城は、
海堂の横に並ぶとまたちょっかいを出した。


「お前のせいだぞ」

「貴様だ!」


二人がコートから出ようとするとき、
丁度水飲み場から戻ってきた不二とすれ違った。


「あー、今日もアツイねー」


不二は大きく伸びをして、コートに入っていった。
海堂は、それをふと振り返ったが、
桃城は気付かずに「エージ先輩待ってくださーい!」なんて
先に走っていった菊丸を追いかけてる。


…このままで、いいのか。

そんなことはわからないけれど、
久しぶりの喧嘩が少し楽しかったような気がしながら、
海堂は走った。


「お前と喧嘩するとロクなことねーや」

なんて桃城が言ってきても、
「それはこっちの台詞だ」と返すつもりで。






















桃海だけど海桃風味になった!
いいんだ桃海は限りなく海桃海に近いくらいが丁度いい!!

にしても英二ウザイな…
そして大石もいい感じにイラッとくるな…(笑)
不二が最強てことでFA。

タイトルごめんなさい(笑)


2011/08/31