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「あーもうすぐクラス替えかぁ。俺2年7組気に入ってたのに!」


大きく伸びをしながら嘆く俺。
後ろの席で海堂はボソっと返事をする。


「いいじゃねえか、担任嫌いなんだろ」

「まーなー。クソカベいっつも適当だかんなー」


でもクラスのメンバーは好きなんだよ、
と目を合わせて言ったら、
海堂は「フン」と顔を背けた。
ったく、相変わらず素直じゃねーなあ。


「海堂は?どう?クラス分けは」

「……どうもこうもしねぇ」


…海堂らしい返事だこと。
予想通りの返事すぎて気が抜けたくらいだ。

と……。


「まあ…アイツと顔を合わせる頻度が減るなら悪くないかもな…」

「ん?アイツ?」

「…なんでもねぇ」


海堂はフシュウと息を吐いて誤魔化した。
でも、今絶対言った!アイツって絶対言った!!


「何、だれだれ?絶対バラさねーから!」

「なんでもねぇって言ってんだろ!」


海堂がキレたところで、チャイムが鳴った。
俺は自分の席に戻りながら、“アイツ”が誰かを考えた。

海堂は、クラスに仲が良いやつは少ないけど
逆に仲が悪いっていうのも思いつかない。
なんとなーく海堂のことを避けてるなってやつはいるけど、
海堂がそれほどそいつらのことを気にしてるようには見えないし…。
実は失恋した相手がいるとか!?まさかな…。


さーてクソカベのつまらんホームルームが始まるぞっと。
それが終わったら体育だ。っしゃ。


…ん?

体育……?





  **





体育館に今、俺たちはいる。
7組男子、8組男子、総勢31名。


「まずはパス練からやるぞー」


体育教師の声を聞き終わるや否や、
「一緒にやろうぜ」なんていいながら二人ずつバラけていく。
俺も毎度のごとく海堂と組もうと声をかけようと思ったら…。


「おいマムシ、何ガンつけてんだよ!」


威勢の良い声が、聞こえた。
この声は…隣のクラスの、桃城。

そして声をかけた相手が、まさか海堂とは。
そういえばコイツら、テニス部同士だっけ。


「あぁ!?ガンつけてねーよ…それに誰がマムシだ!」

「お前以外誰がいるんだ、マームーシッ」

「!!!」


教室にいるときの海堂と同じだ。
教室にいるときみたいに、不機嫌そうな…

……あれ?


「ざっけんじゃねぇ。てめぇが目障りな位置にいるのが悪い」

「っんだとコラ!」

「あぁ?!」


海堂って、あんなに声張り上げたことあったか?
睨むことはあるけど、牙むき出しになんてするっけか?

無表情な印象はあるけど、じゃあ怒ってるのかと聞かれると…。


いがみ合い。
大声での罵り合い。
周りの目なんて気にすることなく。


…ああ。

俺は、海堂の笑顔を見つけて、
すべてを知った気になっていた。

でも、もしかしたら、本当の海堂はここにいたのかもしれない。


そのとき、わかった。
海堂が言った“アイツ”は、コイツのことだって。


ピピピッ、と笛が鳴って教師が近寄ってきた。


「こらこらお前ら一緒にやるなら喧嘩してないで早く始めろ」

「誰がコイツなんかと!まっさやーん、一緒やろうぜ!」

「あ、ごめんおれ林と」

「何ぃー!!」


そんなことをして、桃城は笑いの中心になり、
別のクラスメイトとわいわいキャッチボールを始めた。

…海堂とは正反対のタイプだな。

と。
海堂と目が合った。


「……」

「やろうぜ!」


気まずそうにしている海堂に、
そ知らぬふりをして俺は声をかけた。
海堂は何も言わずに俺についてきた。

けど、やっぱ気になって。


「仲、良いのな」


途端ピタっと海堂の動きが止まった。


「良くなんかねぇ」

「なんかじゃれてたじゃん」

「じゃれ…!……クサレ縁ってやつだよ」

「ふーん?」


海堂が声を荒げて途中で止めたときは、
図星で言い返せないときだ。
だけどカッとしてる自分に気付いて、すぐに別の言葉で誤魔化す。

ボールを手にした俺らは、
コートの半面反対側に立ってキャッチボールを始める。


「悔しいな」

「は?」

「悔しいっつってんの!」

「なにが!」


一回一回、ボールと一緒に言葉を飛ばす。

離れているもんだから、声は、大きく。


「俺といるときより…ずっといい表情してんじゃん!」


情けない。

カッコワリ。
何俺、男相手にヤキモチとかやいてんの。


ボールは飛びすぎて、壁に当たった。
弾んだボールを取ろうとして、
お互いコートの中心ではち合った。


「…でも俺」

「え?」


小声ながら、海堂は話し出す。



「こういう風に話せるのは、お前くらいだからな…」



海堂が。

デレた。



「それ俺、どう受け止めればいいの?」

「っなこと…!」



言えるか恥ずかしい!
とまでも言い切れず、海堂は顔を背けた。
斜めから見える耳が少し赤いのは、俺の気のせいではないはず。


「…ははっ!」

「笑うな」

「いや、俺嬉しいんだって」


背中をばしばしと叩いた。
嫌がるってわかってたから、わざと顔は覗き込まなかった。


ピピッ、と笛が鳴る。


「ほらそこ、じゃれてないでちゃんとやれ!」

「はーいすんませーん!」


またコートの端と端に分かれて、俺たちはキャッチボールを再開する。
海堂は恥ずかしそうに顔を背けたり下を向いたりしていて、
でもボールだけはまっすぐに飛んできて、
コントロールいいなぁ、なんて心の中で笑った。

表情に出したりなんてしたら、
また海堂怒るだろうからな。



アイツと離れられるなら悪くない、なんて言っていた海堂が、
言葉に出せずに、俺とまた一緒のクラスなら良い、
なーんて思っててくれたらいいな!と俺は思った。

そんなの俺の勝手な妄想なんだけどさ。
ありえない話でもないんじゃないかな、
なんてボールを投げ合いながら思っていたんだ。






















ガチホモのようで友情だよ!友情なんだよ!!!
前作『show me your style』を書いたときから
桃城を交えた続編を書くのは決めてた。
俺の知らない海堂の別の一面、みたいなさ!
だけどまさか8年半越しになるとは思っていなかった。(←)

付き合い方が違うってだけで。
ツンデレのどっち要素が多く出るかってだけで。
両方とも不器用な海堂なりの接し方なんだよってこと。

海堂が、まさか一緒に組もうだなんて思ってないけど、
アイツは誰と組むんかなーなんて
横目で見ていたんだろなと思ったら萌えるよね。(笑)
そして桃は桃でなんだかんだ声かけちゃうあたりがね。
あれ何故か夢なのに桃海語りになってきた!(笑)


2011/06/08