* 告白 -2010 edition- *












「ねえ、そろそろ目星つけたっ?」

「へ、何が?」


それは、3年生に上がって一週間ほど経ったある日のこと。
部活が一緒のちゃんと今年はクラスも一緒になったのだけれど、
そのちゃんはやたら弾んだ声で話しかけてきた。

対して間の抜けた返事をする私に、
かーっとちゃんは頭を掻き毟った。


「男に決まってんじゃん男に!」

「……はぇ?」


決まってんじゃんと言われましても!
ちゃんってばいきなりすぎるよ…。


「な、なに、男って…」

「このクラスのだよ。レベル的にはそこそこかな〜と思うのよね…」

「は、はぁ…」


青学は、クラスが多くて人も多い。
3年目となる今も、まだ顔すら知らない人がたくさんいる。
実際、今年のクラスも7割くらいはそうだった。

だから…一年に一度のクラス替えだけでも
運命的な出会いがあると信じたくなっちゃう、と。
その気持ちもわからないでもないけど…。


「そ、そういうちゃんは?」

「私?ん〜とね…藤田とかどうかと思ってんのよね。
 ちょっとクールなとこが良いしー、顔のレベルそれなりに高いし?
 背も高いし〜、やっぱ運動部ってとこがいいよね!」

「は、はぁ…」


さすがちゃん…。
自分から話ふっといてなんだけど、凄い勢い…。
リサーチがハンパないっス。


「あとあと、近野!同学年の男子に言うのもあれだけど、可愛いよね!
 今のところ恋愛対象としては見れないけど〜…これから伸びるっしょ!
 とりあえず候補に入れておかないとね。それからそれから奥山ってのは」

「わかったわかった!!」


もう。話し出すと止まらないんだから、ちゃんは…。

目の色違うし。気迫に思わず圧倒。
その研究熱心なところには感心するよ。


「もういいの?これからどんどん面白くなってくのに…」

「遠慮しとく」

「ホントに〜?ぶぅー…」


ちゃんはつまらなそうに頬を膨らませた。
(話したいってのもあったのかもな)

しかし、直後にまたぱぁっと笑顔が輝いた。


「で、はお目当ての人いるの?」

「えー…誰も」


せっかく話逸らしたのに、戻ってきちゃったよ。
でも、誰にも興味がないのは本当の話。
別に好きな人とか…いないもんなぁ。

かーっと今度は額に手を当てると、
ちゃんはこっちを向きなおしてまくし立ててきた。


!そんなんじゃいつまで経っても彼氏できないよ!!」

「えー別に欲しいなんて思ってな…」

「そ・れ・が、ダメなんだって!!」


さん、気迫が怖いです…。
そんなに顔近付けないでください…。


本当に私、今恋愛とか興味ないんだよね。
部活三昧の日々だし?
友人関係だって充実してるし?
趣味も遊びもやりたいことはやってるし?
勉強…は、とりあえず置いといて。(…)


私の顔を間近でじーっと見つめていたちゃんは、
へへ〜んと得意げな顔で言ってきた。


「そこでね、恋愛不器用なちゃまのために
 この様が一肌脱ごうってわけ!」

「はぁ…」


それはそれは…ご苦労様です。
よくわからないけど…。


「実はね、あんたのために、似合いそうな男、リサーチしてきちゃったー!」


イェイっ、と楽しそうにピースサインを掲げるちゃん。

でも…え?
それって、なんか余計な期待を私に投げかけてない?
ちょ、ちょっと待ってー!
私期待になんか添えないよー!


ちゃん、私ホントに…」

「まあまあせっかく調べてきたんだからさっ。聞くだけ聞いてみてよ」

「じゃあ、聞いてみるだけ…」


とか、ちょっと乗り気な自分がいるし。
聞くだけになるとは思うけどなぁ。

んっとね、とちゃんは始める。



「大石なんかどうかと思うんだよね!」

「オオイシ?」



えっと…誰だったかな。
まだクラスの人全員把握しきれてなくて…。
(そういう意味ではちゃんは本当にスゴイ)

大石…秀一郎くんだったかな。
名前は覚えてるけど、顔が出てこないや。

首を傾げてる私に、ちゃんは助け舟を出してきた。


「ほら、学級委員だよ!昨日決めたじゃん?んでもってテニス部の…」

「あ、副部長やってる人か!思い出した思い出した」


そういえばそうだった。
ああ、大石くんね。あの爽やかな。
よしこれで覚えた。

でもなんで?


「ね、なんで私に合いそうだって思うの?」

「ほら、って結構とぼけてるじゃん?
 なーんかいつもそそっかしいてか危なっかしいし〜」

「え、えへへ…」


私が笑ってごまかすと、
ちゃんはまっすぐ目を見て話を続けてきた。


「だから、落ち着いてて支えてくれそうな人がいいと思ったの」


なるほど。
さすがちゃん、洞察眼ある…。
私の性格よくわかってる。

私、自分でも思うけど結構抜けてるところあるから、
そういう人と一緒にいると安心する…っていうのはある。

でも…。


「それは当たってるかもしれないけど、
 私元々男子とあんま話さないし
 突然そんなこと言われても、どうしようも…」

「何それ〜!絶対お似合いだってば〜!」


ちゃんは諦めきれない様子だった。
でも私は溜息。

別に、嫌いとか緊張とかいうわけじゃないんだけど、
普段から男子と関わらないような生活してる私が
いきなり、恋愛だとか、そんなところに結びつかないや…。


まだにこにこしてるちゃんは、「でもさでもさ」と話を再開させた。


「大石って案外気さくで話しやすいタイプだよ?
 さっきちょこっと話したんだけどさ。
 もっと生真面目〜かと思ったらそんなことないしさ。
 あと優しいしさ、守ってくれそうなタイプじゃない?」

「そうかなぁ?」

「そうだよ!ま、無理にとは言わないけど。どうかな〜って思っただけ」


話は終わったらしく、ちゃんは満足気に自分の席に戻っていった。

ちゃん、恋バナ好きなんだなぁ…。
私は…ちょっとついていけてないかもなぁ。

恋愛って、まだよくわかんないかも。
恋人とか、いたらいいかな〜とは思うけど、
強いてほしいとは思わないし。

好きな人って、まだよくわかんないや。



でも、間違いなくこの日、私の頭の中に
大石秀一郎という人間は強くインプットされたのでした。




そしてそれから数日後、
事件は起こったのです。



「あ〜、今日日直だ。めんどくさいな…」


机の上に乗った日誌を見て、私は思わず溜息。
日直の仕事って、結構多いんだよね。


日誌は6時間目終わったらまとめて書こ。
ということに決定して、あとは黒板消し、
教室移動の際の消灯、放課後の窓閉めetc.。

はぁ…憂鬱だな。



でも、曜日的には意外と楽な日だったみたい。
実技系の授業が多い上に、
理科は理科室だし英語は喋ってばっかだし、
黒板を使ったのは6時間目の数学だけだった。

授業終わるたびに黒板消すのって面倒なんだよね。
ラッキー!


6時間目が終わった後はホームルームがあって、
掃除がある人は担当の場所へ、
委員会や部活がある人はそこへ向かい、
帰る人は帰る、という流れになる。

ホームルームの間に日誌は書き終えよう。
で、掃除が始まったら、黒板を消そう。
そしたら、今日は部活もないしさっさと帰ろうっと。


「それでは、ホームルームを始めます」


大石くんだ。

毎日のことなのにドキッとしちゃうのは、
変に意識しちゃってるみたい。


「(ちゃんのバカ…)」


ふぅ、と溜息をついて、
大石くんが話すのをぼーっと聞いていた。

確かにしっかりしてそうだし、優しそうだな。
真面目そうに見えるけど、結構気さくって言ってたな。
テニス部副部長っていうから、運動神経もいいのかな。


「それでは、今日のホームルームは以上です。起立!」


号令に合わせて立ち上がって、礼をした。
今日も一日が終わった。
みんなバラバラと散らばりだす。
さて、私も黒板消して帰ろう。

…って日誌書いてないじゃん!
ぼーっとしてたらホームルーム終わっちゃったよ!

ああもう何やってるの…。


「おい、今日の日直誰だ?」

「あ、はい」

か。この箱を職員室まで持ってきてくれないか」

「はい、わかりましたー」


えー仕事増えちゃったよ。
これだから日直は嫌だよね…。

先生の後をピコピコとついて職員室まで行った。


さておつかいは終了したぞ、
と思ったのに、先生に新しいクラスの感想を聞かれ、
国語の先生に文学の良さを語られ、
教頭先生に名前と学年を聞かれて微笑まれ、
なんてやっているうちに余分な時間がかかってしまった。


「もう、先生たちったら…」


教室に戻ったらすっかり掃除は終わっていた。
早く日誌を書いて、黒板消して帰ろう。

掃除の人達も黒板くらい消してくれればいいのに薄情だなー。
なんて思いながら日誌を書いていた。

一人の教室は、静かだなー…。


「終わった。じゃあ後は…と」


教室の前に向かう。
日付を明日に進めて、次の人の名前に直す。
あとはこの数学の式さえ消してしまえば、私の仕事はおしまい!

しかし。


「上の方届かないし…」


消し始めて10秒、私は固まった。

なんで、なんでなんで!?
確かに私は背が低いけどさ、
私より背が低い人なんてもっといるのに
そういう人のことを考えて設計してよ…もう。


「えい!とりゃっ!」


仕方なく、私はぴょんぴょん飛び跳ねながら黒板を消した。
でも、上の方がなかなか消しきれない。


「う〜…」


ちょっとふてくされてきた、その時。



「大丈夫かい?」

「はぇ!?」



廊下の方から投げかけられた声に、
心臓が飛び出るほど驚いた。

だってこの声は…。



「お、大石くん!」



そう、なんと大石くんだった。


「ど、どうしてここに!?」

「向こうの教室で学級委員会やってたんだよ」


そう言いながら、テニスバッグと思われる荷物を掴むと、
こっちに歩み寄ってきた。

まさか、まだ人が残ってただなんて、驚いた。


でも、本当に驚いただけ?

心臓がドキドキする他に、
どうして顔が熱くなるの…?


「貸して」

「あ、うん」


私のすぐ横まで来た大石くんは、黒板消しを受け取ると
いとも簡単に黒板を隅々まで消してくれた。


「はい、終わり」

「あ、ありがとう…」


予想外の展開に、放心状態に陥る私。

こんな近くに来たの、初めてかも。
背、高いな。


思わずぽーっとしていると、
大石くんはくすくすと笑い出した。


「ど、どうしたの?」

「いや、実はさ…黙ってたけど」


大石くんは黒板の下についてるレバーを掴むと、
黒板を上下にスライドして見せた。

ほぇ!?


「この黒板、高さ調節できるんだよね」

「うそ〜!」


何それ、恥ずかしすぎるっ!
そ、そんなハイテクな黒板だったとは…。
そういえば2年生までの教室とは造りが違うと思ったら、
黒板まで違ったんだ!
なんで今まで気付かなかったんだろう!?


「もう、どうしてもっと早く言ってくれなかったの!」


恥ずかしさの余り、大石くんに突っかかる私。
顔が真っ赤なのはわかってた。
それが余計に恥ずかしかった。

大石くんは、やっぱり笑いながら答える。


「いや、さんあんまりに可愛かったから……あ」

「あ」


今、なんと…!?

動揺の余りに、私も釣られて「あ」とか言っちゃうし!
え、え、ちょっと待って。

でも、確かに今、大石くんは言った。


「今、なんて…?」

「いや……その…」


大石くんの顔も、赤くなってきた。

私たち二人、今、赤い。


その顔を覆うように手を口元に持っていった大石くんは、
さっきよりも少し小さな声になって、言ってきた。



「実は、さんのこと、前から可愛いなって…」

「―――」



開いた口が塞がらない私。

文字通り、ポカンと口を開けたまま、
私はずるりと床に座り込んだ。


「あっ、ゴメン!突然こんなこと…」


大石くんは焦って私の前にしゃがみ込んだ。
一瞬意識が遠退きそうになるのを感じた。

固まったままの私を見て大石くんは
どうしようかとあたふたしている。
私は首を横に振った。


そっか、ちゃん。
わかったよ。

人を好きになるって、こういうことなんだね?


心臓がバクバクいって死にそうだった。
でも、勢いに任せて言った。


「ありがとう。…あのさ、大石くん。私、きっと、大石くんのこと…」


手に、ぎゅっと力をこめた。



「スキ、です」



ついこの間まで、
好きな人ができたことすらなかったのに。
あなたが誰かなんて、数日前まで知らなかったのに。

でも、私は間違いなく大石くんに、恋をしました。
“きっと”が、確信に変わったのは、自分の口が動いた後。


「…先に言われちゃったな」


大石くんは頭に手を当てて、
ばつが悪そうだったけれど、

「俺も好きだよ」

と言ってくれた。


地面にしゃがみ込んだままの私たち。
大石くんは、少しためらっていたけれど、
私の肩に手を乗せると、軽く引き寄せた。

温かかった。
温かくて、広い。
とても幸せだって思えた。


ちゃんにはなんて言おっかな。
まさかこんなことになるだなんて、
もしかして、ちゃんにも想像ついてないんじゃないかな?

でも、感謝しなきゃね。
あの話がなければ、この展開はなかっただろうから。

あれ、それとももしかして、
ちゃんにはわかっていたのかな…?


ふと気になって、

「いつから、私のこと好きだったの」

と聞いてみた。
そしたら大石くんは、

「始業式の日」

と照れくさそうに言った。
もしかして、一目惚れってやつかな?(なんと!)


そしたら当然向こうから

「じゃあさんはいつからなんだい」

って聞かれるわけで、
だから私は言ってやった。


「今日から」


大石くんは目をぱちくりとさせてた。
私はあははと笑った。



そうして私たちは、付き合うことになった。
ちょっと前の私からは信じられなかった。
でも、これが現実。

告白から始まる、
そんな恋があったって良いよね…?






















8年前に書いた作品のリバイバル!
昔の作品を今の作風で書き直したらどうなるかな、
っていうのを前からやってみたくて、
これをターゲットにしてみました。
いやぁ昔書いたものは展開がハチャメチャで参りますなw
これでも大分修正したんだけれどもww

多分友人は、大石の気持ちをさっさと見抜いて
くっつけてやろうって思ったんだと思うよ。(笑)
本文中でも主人公は若干気付きかけてるけどネ。

私の大石好き暦も8年突破ってことか。フ。


2010/05/11