…ありえねぇ。



…」

「おお、いし…」


ハァ、ハァ、と。

一定の間隔で吐息が響く、この部屋の中。



オレは、クラスメイトである親友に襲われた。











  * 俺は男で、お前は友で。 *












昼間まで、普通だったんだぜ?
ていうか、その直前まで普通だったんだ。
向こうがまさかそんなこと考えてるだなんて、
微塵にも思ってなかったんだから。


「大石ー、今日部活ないんだろ?うち来いよ」


そういって軽い気持ちで誘った。

部活になると大石は菊丸と仲良いんだろうけど、
クラスだとオレが一番仲良いんだぜ?


大石は、一瞬驚いた風な顔をした。
え、オレなんか変なこと言ったっけか…
誘ったのそんなに突然だったか?


「ど、どうした?」

「いや、お邪魔させてもらうよ」


直後に笑ったから、オレはそれ以上気にかけなかった。


まさか、あんなことになるだなんて。





  **





「オレお前んち行ったことあるけど、オレんち来るの初めてだろ?」


美登里ちゃん元気か?とオレは聞く。
(大石には妹がいるんだ。)


「あ、そうだな」


表情を翳らしていた大石は、焦ったように笑顔を作った。
どうしたんだ…?

まあいいか。


「両親共働きだから誰も居ないんだ」

「お邪魔します」


話してるうちにあっという間に家に着いた。
大石は礼儀正しく靴を揃えるとうちに上がった。


「狭いし散らかってるけど許せよ」


荒れ放題の部屋に案内すると、
適当に荷物を置いて座るように促した。

しかし、さっきから大石元気ないな…。



暫く雑談をした。
でも、何故か大石の表情が硬い。
オレが話を振ると相槌は打ってくれるけど、
向こうからは話題を出してこない。

こんなに喋らないやつだっけか、大石。
なんか、違う。
学校で見る、教室で見る大石と違う。


「………」


……沈黙。
なんなんだよ…。

ふぅ、と溜息をつく。
こんな雰囲気はさすがにごめんだった。
BGMでも流すかな。


「CDでもかけようか。大石普段どんなん聞くの?」


がさごそとCDラックを漁る。
整理なんてされてないから順番がめちゃくちゃだ。


「な、おおい……?」


振り返った。
そこに居た大石は、いつもとは違う表情をしていた。


「大石…?」




なんだよ。

微妙にだけど、緊張している自分が居た。
表向きは動揺なんて見せずに平常を装ってるけど、
オカシイ。こいつ絶対オカシイ。
うつろな目でこっちを見てくる。


だから、オレは大石のことを睨む。
場合によってはぶん殴る覚悟もできてる。
大石の方が背が高いけど、
オレのほうが体重あるんだぜ?

変な想像をしてみる。
大石は、死神に意識を乗っ取られてるんだ。
そして、オレのことを殺そうとしてくる。
しかしオレが一発パンチを入れ、
肩を掴んで説得に掛かると、
はっと我に返る…って、これは漫画の読みすぎか。

っていうか本当にどうしたんだよ、大石。


オレが口を開いて何か言おうとしたまさにそのとき、
立て膝になった大石が一歩にじり寄ってきた。

そして、オレの肩に手を伸ばし…っ?


…」

「うわっ、ちょ、大石!?」


く、食われる?!


そんな面白い言葉が頭に浮かんだ。
だけど面白くもなんともない。寧ろ恐怖。


ちょっと待て。
ちょっと待てちょっと待て。落ち着け!
オレもお前も、ちょっとオチツケ!!

心の中でいくら叫んでも、相手に伝わる様子がない。


オレはそのまま無理矢理押し倒された。
掴まれていた両肩が、どんと地面に押し付けられる。
背中の全面も同時に地面に打ち付け、呼吸が一瞬詰まる。


「ぐっ……大石、落ち着け……っ!!」


腕は動かすことができない。
オレは顔を横に逸らしたまま、
なんとか肩を押し付けている腕を払おうとした。

こんな細い腕しといて…なんでそんなに力があんだよ!!

怒りたくなるほどだった。
これが運動部と帰宅部の違いってやつかもしれない。
左手だったら、オレ、大石に腕相撲勝てるんだけど。

それどころじゃない。
この体制といい、圧倒的に、不利。

このままじゃ……マズイ。


悪ぃ、大石っ!



思いっきり。

膝で、中心めがけて……蹴った。



「(うわー痛ぇーうわーうわー!!)」



自分でやっておきながら同情。
だって、仕方無かったんだって!
オレ、さすがに男に食われて童貞失いたくねーよ!
(それとも処女っていうのか?)(…バカな)


大石はうずくまったまま起き上がってこない。
ちょっと、やりすぎたか…?



「あの…オオイシ……」



うん。確かにアレは痛かったよ。
オレも悪いと思ってるよ。
だけど…仕方がなかったんだって、な?

大石…。



「……?」



うずくまった大石は、なかなか動かない。

まあ、こういう時の男っていうのは
情けない体制のまま動けないもんなんだけど。そうだけど。
それにしても、おかしくないか…?
いい加減に動きを見せても、いいと思うんだけど。


なぁ、大石…

どうしちゃったんだよ、お前。



「大石…?」



大石の肩を、そっと揺すった。

その時。



「……いっ!?」



また。

大石は突然顔を上げると、
オレのことをまた地面に押し倒した。

これは俗に言う“恋人同士、憧れの体制!”ってやつだ。
バックに真っ白なシーツがあると更に良いんだけどな。

しかしおかしい。
オレはこっち側に居る予定はどこにもなかった。
こんなことになるなんて念頭にも。


今度は、大石はオレの肩を押し付けようとはしなかった。
オレの顔の横に片手ずつついているだけで、
力でねじ伏せてきたりなんか、しなかった。

だけどオレは動けなかった。
動けなかったんだ。

覗き込んでくる目が、余りにもまっすぐで。



ハァ…ハァ…ハァ…。

息遣いが、荒い。


これは、大石のもの?
それとも、オレのもの?

声が重なり合って。

どこまでも。



「おおいし…」



どうしちまったってんだよ…。




ワケが分からなかった。
けど、その体制はイヤだった。
オレはゆっくりと体を起こしてみた。
地面に押し付けられる様子は、なかった。

オレは尻餅をついたような体制で、
大石は正座をしたまま下を俯くような形になった。


大石……。




「嫌われる覚悟で……言う」



長い沈黙を破ったのは、大石。
久しぶりに聞いた、大石の声だった。



「俺は…」



ぎゅっと、
大石が拳を強く握ったのが分かった。




「お前に……恋愛感情を、抱いている……っ!」




え………?

だって、オレとお前は、親友で。
オレは、男で。お前も、男で。同性なわけで。
てことはだ。

アレか。
お前はホモか。
しかも笑えないレベルでか。



大石は、顔を上げない。

泣いて…るのか?
それはない、にしても、
顔を合わせることができないのだろう。


大石…。



「あの、大石…」

「………」

「オレ別に、お前のこと軽蔑したり、しないから」



…無言。
ぴくりとも動かなかった。



「でもさ、あの、同性愛否定とか肯定とか、
 そういうんじゃなくって……ゴメン」



返事は、決まっていた。




「オレはお前のこと、そういう風に見れない」




はっきりとした、答えを出したつもりだった。
今も、この先も、そのつもりはないと。
だけど友達としてだったら、
今まで通りお前とは仲良くしていきたいと、そう伝えたつもりだった。

しかし伝わっていないのか、
もしくは、それを振り切るほどのものなのか。



「ごめん。俺も、無理だ」


「え?」



大石の返事は、また予想外のもので。



…」

「あ、ちょ、やめろ……あっ!」


教室でおふざけの絡み合いだったら、笑い飛ばすところ。
男同士の取っ組み合いでの急所狙いなんて日常茶飯事。
殴りゃあ痛いし危ないの知ってるけど、
ちょっと触ってやる程度のいたずら、みんなするだろ?

そうだったら、笑い飛ばすんだけどなぁ。
ふざけんな、オレ。
何感じちゃったみたいな声出してんの。
いつもだったら笑えてただろ。


でも……。

大石の、手が、
止め処なく、オレの中心を、まさぐる。
さわさわと、もどかしいほどの刺激を与え続ける。

片方の腕は、後ろに倒れそうになる俺の体を支え、
もう片方の腕は大石の片手に止められている。
なすがままに、オレは大石に、触られている。


落ち着け、オレ。
相手は男だぞ?
クラスメイトで親友でもある、大石だぞ?

頼むから…

「ぁ、……あっ!」

反応、すんな。


……っくしょ。
勃ってきた…。



大石はもう気付いているだろう。
オレの中心部は、少しずつ熱と硬さを帯びてきている。

大石の手がオレのジッパーに伸びてきた。
オレは暴れた。


「お前!ふざけんな!やめろ!!!」


全身使っての抵抗。
それでも大石は、無視しているのか聞こえていないのか、
…………」と、
オレの名を繰り返し呼ぶと、オレの抵抗も虚しく
ジッパーを下まで下ろしてくれちゃいやがった。



「ざ……っけんな」



オレは腕で目を隠す。
許せなかった。

大石が、ではなくて、
反応してしまっている情けない自分自身を目の当たりにすることが。

しかしそこは確実に、力強く、
立ち上がって己の存在を主張していた。


しかもここからが、男の辛いサガってやつだ。
一回反応したソコは、例え状況がこんなであったとしても、
湧き出てくるものを放りたくてしょうがなくなる。



「オレ、ちょっとトイレ…」

「待て」



立ち上がろうとしても、腕を捕まれる。


「オレがやる」


もう、何がなんだか分からない。



オレは、立ったまま。
大石はオレの前に膝立ちの状態で、
オレの…ペニスを下着から取り出して、しゃぶった。

声が漏れそうになるのを、必死にかみ殺した。


男だし。人間だし。
本能だから仕方がないとは思うのだけれど、
頭では抵抗しても…体が受け入れてしまう。

寧ろ欲してしまう。
もっと。もっと。


「くっ……」


男、だから。
どこが感じる部分だと分かっているとでもいうのか。
大石は、オレの弱い部分を執拗に攻めてきた。


こういっちゃなんだけど、キモチイ。

っつーか、早く出してぇ。



やっべぇ。
限界。



オレは、ギンギンに立ち上がった自身を咥えたままの
大石の頭を両手でつかむと、激しく前後に揺すった。
それでも大石は手の動きを止めない。口も離さない。

気付いた
自分の息が荒い。



「う、出……っ!」



脳内、スパーク。


直後……妙に冷静になった。




うーわ。
オレ大石にしゃぶらせた上に口内射精。

おいおいおい…ねーよ。







「お前……」

「ん?」

「フェラうめーな…どこで学んだんだ!」



大石は顔を赤くして「やめてくれ」と額を手で覆った。
オレは、吹き飛ばすように声を出して笑った。


笑ったら、笑いすぎて、
泣きたくなった。



「大石…今日は、帰れよ」

「…ああ、そうする」



ゆっくりと、大石は立ち上がった。
無言のまま荷物を拾うと、玄関へと向かった。



――明日から、どうやって過ごせばいいのだろう?


今はこうして話しているけれど、
一回離れてからまた会うときって、
事が起きた直後よりも気まずかったりする。

大石に避けられたりするかな。
オレの方がよそよそしくなっちゃったりするかな。

大石がオレを諦めるまでこのまま?
もしかしてオレがそっちに目覚めちゃうかも!?


わかんね。
今はなーんもワカンネ。


それでも明日は来る。



今までのオレらは、きっと、
部屋で事件が起きる前後で分かれているわけではない。
オレが思うには、今、ココが、分岐点だ。

さあ、明日のオレらは、どうなっているんだろうか?



「大石、また明日な」

「ああ……ごめんな」



申し訳なさそうに手を上げる大石を見て、
明日からが不安な反面、
流れに身を任せるっていうのもいいな、なんて、
オレはどことなく楽しみにしていた。


でも、オレはホモじゃねーぞ!

なんて、脳内で全力で否定しながら。






















やっちまった!(笑)
BLドリームならやったことあるけど、
リアルなガチホモを書いたのは初。
といってもちゃんとなってたかわからんが…。

書き上げるのに5年掛かった件wwwwww
でも楽しかった。笑

大石よくすんなり帰れたな…色んな意味で。(ぁ


2010/05/01