「好きです」


「―――」



告られた。

オレが。


しかも相手は、クラスのマドンナのだぜ?











  * 釣り合えるものなら *












ハァ。

溜息交じりに息をついて、自席につく。
お昼休みも終わって、あとは5時間目が終われば部活だ。


いつもは昼休みといえば校庭で走り回ってるオレだもんだから、
隣の席の女子が「あれ今日は学ラン脱いでない」なんて茶化してくる。
まさか、オレが呼び出されてたなんて気付いてないだろうけど。

だって…なぁ?
想像つかないだろ?

このオレがだぜ。
女っ気まったくない、そっち方面には全く冴えないオレが。


まさかマドンナに告られるとは…。



ちらりとその人物を見た。
何事もなかったかのように、友達と談笑をしている。

動揺してるのはオレばっかってことか?


頭を抱えていたら、教師が入ってきた。午後の授業の始まりだ。



のことは…別に嫌いじゃないし、
っていうか、寧ろ好きだったかもしれない。
告白されたから余計に意識し始めたってのも正直あるけど。
どちらにしろ、どう少なめに見積もっても、
気になってたってことは確かなんだ。

だって、といえば…

頭良し。(成績表が5ばっからしい。俺は体育以外で見たことない)
ピアノ弾ける。(よく合唱の伴奏とかやっててかっこいい)
スタイル良し。(166cmあるらしい。ま、負けてる…)
学級委員。(人の上に立てる器ってやつ)
料理できる。(調理実習のあとは周りに男子が群がる)
絵が上手い。(美術部のホープらしい)
歌が上手い。(伴奏やってなかったらソロに推薦されてるだろう)
英語ペラペラ。(小さいころから英会話やってたらしい)

それに…美人だし。

それでいてお高い感じじゃなくて、
割と懐っこい笑顔を見せたりする。

そんなやつに、好きだ、とか言われて…。
意識しない男なんてきっとほとんどいない。


でも…オレとが、付き合う!?
そんなことありえていいのか?



考えていたら、授業は終わっていた。

一瞬と目が合った気がしたけど、すぐに逸らされた。





  **





掃除も終わって、部活の時間。
テニスコートへの、近道を通ろうとしたとき…。


「なぁ知ってるか、ここだけの話なんだけどよ」

「ん、どうした?」


ここだけの話。
その言葉を聞きつけて俺は咄嗟に陰に隠れた。
すると。


「今日さ、見ちまったんだよ。が神尾に告白してんの」

「そ、マジで?」


マジで。
オレのことじゃん。
つーか見られてたのかよ…。
(まあ、中屋上なんて隠れてて隠れてないようなもんだし)


「あーぁ。オレ狙ってたのに。のこと」

「お前もかよ。オレもだし」

「マジ?いえよ」

「そっちこそ」


大爆笑しているクラスメイトの声。

なんだよ。
こんなにいたんだ。
人気が出るのもわかるけど、まさかここまで。


「で、神尾はOKしたの?」

「いや、多分してない」

「ウソ、アイツ断ったの?」

「そうじゃなくて。どうも先延ばしにしてたっぽい」

「あーそういうこと」


一瞬の間があって。


「どう思う?付き合うかな、アイツら」

「どうだろうな」

「あの二人が腕組んでるのとか想像つかねー」

「神尾の方が背低いしな」


ムカ。
それぐらい分かってるよ。
これから伸びるつもりだしよ!


一言申し出てやろうか。
そして宣言してしまえ、付き合うよって。

いやむしろ、付き合うことになったっていっちまえばいい。
そんでこれから本人にOKの連絡を入れればいいんだ


と、思ったら。


「でもよ、身長とかでなくて…」

「ああ。ふつうにあの二人ってあんまり釣りあわなさそうだよな」

「高嶺の花ってヤツ?」

「まぁ、傷心したやつらの戯言かもしれないけどな」


そして、品のないバカ笑い。



―――…そうだよな。

オレって、本当に冴えないやつだもんな。


にはふざけて言われておちょくられてた…とか、ないよな。

じゃあなんで。



オレがより勝ってるものって、何?

与えてやれるものなんて、果たしてあるのか?




………無い。

ダメだ。


オレのキャパシティを超えている。



とても、オレに支えきれる人物じゃ、ない。





…告白されたから気になりだしたってのが大きいだけで、
元々、そんなに好きじゃなかったし。
気になってはいたんだけど。
まあ、それだけといえばそれだけで。



オレは急いで教室に引き返した。

アイツのことだから、
まだ教室に居るかもしれない。


……居た。


丁度、日誌をパタンと閉じる瞬間だった。
オレの顔を見るなり、
「か、神尾!?」と
驚いた声を上げは立ち上がった。


こんな動揺してる、普段は見れない。
オレのことを好きだっていうのは、本当なんだな…。

なんだか、心が少し痛んだ。



「あの、さっきのことなんだけど…」



ここまでしおらしいを見るのは本当に珍しいことで、
そうでなくともなのに、心臓がバクバク言い出しちまって拉致があかねぇ。

首を俯いたまま視線を向けられた。
ちょっと、上目遣いになっている。
ドキッとした。


「考えて…くれた?」


ごくん。
潤んだ瞳で見てくる。
小動物のように。
体は大きいのに、気だけは小さいようで、
オレは一瞬どう対応をすればいいのかわかっていなかった。


でも、答えた。



「オレ、考えたんだ。でも…」


「待って!」



――――。


ストップをかけられた。


「神尾、私のこと嫌い?」

「嫌いじゃねーけど」


むしろ、好きかもしんねーけど。
とは口に出さずにいた、ら。


「私、なんでもする!どうすればいい?
 どうすれば神尾の理想に近づける?
 もしかして好きな子いるの?」


驚くような勢いではまくし立ててきた。
と思ったら、また突然しおらしくなって。



「私…どうすれば……」



プチン。

何かが切れた音がした。


別に、怒ったわけじゃなかったんだけど。
だって、どうすれば理想に近づけるか?どこを直せば?
冗談じゃない。



にオレは高すぎるんだ!」

「え…?」



意味をわかったのかわからないのか、は俯いた。

なんだか泣きそうになった。
なんだろ、どの感情が一番近い?

悲しい辛い痛い悔しい……クヤシイ ?


オレ、悔しいんかな。



「じゃあ、少しだけ話をさせて」



相変わらずのしっかり者口調で、は話を始めた。



「なんで私が神尾を好きになったかっていうと…なんでだろね」



さっそくオレはずっこけた。
は続ける。


「授業中寝てるし。背は私より低いし。掃除サボるし。給食つまみ食いするし」


う……。
否定できない…。
オレは大変居づらい気持ちになったけど、
が単にオレの悪口を言いたいわけではないのを分かっていた。

ていうか、こんなに、見られてたんだな…。



「そんななのにね、部活には本当に一生懸命でしょ?」

「あ、ああ…」

「そこに、惹かれたんだ」



は、柔らかく笑った。
その笑顔を、すごく…良いと思った。

でもほだされちゃいけないんだと思った。


「確かにオレは部活人間だけど、の方がさ、
 勉強も音楽もなんだってできんじゃん。人気者だし」


言うと、は首を振った。


「私なんて、親に言われるがまま。
 自分の意思でやってる神尾を尊敬する」


好きなことを見つけて打ち込めるっていうのが、凄いよ。

はそう言った。
オレにはイマイチわからなかった
やっぱりの方がずっと凄いと思った。


でも、一つわかったことがあった。



オレにも、に与えられるものは、あるんだな?




「じゃ、オレからのお願い」

「え、なに?」



苦笑に近かったかもしれない。
でも、オレなりの柔らかい笑顔でもあったと思う。


「あんまり頑張りすぎないでくれ。な?」


そういうと、は満面の笑みになった。


「わかった。
 がんばって、頑張らないようにする!」



そして、二人で爆笑した。



釣り合っていなくてもいいって思えるようになった。


もしかしたら、周りに色々言われるかもしれない。
オレだけじゃなくて、が貶されることもあるかもわからない。
でも、いいんだ。

そんで、はお前らが思ってるようなやつじゃねぇ、って言ってやる。
ま、俺が言えた口じゃないけどな。


自分にしかないものがあるって分かった。
それを見つけてくれて、ありがとう。





「ん?」



オレは、意を決した。






 「付き合おうぜっ!」






















爽やか少年っぽく終わってみた。
もしかして、セリフで終わるってすごく珍しい?

5年くらい前にメモ書きしてあったのから書き起こしw


2010/03/04