“見ているだけで幸せなのに

 見られていたいと願ってしまう”


“形があるだけで嬉しいのに

 唯一つになる想像をする”



好き


って言って



「ありがと」

でも


「ごめん」

でも



私はきっと泣いてしまう気がするよ。











  * Can't even cry *












「おはよー!」


元気な挨拶で、今日も3年6組での話が始まる。
教室の入り口付近でおしゃべりをしていたクラスメイトたちは、
「おはよう」「おはよー」と同じく返事をしてくる。

自分の席へ向かうと、声が掛かる。


「おはよー!」

「おっはよ〜」


その元気よく挨拶してきたのは、菊こと菊丸英二。
男子の中では割と話しやすいタイプ。


「昨日の夜やってたモノマネ見た?」

「えー見てないー」

「見とけよー、最高だったんだぜ!」

「マジで」


話しながら、あたりをちらりとぐるりと見回す。

彼は…まだ来てないな。
そっか、今日は朝練がない日だから
二人は朝から一緒ってわけじゃないんだ。

そのうちくるかなー…。
そんなに早くに来るタイプでもないけれど、
決して遅刻はしない彼だから。

来ないかなー、来ないかなー。
早く見たいなー。会いたいなー。
お話がしたいなー。


と、菊の視線が教室の入り口に注がれた。



「おー、おはよう不二!」

「おはよ、英二」


「!」



……来たっっ!


ほら、大きく息を吸って。
くるりと後ろを振り返るのよ。
そうしたら目が合うから、にこっと微笑んで
「おはよう」って可愛く言うの。
そうしたら、自然と会話が広がるから。
さあ、さあ!


さあ!


さあ!!!!



……ああもうタイミングを逃したぁぁ
今振り返ったら微妙だよでもスルーするのもあああああ!!!


でも顔は見たいし、
ちらりと見るだけでも……


……あ。

目が合っちゃった。



「…ども」


しかも、会釈。



何やってるの私!!!!!
「ども」じゃないでしょ!小声だし!!


本当は、もっと大きな声で挨拶したいのに。
本当は、もっと可愛く話しかけたいのに。
本当は、もっと近くに居たいのに。


にこりと柔らかく笑うと、「おはよ」と言って
不二は自分の席へ向かった。


……好き。



「なーなー、不二はモノマネ見たー?」

「んーん、昨日の夜は水戸黄門の再放送の録画を見てたよ」

「シブーイ。ってかおっさんじゃん?」

「英二」


くすくす、って笑ってた。
その柔らかな笑い方が、好き。
手を口元に持ってくる仕草も。
華奢だけど骨ばった体つきとか。
声とか。
表情とか。
……全部好き。

悪いところだって知ってるよ?
この人、実はすっごい腹黒い。
しかも案外気付かれてないけど自己中。
気付かれてないように動く計算高さがなんとも。


…そういうところ知ってても、好き。
あばたもえくぼ?

そういうの全部ひっくるめて、不二なんだもん。


ダイスキ。



向こうは、こっちのことなんてなんとも思っちゃいないんだろうけど。





  **





「相変わらずモテるよねー」



一時間目が終わっての休み時間。
突然かけられた言葉に、はっとした。

気付けば私は、不二のことをじーっと見てた。
女の子に囲まれている、不二のことを。

私の親友であり、私の好きな人を唯一知ってる人物、は、
苦笑交じりで私の隣の席を借りて腰掛けた。


「それにしても、もとんでもない人好きになったよね」


そう。
不二周助は、クラス一…むしろ、学校一モテる男だ。

なんでよりによって、そんな人を好きになってしまったんだろう。
いや。
どうして私が好きになった人が、そんな人なんだろう。
いや。

私もその他大勢の中の、一人でしかないんだよね…。


それでも好き。
彼にとって私は特別じゃなくったって、
私にとって彼は、何よりも、特別。



見ていると、幸せなはずなのに、苦しい。

視界に入るだけで幸せ。
視界に入れると、他の子も一杯見えてしまうから、苦しい。

このジレンマを、どうする?




めいっぱいの幸せを手に入れたいなんていわない。
だけど、ちょっとでいいから、
この苦しさを緩和したいって思っちゃう。

弱い私。
逃げ道を探してる。


それでも追いかけちゃう。好きだから。



「ほんと。もっとモテてない人好きになれたら平和だったかな」



そんなこと言って、笑った。
笑ってる場合なんかじゃ、ないのに。ホント。



「なぁーんの話?」

「あ、菊」


突然話に割り込んできた。
その顔をじっと見つめると「なに…」とたじろいだ。


「こう見えて菊もモテるんだよねー。
 なんでだろ。こんなのが」

「あ、今オレのことバカにしたなっ!?」


ぎゃーぎゃーと言い合いの軽いケンカ。
結構楽しかったりもする。

だけどね、実は、
こうやって騒いでいればそのうち彼の視界に私が留まらないかな、
なんてそんな期待も紛れていたりして。

ずるいよね。

ちょっとでもいいから、どんなことでもいいから、
特別にしてほしいよ。


たった一人に選んでくれなんていわないからさ、
その他大勢じゃなくて、私として、私のことを見てほしいの。

それだけ。ずるいけど、それだけ。


それだけだから、もっと近付けたらいいのになぁ。





  **





学校帰り。
偶然寄ったCDショップで、
好きな歌手の限定生産版のアルバムを見つけた。
内容は同じだけど、ジャケットが違うの。
初回限定ってやつ。
まだ売ってたんだー…。


「あれ、さん」


え?

後ろから掛かったその声は、なんと、


「……不二!」


そう、不二周助だった。


不二は、なんの不思議もなく私の横に並んだ。


「聴くんだ、この歌手」

「う、うん!前から大好きで…」

「そうなんだ」


一瞬間をおいてCDを私の手からスッと取ると、
また今日の朝みたいに柔らかに笑って、言った。


「僕も」



……もし、その前後5秒だけの会話を聞いていたら、
なんだか、告白していたみたいな。
ちょっと思い上がりだけど。

ドキドキして。


放課後、不二と二人でCDショップで
お互い好きな歌手について語り合うなんて。

まさかこんなこと。



不二はCDジャケットの裏面に手を這わせると、
一つの行に指先を当てた。


「僕が一番好きなのはこの曲…『Can't even cry』」



……ウソ。


「私も!私もその歌が一番好きなの」

「本当に?」


だって、だってだって…
その歌詞が、まるで、

アナタを思うワタシの気持ちみたいで。


不二はまた、微笑む。


「結構気が合うみたいだね」


そう言った。


そりゃあ、ね?
ここにいたのが例えば私じゃなくて、別の子で、
その子がこの歌手を好きだったとして。
そうしたら同じことを言ったんだと思うよ、不二は。

でも、それが、私だったわけで。

私に言ってくれたわけで。


「ラジオも聴いてる?」

「うん!毎週欠かさず…」

「いいよね、アレ。少し時間が遅いのが玉に瑕だけど」


どきん。どきん。


「そういえば、今夜だね」


ドクン。


目が合った。



柔らかな笑顔が、そこにあって。

こんな話を、二人で。



どうしよう。

心臓破裂しそう。



「これ、買うの?」

「あ、どうしよっかな。そうしようかな」


はい、とまた差し渡してきた。
どうしよう、これ、宝物だわ…。


「でも…僕そのCD持ってるからよかったら貸すけど?」

「あっ、私も持ってるんだけど、この初回限定のが欲しくて…」


あはは、と笑ったけど、ヤダ、
変なオタクみたいに思われたかな…
と心配になって不二の顔を見たけど、
やっぱり、微笑んでた。


「そっか。よっぽど、好きなんだね」



―――――。


…うん。



「ダイスキ」





何もわかってないからだろうね。
不二は、笑った。

わかっていても、笑っただろうけど。この人のことだし。


そんなところも含めて、好き。よっぽどのほど、大好き。





  **





翌日。


「おはよー菊!」

「おっ元気いっぱいじゃーん!どしたの?」

「えー?えへへ。なんも〜」


とかいいつつ、明らか上機嫌な私。


今日はね、昨日と、全然気持ちが違うよ。
景色まで明るく見える。


ガラ、と教室の扉が開く音がした。
振り返る。

来たっ!


「おはよっ、不二」

「おはようさん」


たたっと小走りで歩み寄る。


「昨日の、聴いた?」

「聴いたよ」

「流れたよね、『Can't even cry』。私びっくりしちゃった!」


あ……
ちょっとはしゃぎすぎか、私。
昨日までから態度豹変しすぎ!?

そんな心配を裏腹に、
不二は柔らかく笑う。


「僕も驚いた」

って。


………悩殺。
大好きすぎて。

死ぬ。



「え、お前らいつの間に仲良かったっけ?」


きょろきょろと私たちの顔を見回す菊。
不二は、「前からだけど?」なんて言った。

嘘だー。
用事以外のことでまともに話したのなんて、
昨日が始めてぐらいだったのに。

くすくすと私は笑う。
菊は「意味ワカンネー…」と不満そうだった。

楽しかった。



ちょっとだけね、アナタの特別に近づけたかな、って。
まだ入らなくてもいいけど、近づけたかな…ってさ。





  **




「ありがと、これ探してもなかなか売ってなくてさ」

「当時まだ流行ってなかったから生産数少ないんだよね」

「じゃあ、今度返すね」


シングルを片手に掲げて、不二は去っていった。
なんていう至福の時…CD買ってて良かった…。

不二がいなくなるのとすれ違いで菊が話しかけてきた。


「お前ら最近本っ当に仲良くなったよなー…」

「そうかもねー」


同じ歌手が好きってだけですごい発展だわ。
自分でもびっくりしてる。
最近、不二の取りまきの視線が怖いくらいだもん。


「てか、性格変わった?明るくない?」

「酷いなー私がまるで根暗みたいじゃん」

「そんなこと言ってないけど!」


やんやと騒いでいると、も登校してきた。
おはようと軽く挨拶する横で、菊がなんか力説してる。


「最近の、すっごいキラキラしてるもん!」

「ホントに?恋のパワーってやつかしら」


のろけか!
自分でツッコむ。

と、


あ。



「えっ、好きな人いんの!?」




あちゃー……。
ついにバレてしまった。
まだ以外誰にも話してなかったんだけどな。


「そ、それは…」


私がうまく交わせるような言葉が見つからずまごついていると、
がこっそり耳打ちしてきた。


『菊丸って不二くんの親友だし、
 うまくいけば仲取りもってくれるんじゃない?』


……それは、新しい発想。
そうか。そうだね。そうかもしれない!


サンキュー



「……うん、いるよ」



はっきりと、言った。

菊はいささか驚いた様子だった。



「へぇ……そうなんだ」


引きつった表情でそういうと、菊は居なくなった。
……何アレ。


「なんだぁ?菊ってば」

、もしかしたらアンタ…結構罪作りかもよ」

「え?」


意味がわからない。
普段の菊だったら「え、嘘だれだれっ!?」
って食いついてくると思ったのに。
どうしたんだろ。


何か考えた風のが、口を開いた。


「アンタさ、告るつもりとかはないの」

「えぇぇ!?そんな滅相もない!」


すごい勢いで否定する私。
でもは軽くため息をついて。


「なんか、菊丸が不憫でさ」

「…え?なんでそこで菊の名前が」

「まーまーまー!」


は、頭の回転が速いから、
たまに私のわからないところで会話が展開されててちょっと悔しい。

でも…そっか。告白ね。
今の流れだったら、いけるんじゃない、とか考えてみたり…。


チャンスがあったら、言ってみようかなぁ。
なんて、すごく気楽に考えていた。




  **




案外、チャンスっていうのはすぐにやってくるもので。


委員会の仕事が終わって帰ろうとしたとき、
外の雨に気付いて憂鬱に下駄箱の前で傘を取り出したら、
後ろから不二の声が。


さん、今帰り?」

「あ、うん!」

「僕もなんだ。途中まで一緒に行こう」


ドキンと心臓が高鳴る。
二人きりで、下校。

でもわかんない。
話の流れがそれっぽくなったらね!

なんて、逃げ道を作ってるダメな私…。


傘にパタパタと雨粒が当たる音を聞きながら、歩き出す。


「雨ってなんかユウウツ」

「そうだね。でもお陰で部活もないし、
 今日は家でゆっくりできそうかな」

「そっかーテニス部忙しいもんね」


テニス部っていうと、週5以上平気で活動してるイメージ。
さすが全国まで行く強豪だよね。


「家に帰ると疲れてすぐ寝ちゃうんだよね」

「何言ってるの、あんな成績優秀なのに」

「BGMがなかったら本当に寝ちゃってると思うよ」


なんて言いながら不二は笑った。

そっか、曲流しながら勉強や宿題やってるんだ。
同じ瞬間に、同じ歌を聞いてることとかもあるのかな?


「でもさ、勉強しながらじゃ歌詞頭に入らなくない?
 私、曲も好きだけどやっぱり歌詞が好きだな〜」

「そうだね、『Can't even cry』は曲より歌詞で好きになったな」

「へー、やっぱり!切ないよねー。きゅんとくるよね!」


そうだね、って、
笑う不二がとても優しくて。



「不二って、好きな人とかいるの?」



わぁ。


聞いちゃった聞いちゃった。
でも割と自然の流れだったよね?
最近仲良いし、それくらい聞いても変じゃないよね、うん。


と、不二は。


「ふふっ、あの歌詞みたいな素敵な恋が出来たらいいとは思うよ」


ん、はぐらかされた?

…考えすぎかな。
私が意識しすぎなのかも。


「そういえば今日、ラジオの日だね」

「あ、そういえばそうだ!楽しみ〜」


不思議だね。
憂鬱だったはずの雨も、
二人で歩いてるだけで
いつの間にかこんな幸せになってる。

不二がいつもの柔らかい声で言う。


「たしか『Can't even cry』のカップリング曲は
 雨の日の歌だったね」

「そうそう!私あのフレーズ好き。
 “2つの傘が 寄っては離れて”」



はっとした。

それはまさに、今のこの状況のようで。


そしてこの歌詞の続きはこう。



“そしていつの間にか 1つになる”。



頭の中で、ポップ調のメロディーが流れ続ける。
歌と、雨音と、それだけ。
それ以外はとても静かで。

これは、チャンスだと思った。



「不二、あのさ!」



考えるより前に、口が動き出していた。










  * * *












「あ、じゃん!」


遠くからバタバタと菊が走ってきた。
元気よく水が跳ねる。


「何やってんのこんなとこで」

「ま、人生色々あるじゃん」


適当なこといってはぐらかそうとした。
今の私には、考える余裕がない。
今の私どんな顔してるんだろっていうのだけが気になって、
そっちに気を遣ってたら言葉にまで気が回らない。


「何かあったの」

「別に」


クスクスと笑いながら、歩き始めた。
ほっぺを一回上に持ち上げたら、それ以降下りてこない。
顔の筋肉が固まっちゃったみたいだ。


「良いこと?悪いこと?」

「だから別に何もないって!どうしちゃったの菊」


ん?って首を傾げて見せた。
いつもの私、こんなことしたっけ。
平常心って案外難しい。

傘と雨が、会話の邪魔をする。
大きな声で、半ば叫ぶように。



「オレ、のこと好きなんだよ。だから気になるんだよ!」


「―――」



なんて、唐突な。
なんて、偶然な。

一日にこんなことが、2回も。


笑えないよね。



「……ごめん」


「そっ…か。うん、ごめん。なんか、オレも…うん」



動揺してるのが、伝わってきて。
さっきの自分は、どうだったんだろうって考える。


「突然で、びっくりだったよね。ごめん。
 あ、オレ、何やってんだろ…ホント」


顔を伏せているのは、悟らせないためだった、気付いた。
瞬きの回数がやたら多いもんで、わかってしまったけれど。

チクンチクン。
心臓が痛い。


「じゃあ一個だけ教えて」


濡れた瞳で、でも笑顔を作りながら、菊は聞いてきた。



「不二と、付き合ってるの?」


「―――」



そっか。
菊はそんな勘違いをしてたんだ。
だから昼間、あんな態度を。

……。


いたずらみたいに、どう思う?って聞き返した。
そんな、意地悪なことを。


できれば、うんとか言ってみたかったよね。

でもそれは、無くて。




「ううん。付き合ってないよ」




事実だけを伝えた。
私の気持ちはひとまず、置いといて。

少し沈黙があってから、菊は口を開いた。



「そっか。いい友達なんだね」



そう言って、寂しそうに笑った。
私も、苦笑交じりながら、笑顔を見せた。







ど。






――――――――――。






「いい友達、かなぁ。…そう見えた?」

「え?」


ぽたぽた、と。


「それだけでも、嬉しいや…」


傘を差しているのに
私の目の前には

雨。



「え、泣いてんの!?」

「菊……ッ!」


傘を掴んでいない手で目元を拭う。



「私ね…不二のことが、好きなんだ」

「………ウン」

「好きな人がいるっていったの、不二のことなんだ」

「そう…なんだ。ん、そっかなって思ってた」


菊にも、辛い話。
私も、辛くて。

二人とも。


「でも…フラれちゃったの。フラれちゃったんだぁ…」


必要がないのに、
2回も繰り返してしまった。
悲しかったから、言いたかった。


「……そっ、か」

「うん……」


ザァザァ。

雨の音に、少しだけ感謝。


そうでもなかったら、静かすぎて、
息苦しくってやってられないよ。


「ごめん、オレ変なこと聞いて…」


私は首を横に振った。

菊に気を遣ったとか、
黙ってると惨めだから、とかじゃない。
純粋に否定したんだ。


「ちょっと、嬉しかった」

「え?」



それは、ずっと願っていたこと。

たった一つって、どれだけ難しいか。
それは身を以って体験してきた。
確かにそうなれたら素敵だけれど、
それには夢は抱いても期待していなくて。

だからさ、
たくさんの中の一つでもいいから。


アナタの中の一つでありたい。
ずっとそう思ってやってきた。

だから。



「『いい友達』ってさ、特別の一つに入ってるよね?」



ぽたぽた。

ぽたぽた。


水溜りが、出来ていく。


外は大降り。



そのとき、風が動いて。


ぎゅっと。




「………菊?」

「ゴメン。今だけ許して」



頭にぱたぱたと、滴が降り注ぐ。
だけどそれは微かなことで。

菊の体の大きさを知った。


地面に落ちた二つの傘。

二人の間に不自然に挟まれた鞄。


腕の中、私は

動けない。



「悔しい。が泣かなきゃいけないなんて」


何、言ってるの菊。

本当は菊だって今泣きたいはずじゃない?
そうしてるのは、
私なんだよ?


「でもオレには…不二の代わりは出来ない」


最後の方、声が掠れてた。


驚いて一度は引っ込んだ涙が、
また溶け出したようにあふれ出す。


「菊は菊だよぉ…」


代わりなんて、求めてない。


「そんなこと、言わないで」


なんでだろう。
菊は菊で、こんなにいい人なのに。
話してても気が合うし。
一緒に居ても楽しい。

それなのに…どうして私は不二じゃなきゃいけないんだろう。
私は不二が好きなんだろう。
不二を好きになったんだろう。



「……ゴメン」

「ううん。…アリガト」




びしょぬれになっていく私たち。


外は、大降り。

まだ止みそうにない。


ザァザァと降り注ぐ雨だけが、私たちの声を掻き消していた。





なんて切ない、Can't even cry...

今夜は笑えそうにないね。






















本命の子とのことで「いい友達なんだね」
言われたらどうなるか、と思って。笑
2007年バレンタイン直後に書き始めてようやく完成っていう。

不二が好きになる歌ってどんなか想像つかないw
でも実は『Can't even cry』は存在する。(作成中)

『傷つくこともできない』イメージで。
言葉の意味とのパラドクスを楽しめばいいと思う。

この話まだ修正の余地があるな。。


2010/01/20